インフォメーション

労働あ・ら・かると

新卒の就活・会社説明会3月解禁の車中にて想う

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 今年の3月1日の東京都内の交通機関の車両内の光景は、日曜にもかかわらずいつもの家族連れや買物姿の方々とは異なり、リクルートスーツに身を固めたシュウカツセイ(就職活動学生)の姿があふれていました。
 日本経済団体連合会の新しい「採用選考に関する指針」および「同手引き」によって、今年(2016年度入社の採用選考)から、採用選考活動の早期開始を自粛し、採用活動のうち「広報活動」(会社説明会などの実施)は、「卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降」とされたことに起因しての現象光景です。
 大学生の就職活動において求人企業を知る手段が、「紙・誌」の時代から「Web」の時代に変わって久しいです。また、「紙・誌」の時代には大学において開催された会社説明会に加えて、当時あった「指定校制」への批判を意識してか、大会場に求人企業を集めたイベントが開催されるようになり、就活生の方々が卒業予定大学のブランドにかかわりなく、パソコンの画面ではない新卒求人情報をまとめて(一見効率的に)得ることができるようになってからも、ずいぶん経ったように思います。

 採用担当の方々には、「少子高齢化社会を背景に『採用難の時代』が訪れる。」と申し上げる筆者ですが、一方で大卒就活生には「少子高齢化でも、大学の卒業生の絶対数はそう減少していない。文部科学省の『学校基本調査報告書』を見れば、平成26年度大学数は781校、学部生総数は約255万人、10年前の平成16年度は709校約251万人とだったので、競争相手の数はちっとも減っていないでむしろ微増していることが判る。」とも、申し上げています。
 けして聞き耳を立てたわけではありませんが、3月第1週の電車の中で漏れ聞こえてくる就活生同士の会話の中で気になったのが「あんなにたくさんの人が就職活動をしていると思うと、気分が滅入る。」という言葉です。
 「紙・誌」主体の情報収集時代には、姿として見える競争相手の数は大学の大教室の収容人数や、とある会社の説明会(1か所)に集まった人数で、せいぜい数百人だったものが、「Web」の時代になって画面を見ている分には、競争相手の姿は全く見えず、しかし大規模な就職イベント会場には延べ数万人が来場するわけで、その落差もあって圧倒されてしまう心理も理解できなくはありません。
 これで実際の選考時期になり、多くの企業に挑戦しても続々と「お祈りメール(不採用の通知の最後に『益々のご活躍をお祈り申し上げております。』と締めくくられていることからこのように言うそうです。)」を受信するようになった場合に、少なくない人びとが憂鬱状態に陥るのは、何とかならないものだろうか、と想いを巡らせてしまいます。

 ○○ナビといった求人情報提供がなければ成り立たない現在の新卒就職活動においては、それらのビジネスは民間企業とはいえ「就職活動のインフラ」という公器と化していると思います。
 別の視点でみると、進化した「Web」は、単なる情報提供の枠を遙かに越えて「マッチング機能」を装備することができます。ということは「職業紹介」の範疇でもあるわけで、多くのナビ型求人情報提供業が、厚生労働大臣による職業紹介事業許可を取得していることは当然の帰結でもありますが、そうなると「適格紹介(職業安定法第5条の7)」の努力義務(公共職業安定所及び職業紹介事業者は、求職者に対しては、その能力に適合する職業を紹介し、求人者に対しては、その雇用条件に適合する求職者を紹介するように努めなければならない。)を果たしているのだろうか?という疑念も湧いてきます。

 「速く安価に大量に」情報伝達ができるようになったWeb機能が、「誰でも挙手が出来る時代」を到来させたことは間違いありませんが、「職業紹介」の観点では、単に参加者の数を煽るだけの展開は、一見公平に見えてもそれだけ「がっかりさせる数」を増やしている側面もあることを忘れてはなりません。
 採用選考活動は公正でなければいけませんが、「一見公平」に見えて落胆者を増やす現象を回避するためには、就活生を単なる候補者データとして見るのではなく、職業紹介ならではの「相談・助言機能」が希薄にならないようにする視点が、ナビ型求人情報提供事業者に求められているように思います。「人材」はモノではありません。「中古車でも住宅でも結婚式場でも『人材』でも『あっせん』することは同じ。」という発想を排し、「あっせん仲介の付加価値は助言機能」という観点が必要です。
 もちろん求人企業の採用担当者の方々も、履歴書の数を集めることに汲々とするのではなく、ワークライフバランスを考慮しての人事制度などを設計して説明する等、自社ならでの特色を活かしたメッセージを発していただきたいですし、日本経団連の指針の最後には「多様な採用選考機会の提供(通年採用等の実施)に努める。」とあることも忘れないでいてほしいと思います。

 そして、何より今こそ大学のキャリアセンターの就職相談員の方々(「無料職業紹介」の範疇に入ります。)の、溢れる情報に振り回されない「相談助言機能」が期待されていると考えます。
 乱暴な言い方に聞こえるかもしれませんが、大学受験においては、模擬試験の点数であったり、先輩の進学動向によって挑戦先を決めた記憶を、就活生の方は是非思い出して、在籍大学のキャリアセンターの助言に耳を傾けていただきたいと思います。

注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)