インフォメーション

労働あ・ら・かると

「多様な働き方・雇い方」の時代の「多様な求人チャンネル」~労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会報告書を通読して~

般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 2017(平成29)年の改正職業安定法には、施行後五年を目途とした検討の附則がつけられていること、これに拠り「労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会」が設置され、報告書がこの7月13日にとりまとめられ、公表されていることは、先々月のこの「 労働あ・ら・かると」で述べました。
 
 改めてこの報告書を通読してみると、そこには従来の労働力需給制度の範疇にとどまらない、IT技術の進歩、一億総端末携帯時代のWeb社会の到来による、新たな求人情報提供の仕組みに注目した記述が目立ちます。
 従来から入職経路のトップは広告、次いで縁故、ハローワークと言われてきました。
 過去の職業安定法改正の一定規模以上のものとしては、1999年、2004年、2017年と行われ、それぞれに民間の職業紹介事業に大きな変化をもたらしたものでした。しかし今回の2022年3月と予想される職業安定法改正は、どうも従来の職業紹介を中心としたものではない方向で検討が進みそうです。
 研究会報告書は、求人情報提供事業や、現在の定義では求人情報提供事業に必ずしも該当しない、インターネット上に公開されている求人情報をクローリング・収集する「アグリゲーター」や、求職者や潜在求職者の情報を記載して求人企業や職業紹介事業者に対して提供し、求人企業や職業紹介事業者が求職者情報を検索しスカウトを送付する「人材データベース」、SNSを利用した、求職者、求人企業、職業紹介事業者など不特定多数の利用者が、自らの情報を開示するプラットフォームなどの、IT・Web技術の進歩によって登場した新たな求人と求職を結びつけるチャンネルについて、どのようにとらえるべきかという視点に、多くのスペースが割かれています。
 
 そもそも求人者が人材を確保するチャンネル(入職経路/新卒除く)のうち、国によるハローワークや、許可・届出制による職業紹介などを合わせても、全体の約30%であり、これら経由の動きは国として把握できているわけですが、他の経路の求人メディア・広告約30%、縁故の25%強については、その詳細な実情が十分把握でき切れていない現状があります。
 国以外の民間等の職業紹介事業は、定期的に労働局による点検が実施され、事業報告義務が課せられている上、法違反・命令違反の事実があった時には、人材(求職者・労働者)は厚生労働大臣に申告して適切な措置を求めることができると、職業安定法第48条の4に定められていますし、不適切な職業紹介については労働局や事業者団体はその相談に応じる体制があり、一定の紛争防止・求職者保護の仕組みがあると言えると筆者は考えます。しかし、そのような利用者保護の仕組みのないまま、他の入職経路を取扱い社会に提供しているビジネスについては、現状どのような実態なのか、どの様な紛争が起きているかの、国・社会レベルでの把握は十分でないとの指摘が報告書には見られます。
 
 虚偽広告・誇大広告についての禁止規定は、従来から職業安定法第65条の罰則条項に掲載されていますが、2017年の改正の際「職業紹介事業者の責務/適正な宣伝広告等に関する事項」として、告示で「職業紹介事業に関する宣伝広告の実施に当たっては、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)の趣旨に鑑みて、不当に求人者又は求職者を誘引し、合理的な選択を阻害するおそれがある不当な表示をしてはならないこと」と明記され、今日に至っています。
 筆者なりの解釈としては、従来、国(行政機関や司法機関)がその広告が虚偽である、誇大であると判断するとされてきたものが、利用者(求人者や求職者)にその判断の主導権が移ったと理解しています。
 景品表示法の趣旨(目的)はその第一条に「この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。」とされているのですから、求人情報提供サービスという役務取引に関連する表示(広告)においても、求人者求職者の誤解を呼ぶような表記は、職業紹介を利用しようとする選択を阻害することから不適切との考え方です。
 
 多様な求人ルートの時代、従来の紙の時代から、適切な求人情報提供(広告)事業者は、自主的に掲載内容を「審査」する仕組みを持っていて、今でも続いています。新聞やTVで伝えられる情報が、膨大な情報あふれるWeb上の情報よりは相対的信頼感があるのは、この「審査・編集」機能があるからではないでしょうか。
 新しい技術によって提供される「求人情報」は、これらの審査編集機能が介在しない場合もあるわけですから、まずはこれらの新顔を把握して求職者を保護し、求人者も適切な求人ルートを選択できるような道を歩むべしと、この報告書は提示しているように思えます。現在佳境に入ってきている労働政策審議会の労働力需給制度部会では、この新登場し急拡大している求人と求職を結びつけるチャンネルも含めた実勢把握と必要な規制についての結論に向けて論議が進められるものと思われます。
 
 なお、求人者の人材活用は「雇用」だけに限らず、「多様な働き方」を利用する方向が大きくクローズアップされています。「兼業・副業」や「業務委託」「請負」という人材活用方法が広がる一方で、労災保険をはじめとした「雇用される労働者」であれば保護される事項が全く適用されない就業形態の拡大と、その仲介については、この報告書では文末に数行記載されているにとどまっています。
 「法律の適用対象の縦割り」の溝に落ちてしまう人材が出現しないような政策が、次の社会的課題として重要だと筆者は考えます。

 (注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)