労働あ・ら・かると
新入社員を潰しやすい3つの問題初動
社会保険労務士 川越 雄一
採用難のなか、せっかく採用できた新入社員をあっという間に潰してしまうことはよくある話です。
その原因にはいろいろあると思いますが、会社の初動、つまり採用における初期段階の行動に問題がある場合も多いものです。
問題として考えられるのは主に、場当たり的な採用時の手続き、期待のかけ過ぎ、そして、アドバイスの押し売りです。
1.場当たり的な採用時の手続き
採用時に提出してもらう書類の依頼など、採用時の手続きは意外にも新入社員との信頼を築くか、あるいは損ねるかの大きなポイントです。
- 採用時の手続きを場当たり的に行う
人を採用するとなれば、社会保険や雇用保険の加入など、多くの手続きが必要です。また、入社誓約書、賃金口座振込同意書、場合によっては身元保証書など多くの提出書類もあります。
そのような提出書類を採用後に、その都度「あれを出して」などと場当たり的に依頼している会社も少なくありません。新入社員からは「なんで一度にまとめて言ってくれないのか」と、不信感を持たれやすくなります。
- 真面目な人ほど不信感を持ちやすい
中途採用の場合は、どうしても前職と比較されやすいものです。前職がいい加減な会社ならまだしも、それなりの会社であれば採用手続きはキチンとしていたでしょうし、新入社員にしてみれば良くも悪くもそれが普通の会社だと考えます。ですから、提出書類ひとつでも会社の場当たり的な対応に、真面目な人ほど不信感を持ちやすいのです。
- 提出すべき書類、提出期限をリストにして渡す
真面目な人ほど会社のキチンとした対応を好みます。具体的にわかりやすいのは、提出すべき書類、提出期限をリストにして採用日前に渡すのです。これで何を準備すればいいのか一目瞭然であり安心するのです。特に、入社誓約書や身元保証書など何となく提出しにくいものほど事前に告知しておくべきです。
2.最初から期待をかけ過ぎる
じっくり育てなくてはならないとわかっていても、経験者だったりすると、期待もあって知らず知らずのうちにプレッシャーをかけているものです。
- 「できるだろう」を前提にしてしまう
前任者が退職したことによる補充採用の場合は、どうしても経験者優遇の採用になります。そして、履歴書や職務経歴書に書かれた職歴を見れば、今日からでも前任者同様に仕事をしてもらえそうな錯覚を起こしてしまいます。ですから、「これくらいは『できるだろう』」を前提にした対応をしてしまうのです。
- 前任者からの引き継ぎはなされていないに等しい
多くの場合は、退職していく前任者との間で業務の引き継ぎが行われますが、会社に不満があって辞めていく場合の引き継ぎにはさほど期待できません。とりあえず義務的に引き継ぎをしてくれるものの、その多くは会社の裏事情など裏の引き継ぎが中心になりやすいものです。つまり、本来の引き継ぎはなされていないに等しいのです。
- 未経験者を前提に育てる
たとえ経理や営業の経験があったとしても、自社で即仕事ができるとは限りません。それは、各社ごとに事業内容・方針、組織風土、業務の進め方などが違うからです。ですから、仮に経験者だったとしても、未経験者を採用したつもりで、自社事業の概要など、基本的なことからじっくりと教え、育てていくしかないのです。
3.アドバイスの押し売り
新入社員にアドバイスするのは良いことですが、あちらこちらから、それぞれの立場で好き勝手に言われると、押し売りとなり混乱してしまうこともあります。
- 良かれと思って.あちらこちらからアドバイス
新入社員にとって新たな会社というのは不安なものです。そのようなときに、「これは、こうしたらいいよ」なとど声をかけていただくのはありがたいものです。しかし、新入社員の担当する仕事を十分理解しておらず、ただ単に激励の意味を込めて自分の感覚でアドバイスされるのは考えものです。
- 船頭が多く混乱することも
新入社員から見れば、周りはみんな先輩ですからアドバイスは貴重です。ただ、いろいろな立場の人が自分の立場や感覚でアドバイスしますと受ける側は混乱します。「いったい誰の言うことを聞いておけばいいのか」と。もちろん、みんな新入社員を一日も早く一人前にしたいのでしょうが、ありがたさも度を過ぎると、ありがた迷惑ということにもなります。
- 指揮命令系統を一本化しておく
もちろん、あちらこちらからのアドバイスを取捨選択して理解すれば良いのですが、入社当初にそのような余裕はありません。ですから、指示命令系統はできるだけ一本化しておいたほうが良いです。また、誰が何をどのように教えるかということを、あらかじめ社内で意見調整しておくことは重要です。
労働条件はそう悪くないのに、新入社員を採用後早々に潰してしまい辞められる会社は少なくありません。このような場合は会社の初動に問題がないかを今一度確認してみてはどうでしょうか。意外にも良かれと思ってやっていることが大きな問題だったりするものです。