労働あ・ら・かると
社内の膿(うみ)は先代が元気なうちに出しておこう
社会保険労務士 川越雄一
会社は多かれ少なかれ将来問題化しそうな膿を抱えているものです。それでも、先代が元気なうちは良くも悪くも抑えが利いているので表面化しないのですが、そうでなくなると従業員の不満は一気に噴き出します。
それを防ぐには、先代が元気なうちに、問題化しそうな膿を認識し、あらかじめ出しておくことが必要です。
1.今までは何とかなっていたものの
「今まで何もなかった」「従業員は理解している」。
多くの経営者は少なからずこのような意識をお持ちではないでしょうか。特に創業者だとなおさらです。しかし、実のところは……。
●合法的であるかのような違法労務
令和の今はともかく、昭和の時代は社会も少々の法律違反に寛容だったと思います。それどころか、残業代を払わないことを武勇伝のように豪語する経営者もいたくらいです。特に、出入りの営業マンや銀行マンから「うちは残業代なんかないですよ」などと聞けば、「うちも良いんじゃないか」と、残業代を払わないことが合法的であるかのように考える経営者もいました。
●他社がやっていることが正しいとは限らない
たとえば「残業代30時間分で打ち切り」「課長にして残業代なし」など、他社でやっていると聞けば何となく安心するものです。特に同業者だとなおさらです。しかし、すべてのことが労働基準監督署の調査によって合法・違法の判断がされているわけではありません。ただ単にやっているだけのことも多いものです。
●先代の抑えで保たれるバランス
乱暴な言い方ですが、車の運転と同じで労働関係の法律を100%守っている会社はないのではないでしょうか。しかし、会社には、良くも悪くもバランスが働きます。従業員は会社に不満をぶちまけて居づらくなるより、少々のことは我慢して安定した雇用を得たほうが得だと考えるというバランスです。そのバランスは先代の抑えでうまく保たれています。
2.先代が弱ると不満が一気に噴き出しやすい
仮に違法なことであっても、先代が元気なうちは抑えも利き不満として表面化しにくいものです。しかし、先代が弱ると、今までの不満が一気に噴き出しやすくなります。
●抑えが外れる
従業員というのは社内の力関係をよく見ているものです。表向きはともかく、誰に従っておけば安泰なのか敏感です。先代というのは迫力がありますし、不満はあっても面と向かって堂々と異を唱える従業員はいません。しかし、先代が一旦弱るとその関係は微妙に変化して抑えが外れるのです。こうなると、遠慮なく会社の落ち度をついてくるようになります。
●これまでの不満は倍返し
これまでの法律違反は時の流れとともに帳消しになっているわけではありません。先代の抑えも利いて表面化しなかっただけの話です。代替わり時というのは従業員の気持ちが変わる時でもありますから、溜まりにたまった不満は一気に噴き出して倍返しです。先代が元気な頃は、敬うように接してくれていた従業員が……。
●標的にされやすい後継者
中小企業の多くは子が後継者となりますが、先代ほどの迫力はありません。また、今は少子化ということもあり、実子ではなく娘婿が後継者となることも多くなっています。そうなりますと、社内のパワーバランスは先代の頃と明らかに違ってくるわけですから、より不満の標的にされやすいのです。従業員の在職中はともかく退職後はもっと深刻です。
3.先代が元気なうちにこれだけはやっておく
仮に、残業代未払いなどが問題化したとしても、先代が元気なうちなら何とか収まります。というか、先代が元気なうちに問題化しそうな膿は出しておくべきなのです。
●自社の現状を客観的に認識する
あるべき姿(法律)と現状のギャップが問題点ですから、まずは自社の現状を客観的に認識する必要があります。そして、できるだけあるべき姿に近づけようとする姿勢を示します。ここで注意すべきは先代と同じような対応は通じないということです。もちろん、「業界の常識」も通じませんから、同業者の話はほどほどに聞いておけば十分です。
●どうせなら従業員の在職中にハッキリさせる
先代が弱ったとしても、在職中であれば従業員も極端に下手なことはできません。しかし、退職後は遠慮もなくなり最悪のことになることは容易に想像できます。ですから問題となりそうな膿は在職中に出しておきます。仮に一時的にゴタゴタしたとしても退職後の比ではありません。特に残業代の問題はキレイにしておくべきです。
●詫びるべきは詫びる
これからキチンとしようと思っても「じゃあ、今まではどうだったのですか」と反論されないかと心配です。しかし、ここは詫びるしかありません。「今までは少々あいまいな点もあったけど、これからはキチンとします」と頭を下げれば何とかなります。まして、バックに先代がいれば、従業員もそう下手なことはできないはずです。
今までそうでもなかった会社が、代替わりを機にゴタゴタしてしまうことはよくある話です。ですから代替わりはしても、まだ先代が元気なうちに、将来ゴタゴタのもとになりそうな膿は出しておくことが必要なのです。