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TVキャスターに学ぶ「傾聴」と「相槌」そして「示唆」

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

  ここ何年もボランティアで続けているクリッピングサービスの配信記事作成仕事のため、筆者は毎朝2時間ほどPCに向かい、労働行政関連を中心にいわゆるWeb巡回をして、配信先が興味のありそうな新規掲載記事を拾い出して編集する作業が日課となっています。
  その間並行して、同様に労働関係の報道が放映されているか、TVのニュースも視聴し、情報収集をしているのですが、最近は男女二人のアナウンサー(キャスターと呼ぶほうが正しいのでしょうか?)の掛け合いの絶妙さに、思わずキーボードの手が留まってしまうことがよくあります。

  局が取材作成した原稿を正確に読むアナウンサーに比べ、キャスターと呼ばれる方たちは、報道内容について「・・・ということなのでしょうかねぇ」「どんな気持ちだったのでしょうかねぇ」といったコメントを加えてくれるので、筆者としては「この年代の方はこういう風に受け止めるのか。」と思うことも多く、また相方のキャスターの、コメント中の「ふむ。」「なるほど。」といった相槌や、「きっとこう思ったんじゃないでしょうか。」というやりとりが、なかなかほほえましくもあり和やかでもあり、朝の報道としてとても柔らかに情報が筆者の頭と心に入ってくるように思えるのです。

  産業カウンセラーやキャリアコンサルタントの資格に必須とされる「傾聴」という姿勢・手法は、自称他称人材コンサルタントと呼ばれることもある職業紹介従事者にとっても必要とされるものですが、ただひたすらに「傾聴」をしても「職業紹介」には近づけない側面もあります。
  以前にもご紹介したことがあるように思いますが、よくある人材(求職者)からのご不満の声に「求職登録に人材会社を訪問したところ、ひととおり丁寧に話は聞いてくれたのだけれど、問いかけに明確な答えはないし、何より具体的な求人について、何の提示もなかった。」というものがあります。
  職業紹介事業の目的は雇用関係の成立をあっせんすることなのですから、人材の方々の様々な思いを聴くことは必要であっても、充分でないことは自明の理です。もちろん営業ノルマのあるセールススタッフとは異なるのですから、成績欲しさに一件だけの求人案件を強引に推し進めることは避けなければなりません。必ず二通り以上の求人案件を提示しつつ、その求人への関心度合い・内容を聴くことで更に人材の心の底にある指向を理解することにもつながりながら、「単なる聞き上手」を越える言葉と心のキャッチボールによって、人材自身が自分の進路を選択するガイドに徹する人材コンサルタントが、これからも必要とされていると思います。
  「いわゆるヘッドハンター」と呼ばれる方々は、単一の求人者からの依頼を元に候補者にアプローチをするわけですから「複数案件の提示」とは無縁のように思われるかもしれませんが、長期にわたって人材との信頼関係を構築していらっしゃる方は、「この案件に応募する場合と、応募しない(=機会を深く検討しない)場合」といった複数進路を整理して提示し、内定申し出を受けた後でも「この企業にスカウトされた場合と、今の所属先に残った場合」というシミュレーションを人材と共に行い、最終的には「人生二通りには生きられないのですから、最後はあなたの決断です。」と判断を求めることになると思いますので、やはり「二通り以上の選択肢を人材と一緒に考えている」ことになると思います。

  筆者が懸念するのは、最近人材紹介会社に就職した方々の中から、「どうすればいいのかのマニュアルはないのですか?」という質問があることです。単なるマニュアルに頼ったコンサルティングの大部分は、近い将来AI機能にとって代わられるという危機感はないのでしょうか。「共感しながら人材と共に考える」仕事は、まだまだ人間しかできず、AIが不得意とする領域だと思います。

  TVキャスターたちのやりとりをよく観察すると、相互信頼がある上での「傾聴」と「相槌」であり、そして決して多くはない言葉のやりとりの中に、視聴者への「示唆」が含まれていることに気づき、なんだか得した気持ちになって「早起きは三文の得」などとつぶやきながら、再びPCに向かう毎朝です。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)