労働あ・ら・かると
新型コロナウイルス禍の中、社会人となった新入社員のみなさんへ ~よく見て調べ、読んで聞いて、記憶して欲しい~
一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二
過去例を見ない「緊急事態宣言」が日本全国に出されました。かつてない環境の中で新社会人となったみなさんは、どのような気持ちで日々過ごしていらっしゃるでしょうか?
ウィルスの感染拡大だけでなく、「一堂に会する」ことのできない状況のストレス感の蔓延の中、誰もが、この質の悪いウィルスを世界中から撲滅するには、相当な長期戦になるだろうと思っているのではないでしょうか。嬉しくはありませんが「with コロナ」の時代も想定しておいた方が良いと思う状況の中で、新入社員の皆さんにお話ししたいことがあります。
楽しみにしていた卒業旅行を断念した方もいるでしょう。春休みに故郷に戻っておじいちゃんおばあちゃんに就職の報告をしようと思っていたのにできない方もいるでしょう。内定取り消しという状況に直面してしまった方もいるでしょう。
今まで見聞きしてきた「社会人になる光景」とは全く異なる社会状況が皆さんを覆っていることと思います。
でも、めげてはいけません、在宅で入社教育を受けられる環境があれば、勤務時間外にもこのデジタル時代の技術を駆使し、この社会状況をよく見て、疑問や知らないことがあれば調べ、読んで聞いて、記憶・記録して欲しいと思います。そのことは、これから五十年近くになる(おそらくもっと長くなる方もいらっしゃるでしょう)職業生活に役立つと思うからです。
内定取り消しに遭遇してしまった方は、若手の職業紹介に強い人材会社や行政の相談窓口などに連絡を取ってみてください。
幸いにして、みなさんには多くの老人たちが使えない(苦手な)デジタルツールがあります。PC、タブレット、スマホを駆使して、外出を自粛しながら「今」を見つめることが何より将来のみなさんの役に立つと思います。
様々な情報を集める際には、「歴史的な視野」と「国際的な視野」で「今の日本」を比較しながら見たり聞いたり読んだりすることをお勧めします。
今は容易に情報収集ができる時代です。歴史が好きな人は、過去のスペイン風邪の大流行が戦争による兵士の大陸間移動によって広がってしまったことと、現在を比較して見てもいいでしょう。ヨーロッパ旅行をしたことのある方は各地でペストやコレラの鎮静を記念した像が街に建立されていたことに気づいたでしょうか。TVで「仁」の再放送をしていましたが、江戸時代の「コロリ」の様子を知ることも一考です。
また、「社会のあり様」を見るのにも良いチャンスだととらえてはどうでしょうか。日本の緊急事態宣言では、都道府県知事に大きな権限があります。ではアメリカの州知事はどうでしょうか。連邦制のドイツではどうでしょうか。軍事政権下や一党独裁の国ではどうだったでしょうか。
「歴史的な視野」と「国際的な視野」で情報を集めた上で、今を見つめれば、正確冷静に今の自分の置かれた状況をより深く理解できると思います。
もちろん身近な事柄をしっかり見つめることも大事です。
様々な日本政府の大臣発言や多くの会議で「雇用」が叫ばれているのは、リーマンショックの際に安易に解雇・人減らしをしてしまい、その後の回復期に苦労をした教訓にも見えます。こういう時こそ、自分が所属した企業が、どのような施策を「ヒト・モノ・カネ・情報」について実施しようとしているのかにも、しっかり目を凝らしておくことも必要です。
会社の仲間についても、本来なら新入社員歓迎会や先輩との飲み会で様々な交流ができ、その中でメンターを見つけ、信頼できる同僚との関係が構築されていくところですが、デジタルコミュニケーションだけでは、何とも隔靴掻痒だろうと思います。いずれそのようなリアルなコミュニケーションができる機会はあるでしょうから、今はデジタルでなければできない情報の受発信の便利さを活用して、実際に「共に働くリアル」の場面に備えるつもりで、日々を過ごしてください。
時間のある時には就職先の就業規則によく眼を通してください。一番身近な「働く契約書」なのですから、空気のようにその存在は感じなくても、「働く」にあたっての大切必要なルールブックです。
また、こういう「非日常というストレス感が蔓延している状態」には、人間の本質が見えやすくなるものです。TVに登場する政治家や専門家の言葉、SNSで飛び交う言葉の発信者を見定めるのにもいい機会です。誰が「何しろケチをつける。」言辞だけで「コメンテイター」なる仕事をし、誰がまじめに情報収集をした上で聞き手の気持ちに想いを寄せて発言しているのかもじっくり観察することが、今後の「リアルな仕事」の場面で遭遇する相手方との距離感や関係構築には役立つことでしょう。
また、「人を理解する」にあたって、その人の経歴を失礼のない範囲で知ることも有効です。新型コロナウィルス感染症対策のために集まった政府の専門家会議、諮問委員の医師、研究者の方々の経歴は、かなりWebで知ることができます。その中心にはWHOにおいて世界・アジア・アフリカを対象として多くの感染症対策に携わり、同僚の医師を対峙する感染症で亡くすという壮絶な悲しい経験を乗り越えて、ポリオ(小児麻痺)の西太平洋からの根絶に貢献し、鳥インフルエンザやSARS対策の経験がある人材、国連議長からの要請による国際的な公衆衛生危機対応タスクフォースメンバーなどが複数活躍しています。彼らの発信には相当信頼を寄せていいのではないでしょうか。
本来なら、「働き方改革」時代の働き手として登場するはずだった皆さんですが、このコロナ禍で、出鼻をくじかれたように思うかもしれません。労働政策とこの緊急宣言事態についての論考は、JILPT(労働政策研究・研修機構)所長の濱口桂一郎氏のコラム「新型コロナウイルス感染症と労働政策の未来」をお読みいただくことをお薦めしますが、自分の「働く」を主観的・客観的(鳥観図的・虫観図的)に見ることを忘れずに、「今」をよく見て調べ、読んで聞いて、記憶することは、将来必ず役立つ筈です。
5年後10年後に、みなさんが今の事態の様々な事象を「ヒト、モノ、カネ、情報」の観点、「歴史検証・国際比較」の観点での記憶・記録を思い出しながら、素敵なビジネスパーソンになって活躍していることを願ってやみません。
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)