労働あ・ら・かると
コロナ禍下での在宅ワーク、Web面接で垣間(かいま)見える格差
一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二
新型コロナウイルス感染症によって、良くも悪くも思い切りアクセルを踏んだ感のある「在宅ワーク」や「Web面接」などの浸透です。
緊急事態宣言解除後であっても、適切な治療薬やワクチンが開発されていない以上、「三密(密閉・密集・密接)」回避は必定なわけですから、筆者が日頃かかわる職業紹介業界においても、個人情報管理に充分留意しつつではありますが、「在宅ワーク」の導入が一挙に進んでいます。
職業紹介事業の許可要件の中のひとつには、「個室の設置、パーティション等での区分により、プライバシーを保護しつつ求人者又は求職者に対応することが可能である構造を有すること。」というものがあり、ということはどうしても「密閉」された個室で面談することにつながりやすいのですが、転職相談もSkypeやZoomなどの便利なソフトウェアのおかげで、プライバシーを保護しつつ「三密」を回避して実現できるようになりました。
どうしてもリアルな面談や相談を希望される人材(求職者)とのコンタクトは、連続しては30分以内として途中休憩を確保し、窓や扉を開放して換気を実施するようにということが、「業界ガイドライン」(「職業紹介事業における新型コロナ感染症拡大・再発防止ガイドライン」日本人材紹介事業協会)にも記載されています。
過日、就職活動中の大学生の方々何人かと、採用担当者何人かのお話を聞く機会がありました。
この間の、そしてまだまだ続く、新型コロナウイルス感染対策を講じながらの社会経済活動は、その様々な日程が大きく影響を受け、就職活動の手法やスケジュールもその例外ではありません。新卒の採用選考や応募もすっかり「行動変容」したことを、彼らがどのように経験しどのように受け止めているかを伺うことができるいい機会でした。
理系の学生さんの中には、応募企業を実際に訪問することは一回もなく、すべての選考が書類提出と何回ものWeb面談によって行われ、内定を取り付けた方もいらっしゃいましたので、改めて急激な時代の変化を痛感した次第です。
採用担当者の方も、技術系の採用ですと、IT技術の駆使具合も当然に選考要素に大きく占めるので、そう抵抗なく内定への手続きを進めることができたとおっしゃっていました。筆者としては、これからの行動変容の時代は、技術系職種でなくてもデジタルツールを使いこなすスキルは必要ではないか? 業界の中には、営業職採用の際に、自動車運転免許の保有の有無を参考にしている企業があるのと同じように、これからの営業のスタイルも変容するのではないかとも思わされたところです。
もっとも同じ企業であっても、文系(営業系)の採用選考の場合には、役員の方たちも「実際に会ってみないと決められんなぁ。」と言って、担当者が距離を保って密閉密接を避けた面接会場を確保するのに苦労したというお話もありました。単に面接会場だけではなく、待機する部屋も密閉密集を避ける必要があるので、一工夫が必要だった様子です。
Web面談でもリアル面談でも、定番の質問は「緊急事態宣言が出されて、どのように生活していましたか?」という導入だったそうで、応募学生さんの側も「御社は、どのような三密回避策を講じましたか?」という切り替えし質問が、そこここで見られたのも、「With CORONA」の時代ならではの就職活動の情景なのでしょう。
意外だったのは、学生さんたちの中の半分以上は「自宅で受けたWeb面接は嫌だった。」という素直な感想が聞けたことです。その理由は、女子学生を中心に「自分のプライバシーが見えてしまいそうで。」ということが圧倒的でした。理系の男子学生さんは「そういう時はバーチャル背景を貼ればいいんだよ。」とアドバイスをしていましたが、採用担当者はそんな点も見ているのでしょうね。
同じような話は、就職活動中ではない現役のビジネスパースンの方からも聞こえました。「学校も無かったので、子供がまつわりついて仕事がしにくかったし、職場の上司から、そんな家の中を覗かれているようでね。」という感想です。ダブルインカムが当たり前の時代に、夫婦それぞれがテレワークをするためには、各自個室が必要になってしまうということですと、都会の住宅事情ではなかなか難しい側面もあると思います。
筆者はマンション暮らしなので、住人たちが一斉にテレワークを始めると、今までの日常とは異なった回線混雑を感じたりもしましたが、住環境が仕事の遂行に影響が出るとなると、「持てる者はますます有利に、持てない者はますます不利に。」という事にならないかという思いも、胸を横切ります。
そもそも採用選考は、候補者本人の能力・適正について行われるべきであるというのがセオリーなわけですが、採用選考の場面だけでなく、就業後のビジネスの情景でも、単なる努力だけでは克服できない「格差」が垣間見えたような気がします。
緊急事態宣言は解除されましたが、今のタイミングを利用して第2波第3波への備えをしなければならないでしょうし、長い目で見れば、嫌ではありますがまた別のウイルスによるパンデミックが起きることに備えた社会を作らなければなりません。
「経済とはお金が回ること」と思っていたのですが、「人が移動すること、外食や購買行動という消費が経済を支えていること」がいやでもしっかり見える経験を、筆者も読者もしているように感じます。その源になる「収入」は「働くこと」で得られるのですから、改めて「働き方」を見つめ直す必要があると思います。
「住まい」と「職場」のオンオフの習慣をどう変えることが適切なのか、「見える化」してしまった克服すべき格差をどのように解消していけるのか、新たな課題も呼び起こした「コロナ禍」が進行中です。
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)