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労働あ・ら・かると

働き方改革 いろはかるた 2021

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 新年明けましておめでとうございます。
 未曽有の新型コロナ感染症禍下の昨年でしたが、読者の皆様におかれましてはどのように年を越されましたでしょうか? 筆者は「ゼロ・コロナ」は当面あり得ない覚悟を決めて2021年を過ごす思い新たに、このお正月を迎えました。
 記憶を風化させず持続することが大切だと思い、毎年同じこと繰り返して恐縮ですが、新年のご挨拶に付言して申し上げます。
 被災後10度目の正月に、未だ故郷に帰還できない大震災・原発事故被災者の方々、福島にて被曝の危険の中黙々と廃炉作業等に従事している方々、日本各地での災害に遭われた方々、世界中の戦乱や困窮の中にある人びとと熱い心で支援活動をされている方々、そして何よりこのパンデミックに対処している医療従事者の方々と社会を維持しているエッセンシャルワーカーの方々に思いを寄せながら迎えた、新年です。
 一昨年昨年に引き続き、「働き方改革 いろはかるた」をお届けいたします。
 

た 多様な形態の組み合わせが雇用管理のポイントに
 雇用・雇用類似を含めた「多様な働き方」の選択肢を提示して人材を募集し、その組み合わせで人的資源を活用した事業活動ができるかどうかが、企業の優劣・勝敗の分かれ道となる時代がやってきました。企業への要望になんでも応える人材に忠誠心を訴求し、その見返りに終身雇用の夢を提供する昭和の時代はとっくの昔に終わりを告げているのです。
 
れ 令和の時代をいかに生きるか働くか
 昭和・平成・令和の三世を見つめて、これからの生き方・働き方を改めて考えるお正月です。前半三分の一は戦争の時代だった昭和の教訓を生かし、現在の日本国憲法の下での労働関連法令の進展と変遷を顧み、次の平成という時代は、グローバル化とインターネットの普及を背景に、社会と暮らしが大きく変化し、価値観が多様化した時代だったと振り返る今、コロナ禍という未曽有のパンデミックが、良くも悪くも社会を進化させると同時に、その矛盾も急速に露呈しているように思います。これからの時代をどう創り生きていくのか、いつになく重い思考を巡らします。
 
そ そして誰もいなくなった。オフィスの光景
 コロナ禍が、テレワークを急速に進展させたことは誰もが認めることでしょう。事業「場」で働くという労働概念は、根本から再検討を強いられています。通信環境がある場所ならどこででも仕事ができるテレワークは、出産期、育児期、介護従事期の就労や、「場所」を超えた労働形態を可能とする一方、「OJT」を軸としていた人材育成手法は大きく見直す必要があるように思います。「職場の雑談で生まれるアイディア」と同じ効果がテレワークで得られるのかといった疑問も残ります。
 「事業場外みなし労働」といった概念や、「大手町で働く」といった人材派遣の広告は過去のものになるのでしょう。

つ 「机と椅子」はますます重要
 働き方改革とテレワークの普及は、「仕事の光景」を大きく変えています。でもホワイトカラー職種の仕事の多くは、その場所が「会社のオフィス」でなく「自宅の書斎」にかわろうとも、また「ワーケーション」の場でも、「デスクとPCのある光景」は変わらず、自分に合った机と椅子が、仕事の効率を改善し、すばらしい企画誕生を支えることはこれからもありそうに思います。
 もっとも昭和の写真、平成の写真を見ると、オフィスのデスクや椅子のデザインの(おそらく機能も)以前との違いや変化には驚愕しますね。
 
ね ネットにつながらない自由・権利
 ネットにつなげることができる環境が、テレワ-クに必須であるということは言うまでもありませんが、逆にいれば「どこでも仕事を強いられる」可能性も秘めているということになります。
 2016年にフランスで立法化された「つながらない権利」は、この情報化社会における働き方の変化に対する権利保護の発想として、注目に値します。日本でも、2018年2月に「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」が改定公表されており、テレワークが長時間労働を招かないための施策とされていますが、これからは労働法の根底の「場所・時間」の考え方を含めた根本的な議論が必要です。「いつでもスマホを操作していないと落ち着かない。」メンタル環境は、けして人間にとって良い環境ではないと思います。
 
な 「なるほど」と思わせる「報・連・相」「確・連・報」
 昭和のビジネス用語「報連相」ですが、働き方改革によって同時に同じ場所で仕事をする場面が減るなか、ますます重要になってきているように思います。もっとも「報連相」はもう古いという向きもいらっしゃいます。指示待ち人間とも言われるような部下からなんでもかんでも「相談」される上司としては、かなわないという情景もあるのでしょう。
 「かくれんぼう(確認、連絡、報告)」という考え方のほうが好いという話も聞いたことがあります。自分の提案を説明して上司に「確認」を求め、途中経過を「連絡」して結果の「報告」があればよし、ということなのでしょう。部下の人材の特性によってこれらを使い分けていく時代なのかもしれません。
 
ら 「楽あれば苦あり」と言うけれど
 就職氷河期世代の安定雇用化も、労働政策の重点項目のひとつになっています。氷河期世代の当事者の方々の「最初から苦ばかりで、楽など経験していない。」という言葉が聞こえるような気がしますが、再来年の令和5年3月31日までの時限の省令施行で、年齢制限求人の原則禁止の例外事項として「いわゆる就職氷河期世代に限定した求人」ができるようになっています。
 具体的には、35歳以上55歳未満(就職氷河期世代)の労働者を募集する求人で、「①安定した職業に就いていない者を対象」「②期間の定めのない労働契約を締結することを目的」「③職業に従事した経験があることを求人の条件としない」という要件を満たす求人申込みをハローワークにした場合には、ハローワークに加え、直接募集や求人広告、民間職業紹介事業者への求人申込み等の方法を併用することが可能となっていますので、就職氷河期世代で正社員雇用の機会に恵まれなかった方は、この機会を逃すことなく、このような求人を目にした場合はチャレンジしてみてください。
 
む 無期雇用と解雇法制
 労働契約法が改正になり、「無期転換ルール」が平成25年4月1日に施行されてから8年になろうとしています。そろそろその適用実態の調査研究が実施され、その効果や次の改善視点の提起が為されてよい時期です。
 未だに「日本は解雇が難しいから、無期雇用での採用には躊躇する。」という声が、経営者から聞かれることが無くなりません。厚生労働省労働基準局が設置した「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」も2年半にわたって10回開催されていますが、なかなか結論には至らなそうな印象も残ります。
 「働き方」「雇い方」の倫理品格に思いを馳せると、どのような仕組みで人材を確保し企業活動に貢献してもらうかを工夫することが重要で、すぐ解雇を考えるような事業主のところには、結局必要人材は集まらないような気もしますが、読者の皆様はどう思われますでしょうか?
 
 
う 疎まれる中高年、乞われる中高年
 現在は、希望する人が70歳まで働き続けられるようにする時代です。背景には、高齢化が進み医療や介護などの費用が増える中で、社会保障制度が維持できなくなるという危機感もあり、高齢者が働く期間を延ばすことで、支える側を増やそうという思惑も見えます。経済界の一部からは、「政府の財政悪化のつけを企業に回すのか」という声も聞こえなくはありません。
 しかし、個人差は大きいものの、体力は低下しても知力が低下していない中高年の中には、ある分野の業務に深く通じていて高い専門性を保有するとか、人生経験が豊富でひとをまとめる力があるなど、ビジネスに必要な知見や資質を維持している人材も少なくありません。そうした人材を「法律があるからやむを得ず雇う」という消極的な姿勢ではなく、積極的に活用していけるかどうかが、企業自身の人材資源活用のポイントでもあると思います。
 中高年人材の側も、過去の栄光や若い時の栄光に溺れることなく、最新のテクノロジーを学習してビジネスの要望に応える姿勢が必要な時代です。
 
 
ゐ 居丈高なマネジメントは過去のもの
 以前「雇用対策法」と呼ばれ、「労働施策総合推進法」と衣替えした法律が、今は「パワハラ防止法」とも呼ばれるようになったそうです。
 一昨年2019年5月に成立した改正労働施策総合推進法は、大企業では昨年の2020年6月から施行されており、中小企業では来年2022年4月から施行されます。罰則規定のない法律ではありますが、「企業名公表」という手法がありますので、企業は社内にパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発、相談体制整備、被害を受けた労働者へのケアや再発防止などの施策を実施しなければなりません。
 
の 能力主義から成果主義へというけれど
 日本の企業の多くは、長らく勤務年数が給与額に比例する年功序列制度を取ってきましたが、そこには「勤務年数が長ければ、企業風土により染まり能力が高まる。」という発想があったように思います。
 そもそも人間の能力というものは、それを活かせる適切な環境があってはじめて発揮できるものですし、「人材の能力」も「企業が用意できる労働環境」も時々刻々と変化し続けるものですから、本当に人材の能力が発揮できる環境をフレキシブルに用意し続けられる企業風土の実現には、経営者は相当苦心しなければならないでしょう。
 しかし、流行りのように成果主義を導入し、年功序列制度から脱却できる道筋が作れたとしても、個々の人材について短期成果に走るスタンドプレーなのかどうかを見抜き、運なのか能力発揮の結果としての成果なのかを判断するのは、並大抵のことではありませんし、チームプレーの崩壊にもつながりかねないことを忘れないでほしいものです。
 
お 温泉地でできるワーケーション
 「ワーケーション(WorkとVacationを組み合わせた造語)」という働き方も、新型コロナ感染症拡大対策として、一気に進んだ働き方の変化のひとつでしょう。
 ちょっとでも会社から離れると、部下たちがどのように仕事をしているか、うまく現場が回っているか心配なワーカホリックな昭和人材でも、旅先などから会社にリモートアクセスできる環境が整えば、必要最低限の業務をこなしつつ、並行して休暇も楽しむといった柔軟な対応ができる可能性があるように思います。
 筆者も海外に観光旅行に出かけている時、毎夜一時間だけPCを操作してメールをチェックしていると、同行者から「そんなでは休暇にならないのでは?」と同情されたことがあります。でも筆者としては「こんな便利な道具ができたから、気軽に日本を離れて海外旅行ができる。」と発想を転換していたので、仕事を全くオフにせずともスローダウンし、休暇や観光も楽しめたことを思い出します。コロナ禍でしばらくはおあずけですが。
 
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)