労働あ・ら・かると
フリーターとフリーランス
一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二
最近の人材紹介会社への求人者の依頼の中に、「フリーランスを使いたいがどうしたらよいか?」というものが見受けられ、なかには「フリーターを使いたい」と、言い間違っているのではないかと思われる問い合わせもあって、担当者を困惑させているそうです。
筆者の知っている大学生のサークルのメンバーに、「フリーターとフリーランスとの印象はどう違う?」と質問してみると、「フリーターは収入が低そうだけど、フリーランスは実力がありそうで格好いい。」という答えが返ってきました。
労働法を専攻している学生からは、「フリーターは日雇いもしくは短期有期で雇用される労働者で、都度職種が異なっていても構わない人たち、フリーランスは、雇用とは限らず請負や業務委託でも仕事をするし、特定の職種に秀でていて、場合によっては貴重な資格を保有していたりする。」という説明がありました。
重箱の隅をつつけば必ずしもそうでなはないことも指摘できるでしょうが、概ねの説明としては正しいでしょう。
フリーターを集めたいのであれば、「スポットマッチング」と呼ばれる仕組みを利用することが最適だと、若いビジネスパースンからは言われますが、その仕組みを聞けば聞くほど、筆者の頭の中に浮かぶ光景は、昭和の貧乏学生時代の頃です。
都内の某公園に行き、トラックに乗せられて地下鉄工事の道沿いに「配られ」、一晩赤い旗を振ると、「回収」されるトラックの上でバイト代と印紙のようなもの(だいぶ経過した後日、それは「日雇失業保険台紙(現在の雇用保険日雇労働被保険者手帳)」に貼るものだったと知りました。)を貰うことができる仕組みでした。
雪国からの出稼ぎの方々と貧乏学生が混載されたトラックの上での会話で忘れられないのは、30歳は年上ではないかと思われる親父さんの「手に技術があれば自動車会社の期間工になれるんだけど。」という台詞です。当時まだ若造だった筆者は「キカンコウ」という言葉が理解できないでいました。
フリーランスという響きは、技術や特技があって、組織に縛られないで生きるカッコよさを学生たちは感じるようです。TVドラマのフリーランスの外科医や麻酔医が素敵だからでしょうか。(脱線しますが、少し前の同ドラマに「派遣の看護師」が登場していましたが、フィクションですから目くじらは立てないものの、現在、看護師の医療機関への派遣は僻地と紹介予定派遣、育児休業、介護休業等の取得者の代替派遣などの業務以外は原則禁止だったと思います。また入口を開けたところに雀卓があったり、プライバシーが確保できる面談スペースが見当たらない医師紹介所は許可にはならないと思います……と言いつつ筆者は毎週名優たちの味のある演技を楽しみにしているのですが。)
閑話休題。筆者が気になるのは、「フリーランスを使いたい。」という求人者は、「日々雇用」で人材を使いたいのか、業務委託や請負という契約形態で使いたいのか、という点です。また「働き方改革実行計画」でその普及促進が謳われている「兼業・副業」が脳裏にあるのでしょうか?
少なくとも「フリーランス」という求人相談を受けた人材紹介会社は、その求人者の意図をよく聞き出し、「雇用」「請負」「(準)委任」のどの契約形態で人材を確保したいのかを整理して人材を紹介すべきでしょうし、それが副業・兼業であれば、副業・兼業の促進に関するガイドラインをよく理解して、求人者に対してそれぞれの契約形態での発注者としての責任をよく説明すべきです。そして、偽装請負の場合や、請負と称していても実態は雇用契約だと認められる場合には、その実態に応じて、労働関係法令等における使用者責任が問われることの理解を求めるべきでしょう。また働く人材に対しては、特に「雇用」ではない契約形態の場合の、労災保険不適用をはじめとしたリスクをよく理解してもらった上で、「しごとの紹介」をしなければならないと考えます。
フリーターとかフリーランスという言葉が飛び交うたびに労働基準法をはじめとした労働法が、雇用者と労働者の力関係の不均衡を見すえた上で、労働者保護の観点で制定されていることを想い起こし、「雇用でない」就労形態であっても、「働く人材の保護」を忘れてはいけないということを、今まで以上に声高に叫びたくなります。そして、そんな社会が到来しつつあるようです。
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)