労働あ・ら・かると
どうなる21卒採用
就職アナリスト 夏目 孝吉
■21年春大卒の採用活動が3月1日からスタートした。しかし、今年の採用活動は、これまでとまったく様子が異なることになった。年明けとともに新型コロナウイルス汚染の拡大で日本経済は破綻寸前、多くの企業は、採用どころか企業経営そのものの見通しが立たなくなったからだ。その動きは、感染拡大とともに大きくなり、2月中旬には、リクナビ、マイナビなど就職情報会社の合同説明会が相次いで中止され、大学の学内合同説明会もすべて中止となった。こうした採用環境激変の中で企業の採用活動や学生たちの就活には、予想外の変化が現れている。その変化は、当面する企業の採用活動の混乱だけでなく今後の新卒採用のあり方にも大きな変化をもたらすものもある。
今後については、今回のコロナ汚染がいつ終息するかが見えない現在、軽々に論じられないので、ここでは、企業が、当面する採用活動をどのように回避しているのかを取り上げてみよう。
①企業説明会はオンラインで代替
オンラインで会社説明会を配信する企業や就職サイトは数年前からあったが、今回のコロナ汚染で一気に導入する企業が増えた。学生は自分のPCかスマホで、いつでもどこからでも参加できるからコロナ汚染対策として万全だ。その動きは、例えば大手損保会社のように全国各地で開催予定だった会社説明会を中止し、3月中旬からホームページにおいて会社紹介、内定者トークなどを紹介する動画を頻繁に配信している。もちろん、企業と学生との質疑応答もチャット機能を使ってコミュニケーションをとることができる。だが問題点は、ある。学生側からは、実際に会社を訪問しないと会社の雰囲気や熱意が感じられないとか、関心を持つライバル学生を観察できないといった声だ。しかし、企業の採用活動としては、企業も学生も集まることでの感染リスクがある現在、安心して活用できる代替策としてオンラインの会社説明会は多くの企業で急速に導入が広がっている。
②一次面接はオンライン、最終面接はアナログで
昨年までオンライン面接について、企業や学生の評価は低かった。しかし、コロナ汚染拡大で面接における濃厚接触回避という利便性が評価され、導入する企業が急増している。このオンライン面接は、採用活動のステージに応じていくつかのタイプがある。
第一のステージが、エントリーである。ここでは、学生に1分か2分の自己PRや志望動機などを語ってもらう動画を提出させて人物を判定する動画面接。第二のステージは、企業と学生がお互いの顔を見ながらオンラインを介して質疑応答をするライブ面接。第三のステージは、企業側が、学生の回答を掘り下げて多角的に面接をするAI面接。これは学生にPCやスマホがあれば、いつでも参加できる。
このようにオンライン面接は、3タイプに分けられる。動画面接は、1~3分程度だが、印象やインパクトなどがよくわかるという。エントリーシートの動画版といえる。これに対してライブ面接は、スカイプなどを利用して学生と質疑応答できるので、学生の満足度は高いが、多くの学生との面接は企業側の負担が増えるのが難点だ。AI面接の場合は、面接官がロボットなので学生たちの不信感が強いという。
こうしてみるとオンライン面接は二次面接までの利用にとどまり、役員面接など最終面接においては、コロナ汚染があっても企業と学生の対面型の面接が、やはり欠かせないことになるだろう。
③OB/OG訪問はウェブ上でのやりとりに限定
毎年、上位大学の学生の就活で3月の活動として目立つのは先輩訪問である。学生にとって企業の社風、働きがい、社内の雰囲気、会社の本当の魅力などは、就職先を決める大きな要素であるが、これらは、会社説明会やホームページではなかなか知ることができない。就職に熱心な学生は、その情報の多くを大学の先輩訪問によって得ている。しかし、その先輩訪問が、今回のコロナ汚染で制限・中止されるようになった。
このOB/OG訪問は、企業にとっては、志望度の高い学生との早期接触、ミスマッチの防止、優秀学生の確保となるだけに早期の採用活動を自粛している大手企業にとって特別採用ルートとして重視しているところもある。当然、学生側も企業情報収集だけでなく、就職への期待もある。それだけに今回の学生との接触中止は、早期のOB/OG訪問を奨励している企業にとって、これからの採用活動に支障が出ることになるだろう。だが、学生にとってOB/OG訪問は、企業情報の入手というだけでなく、早期接触、採用へのバイパスという期待もあるので、コロナ汚染による行動の制約が解除されれば直ちに復活するだろう。
④スケジュール ほぼ予定通りに進行
コロナ汚染がどのように治まり、終息するかが見えない現在、21卒の採用活動がどう展開するかを予測するのは難しい。すでに昨年の夏にスタートした21卒採用活動は、1月末までは順調で、多くの企業が、昨年夏のインターンシップ参加者の中から優秀学生を順次選別、2月からの面接候補者として囲い込み、早期の企業セミナーや就職イベントに参加した採用のコアとなる母集団の形成もほぼ仕上がっていた。だから多くの企業の2月からの採用活動は、個別企業の会社説明会や質問会・面接に移っていた。そのため3月の大型合同説明会や大学の学内説明会が中止・延期になっても実は、就職人気のある企業や大手企業にとっては、それほど大きな影響はないとみられている。就職情報会社ディスコの調査では、3月1日現在の就職内定率は、15.9%(昨年は13.9%)だという。どうやら企業の採用活動は、コロナ汚染の中でもオンラインなど非接触型の採用活動をすることで中断することなく、着々と進んでいるようだ。
⑤企業は採用減のおそれ、学生は再び就職氷河期か
新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済を危機に陥らせ、日本企業の採用にも深刻な影響を及ぼし始めている。国民の行動の制約ということで直接打撃を受けた旅行、運輸、観光、ホテルなどの企業は、経営再建を見直す中で採用計画が縮小され、中小企業などは20卒の4月に入社予定の学生の内定を取り消す動きが出ている。学生優位の売り手市場という環境が一変、企業は、人材の採用計画に慎重になり、採用減、採用経費の大幅削減の動きも見えてきた。新卒採用では、従来の一括採用という採用慣行の弱点が表面化した。今後は、徐々に通年採用に移行していくのだろう。
当分、日本経済の厳しい冷え込みは避けられないが、学生にとっては就職氷河期がまたやってきたということにならなければ幸いである。