労働あ・ら・かると
中小企業の評価制度は“回転ずし”に学べ
社会保険労務士 川越 雄一
回らないすし屋さんは、チョイト敷居が高いのですが、くるくると回るほうのすし屋さんは気軽に行けて良いものです。
ところで、この回転ずしには、中小企業の評価制度を考えるうえで、いくつも学ぶべき点があります。私は、これを活かした回転ずし方式評価制度を提唱していますが、中小企業ではこれでも十分回ります。
1.なぜ小さな会社の評価制度は回りにくいのか
「大金を払って立派な評価制度を作ってもらったものの……」という会社は少なくありません。では、なぜこのようなことになりやすいのでしょうか。
●身の丈に合わない制度を導入してしまう
仕方のないことかしれませんが、世の中に出回っている評価制度の指南書や、それをビジネスにしているコンサルタントの多くは、大手や中堅企業の制度を前提としています。もちろん、中小企業向けとは冠してあるのですが……。それでも、見栄えのするプレゼンテーション資料に魅せられて、身の丈に合わない制度を作成・導入してしまっているのです。
●評価のポイントが見えにくい
コンサルタントから、導入時に説明を聞いたときは分かったつもりでも、実際にこれを使って評価する段階では、何をどう評価すれば良いのか分からないこともあります。そもそも、評価をされる側の従業員に「何をしたらどうなる」という評価のポイントが見えにくいのです。ちょうど、走り高跳びでバーが見えにくいのと同じことです。
●どうしても恣意(しい)的になりやすい
人が人を評価するというのは難しいものです。たとえ公正に評価しようとしても感情が絡みます。平たく言えば好き嫌い、相性です。また、直近の評価が評価期間全体の評価とされやすくなります。さらに、評価者と評価される人が近いぶん、人間関係の悪化を恐れ、無難に「普通」評価となりやすいものです。
2.回転ずしから学ぶ3つのポイント
最近の回転ずしは、タブレット端末で注文するなど、以前と違って進化している部分もありますが、基本的なところは同じであり、評価制度に活用できるポイントがあります。
●精算が簡単であること
回転ずしの代金精算は、食事が済んだら、お皿の種類と枚数を計算してお勘定が終了です。つまり、「何をどれだけ食べたからいくら」というように精算が簡単です。食事中であってもテーブルに積まれたお皿を見れば、だいたいどの程度の代金になっているのかリアルタイムで分かります。評価制度においては、「何をしたらどうなる」というルールに活用できます。
●メニュー選択の自由度が高い
回転ずしのメニューは実に多いですね。客の好みに合わせてだんだんとメニューが増えています。ですから、客はその中から自分の食べたいものを食べたいだけ選択できます。評価制度においては、会社が準備した評価メニューを自由に選択して挑戦するルールに活用できます。努力をすれば努力をしたぶん報われることになります。
●支払いに納得感があること
回転ずしの代金は、すべてお皿の色で決められています。4種類くらいあると思いますが、あとは枚数を掛けるだけです。ですから支払いの納得感は半端ないのです。評価制度においては、最も重要である、評価された従業員の納得感を得やすいルールに活用できます。「何で私が……」ではなく「だから私は……」と感じてもらうことが重要です。
3.例えばこうやって評価制度に活かす
回転ずしのしくみを評価制度に活用した場合に、一つの評価基準として考えられるのが、資格取得を見えるカタチで評価に反映させる制度です。
●外部の資格・検定制度を活用する
世の中には星の数ほど資格・検定の類が存在します。その中で
おすすめは、中央職業能力開発協会が実施するビジネスキャリア検定です。(https://www.javada.or.jp/jigyou/gino/business/index.html)
事務系から生産系まで幅広く、1~3級の等級もあります。この中から会社に必要なものをリストアップしてメニューとします。
公的機関が実施するものなので、社会的にも社内的にも信頼感があります。
●役職や昇格資格要件の一つとする
例えば、「課長になるにはビジネスキャリア検定●●の2級以上を資格要件とする」「2等級昇格にはビジネスキャリア検定●●の1級以上を資格要件とする」というようなルールです。もちろん、資格取得がすべてではないと思います。しかし、一つの要素にすることで、役職登用や昇格が公正となり、社内の納得感は高まります。
●資格に応じた手当で報いる
「何を取得したら手当がいくら」というもので非常に分かりやすいです。資格・検定の必要度などから手当額を決めます。回転ずしでいうところのお皿の色を決めます。それなりの資格を取得するには、それ相応の努力も必要ですからそれに報いるのです。もちろん、役職登用や昇格で報いるのですが、やはり手当に反映させると納得感が違います。
回転ずしにおける精算の簡単さ、メニュー選択の自由度、そして支払いの納得感が評価制度の肝(きも)なのです。
ということで、今日あたり、ちょっとつまんでみてはどうでしょう。