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我が国企業の経営課題と経営について考える~その2.コンプライアンス経営と従業員の意識改革が必要
MMC総研 代表 小柳勝二郎
経済のグローバル化により企業経営のあり方が大きく変わりつつあります。マーケットが広がり、規制緩和も進み、企業の活動も自由性が高まり、チャンスを活かすことができれば比較的短い年数で社会から評価される企業になる可能性がある反面、社会から批判されるような出来事を引き起こすと企業の存亡にかかわる危機に直面することになります。
企業が社会から批判される問題を起こさないためには、コンプライアンス経営を自社やグループ企業全体に徹底していかなければなりません。
コンプライアンスという言葉は狭義、広義の捉え方があります。狭議としては「法令遵守」。企業としては当然守るべき事柄です。広義の捉え方は、法令遵守は当然として「企業内の諸規則」「経営理念」「社会的規範」等を遵守する経営と理解されています。これからは当然、広義の視点に立った経営の考え方が求められることになります。
企業の不祥事は、以前ほど報道されなくなりましたが、今でも新聞、テレビ等でとりあげられています。
不祥事を起こさない経営をするということは、企業の収益・競争力を高めていく上での基本的な考え方であり、最低条件であるため会社は従業員に機会あるごとにコンプライアンス経営の考え方やとるべき行動を徹底していくことが大切です。
それを実現するためにはまず次の2点について具体的に取り組む必要があります。
①コンプライアンス経営を実施していくための体制づくり。
②従業員の仕事や生活の仕方の意識改革。
①との関連では、インターネットの普及や雇用体制の多様化、個人情報保護法の制定、社会的に不祥事は許さないとの機運が高まっていることなどで企業内の出来事が企業外に出やすくなっています。不祥事を起こしたことによる企業のダメージは計り知れないため、企業は、不祥事を起こさないための仕事の仕方やチェック機能を高めるための諸規則や組織体制をつくることです。
大企業の中には、コンプライアンスの担当部門をつくりそれに関する一切の業務を担当させる場合がありますが、多くの中小企業ではそのような人的な余力がないため経営企画室や人事部、総務部、役員室等が兼務でコンプライアンス業務を担当するケースも多くみられます。
コンプライアンス経営をどのように企業に徹底していくかが大事になりますので組織的にその体制作りをすることになります。担当部門の業務としては、コンプライアンス委員会あるいは企業倫理委員会、CSR(corporate social responsibility)委員会等会社独自の委員会名称を決め、委員会のトップやメンバーを決めて、どのようにしてコンプライアンス経営を実現していくかを明確にするとともに問題が発生した場合の手順や対応の仕方を検討することになります。委員会のトップはコンプライアンス経営の重要性をよく理解し、従業員から信頼されるトップ層、例えば、副社長、専務、常務クラスなどがよいでしょう。会社組織の代表者は代表取締役社長ですので重要な問題については最終的に社長に報告されます。
委員会で検討すべき内容は、経営理念、経営方針、倫理綱領、行動指針(基準)、等があります。この種の規定がない企業は改めて作成することになります。すでにある企業は経営環境の変化にマッチした内容であるか否か検討する必要があります。コンプライアンス経営をしていくためには各部門の役割分担を明確にしておかなければなりません。大企業では監査部門や法務部門も関係してきますが組織のあり方は自社にあった組織体制で臨み、有効に機能させることが大切です。
企業のビジネスは、いろいろな問題が起きます。明らかに法令に違反していることであれば、良識ある企業、従業員はビジネス展開は中止すると思いますが、大丈夫だと思うが何となく気になる、ひょっとすると問題になる可能性があるなど、グレーゾーンの仕事はよくあります。その場合に、各人は、まず、企業から与えられた「業務心意」とか「倫理心意」等により、①仕事の内容が法令・社内諸規則に触れていないか②家族や同僚に自信を持って説明できるか③第三者が知ったときどのように感じるか、等を自分でまず冷静に考えて仕事に取り組むことが必要です。
それを自分の思い込みでやってしまうと後に問題になることがよくあります。トップ層が企業業績をよく見せようとして粉飾決算をするなど、従業員ではなくトップ層が問題を起こす場合もあります。
不祥事は自分のためとか会社のためとか、知らなかったとか当事者の言い分はいろいろありますが、そのようなことは社会的に通用しないと言ってよいでしょう。取引のある業者から持ち込まれた話や上司等から指示された話で問題がありそうだと思ったら担当部門に相談する。また影響が大きいような問題についてはコンプライアンス委員会にかけて検討してもらうなど、事柄の内容に応じた対応の仕方を社内的に明確にしておくことが大切です。多くの企業は相談窓口を用意していますので、気になるような問題であればまずそこに相談することがよいでしょう。
②は企業倫理についての意識を変えて効率よく働いてもらうことです。かっては、企業の不祥事が多発した時期があり、その影響で会社が倒産するなど企業は社会から厳しい制裁を受けましたことを受けて最近は多くの企業でそれへの対応策をとっています。不祥事は、企業で働く人が起こすわけですから、その人達の意識が変わらなければ、無くならないということになります。
企業は①に述べたような組織や倫理規程、倫理綱領、行動基準などをつくりますが、それを自社の従業員のみならずグループ企業の従業員がしっかり理解して業務を遂行してくれないと効果が上がらないため、それを理解し、実際の行動に生かした仕事をしてもらわなければなりません。その教育をどのようにするかということが問題になります。会社の設立に当たっての経営理念や経営方針、倫理綱領、行動基準を階層に応じた内容で教育していく必要があります。部門や職種によって特に気をつける点がありますので各部門や職種別に研修をする企業もあります。
不祥事は諸規則・制度を整備し、教育することである程度防止できますが、最後は各個人のインテグリテイ(正直、誠実性、品格)にかかってきます。企業は、全従業員にコンプライアンスの重要性を教育し、不祥事を起こさないという意識を強く持った風土をつくっていくことが大切です。社会から信頼されることが生産性や収益向上にとって大変重要です。