労働あ・ら・かると
働き方改革 いろはかるた 2022
一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二
明けましておめでとうございます。
未曽有の新型コロナ感染症禍が続く昨年でしたが、読者の皆様におかれましてはどのように年を越されましたでしょうか?
記憶を風化させず持続することが大切だと思い、毎年同じこと繰り返して恐縮ですが、新年のご挨拶に付言して申し上げます。
被災後11度目の正月に、未だ故郷に帰還できない大震災・原発事故被災者の方々、福島にて被曝の危険の中黙々と廃炉作業等に従事している方々、日本各地での災害に遭われた方々、世界中の戦乱や困窮の中にある人びとと熱い心で支援活動をされている方々、そして何よりこのパンデミックに対処している医療従事者の方々と社会を維持しているエッセンシャルワーカーの方々に思いを寄せながら迎えた、新年です。
2019年、2020年、昨年に引き続き、「働き方改革 いろはかるた」をお届けいたします。
く 苦労した通勤ラッシュは過去のもの
「働き方改革」には「自由度の高い働く時間の設定」も必要です。
時差出勤、フレックスタイム制の一層の普及はもちろん、「裁量労働制」を労働者の酷使につながらないよう留意しながら更に使いやすくし、フレックスタイム・在宅ワーク制度の整備推進も必要です。
や やさしくきびしい労務管理
少子高齢化、労働人口の減少に目を向けない経営者の方の一部からは「そんなに甘やかしていたら仕事が回らない!」という声も聞こえます。でも、時間管理のやさしさは、反面人材に対して厳しい自己管理も求めているように思えます。零細工場で「親方があれだけ頑張っているのだから俺たち私たちも」という場面を見ると、日常のやさしさと、自分の仕事に対する厳しさの両立が見えたような気がします。
ま まゆつば広告にだまされるな
本年3月と予想される職業安定法の次回改正は、「求人情報提供」に焦点を当てたものになりそうな論議が昨年の労働政策審議会では行われました。
世の「広告」なるものが、どうしても扇情的なもの、購買心を煽るようなものが多く見られる現実はありますが、「情報公開請求」ができると明記された若者雇用促進法の規定を活用し、冷静に応募先就職先の職場情報
け 経世済民なくして経済運営なし
政治をつかさどり、経済運営に関わる方々に、改めて経済という言葉の語源となったこの「経世済民」の「世の中を治め、人々を苦しみから救済すること。」の意味を噛みしめてほしいと思います。決して格差を広げて一部の豊かな人をもっと豊かにするだけに終ってしまってはなりません。
ふ 文は人なり
1753年、フランスの博物学者・数学者・植物学者のジョルジュ・ルイ・ルクレー・ド・ビフォンの言葉だそうです。文章には書き手の人柄が表れているので、文章を見れば書き手の人となりが判るということでしたが、当時の紙に書かれた文字と比して、ネット上に飛び交う誹謗中傷の言葉を見ると憂鬱になります。でも、電子メールであっても借り物でない丁寧できちんとした言葉を見ると、少しほっとします。
こ 媚びを売る者の心底を見抜け
財源原資に眼を向けずに、国民に表面づらで媚びを売る「ばらまき」に執心な政治家。公僕であること忘れ、国民に眼を向けずに、政治家に忖度し媚びを売る行政官。これでは良い国・良い社会の実現の道のりは遠いです。
え 得手に帆を揚げられる環境作りが人材活用の道
5年前「人材ビジネス いろはかるた2017」の「出る杭は打たれる」の項で、「何しろ杭の高さを揃える」時代から「多様な働きをする杭を組み合わせる」人事マネジメントの時代になっていますと申し上げました。一方、どんなに優れた事業企画でも、時機・環境を見定めてタイミングが合わなければ結果にはつながりません。人材の得手をよく知り、帆を挙げる時期を示唆できる環境を用意することが「雇い方改革」ではないでしょうか。
て 適材適所は外部人材活用あってこそ
まだまだ発想の古い「良い人材を採用したい。」と口にする経営者の方もいらっしゃいます。「良い」とは「いつ」良いのか「どこで」良いのか「誰にとって」良いのか「何を」やらせると「良い」のか、何しろ「抱え込む」メンバーシップ型雇用は、実は時代の変化によってその「抱え込み」の約束が守れなくなっている場面を目にします。必要な人材を社外からも登用して事業を行うこと、「内部雇用」と「外部発注先」を組み合わせた事業展開がますます必要な時代です。
あ 会わずに内定Web就活
新型コロナウィルス感染症拡大は、良くも悪くも社会変革の進行を促進しました。企業訪問ができず、先輩訪問もできない中の就職活動、それでも内定を取り付けることができる人材が輩出されています。「働き方」「しごとのしかた」も大きく変わっているのですから、このWeb就活体験をビジネスの場面に大いに役立ててほしいものです。
さ 先んずれば人を制す 砂上の楼閣 さじを投げる
進化の速い時代のスピード感も大事ですが、Webならではの「だまし絵」もあると聞きます。提案されたビジネスアイディアが、砂上の楼閣なのかどうなのかを見分ける手段も先んじて入手し、簡単にさじを投げることのないよう努力を続けましょう。
き 既往症は過ぎ去った病気
減ったとは言え、「既往症」についていまだに採用面接で質問があったり、応募書類に記載を求める例が報告されています。読んで字のごとし。既に往き去った病気が今現在の職務遂行力に関連することは稀有です。病についての偏見や無知を排して、応募者に対しては「この人材にどのような働き方をしてもらうと、当社は活性化するだろうか?」という発想で選考に当たって欲しいものです。
ゆ 雪は豊作の兆し 困苦は未来への試練
雪が多い年は山に降った雪解けの水が豊富なため、多量の水を必要とする稲作には、豊作が見込まれることから朗報だと言われます。今の寒さ辛さの中、将来の豊かさを描いて耐え頑張るこの台詞が、新型コロナ感染症拡大禍の中、パンデミックを克服してウィズコロナの時代を思い描けることに例えられるといいですね。
め 目は心の鏡 マスク越しでも表情を読む
新型コロナウィルス感染症禍に対処する原則の「マスク手洗いうがいに三密回避」の普及により、働く場面でのコミュニケーションが難しくなっている面もあります。実際に会って名刺交換しての商談でも、相手のことをきちんと記憶するテクニックが必要ですし、PC画面越しの挨拶で、相手の顔を覚える努力も相当必要となってきています。
み 水は方円の器に随う 人材は企業文化に染まる
四角い器に水を入れれば水も四角い形になり、丸い器に水を入れれば水も円形になる。
転じて、人も環境や付き合う人物いかんで良くも悪くもなるということですが、これからの企業経営では器の形をスピーディーに変化させることも必要です。その時に雇用している人材へのリカレント教育もますます必要になるでしょう。
し 四十にして惑わず 四十五にして転身を試みる
経済同友会のセミナーで、サントリーホールディングスの新浪剛史社長が「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」と述べたと報道されています。「一億総活躍」「70歳まで働く」時代では、45歳は折り返し地点とも言えるでしょう。「45歳になったら会社を辞めろ」という意味ではなく、「自分を見つめて棚卸をし、今いる企業に頼らない自立を目指す。」という趣旨に思えます。
ゑ 縁の下の力持ちに目を配れ
「菊づくり 菊見る時は蔭の人」は吉川英治氏の句だそうですが、昨今「おれがおれが」という場面を見るとこの言葉を思い出します。企業経営者の方々は、プレゼン上手な人材にばかり注目するのではなく、さまざまなチームプレーを組み合わせて結果につなげている人材も、コツコツと新製品誕生の陰で努力している人材にも、評価の眼を向けて欲しいものです。
ひ 人は石垣人は城
「人は堀 情けは味方 あだは敵なり」と続く武田信玄の名言です。人材を人件費としてか見ない経営者は、この言葉にもう一度耳を傾けてほしいものです。「ヒト、モノ、カネ、情報」という経営資源のトップに「ヒト」がある意味があると思います。もちろん「ヒト」に気持ちよくその能力を発揮してもらうための「働き方改革」であることも忘れずに。
も モノ言う組合はどこへ行った
その推定組織率が、前年の17.1%より更に 0.2 ポイント低下し、16.9%と なった労働組合ですが、組織が大きくなればなるほど経営責任者の現場の情報は届きにくくなるもの。「労働貴族」にならず、きちんと職場の現況を伝え、真摯に経営にモノ申すことを忘れないで欲しいものです。
せ 前門の虎、後門の狼
今年が寅年だから申し上げるわけではありませんが、新型コロナウィルス感染症という前門の虎を防ぐことができても、後門に狼が来ることに備えて、一連の対策を検証し教訓化を怠らずに次のパンデミックに備えることを忘れずに。
す 捨てる神あれば拾う神あり
「捨てる」という語感は必ずしもよくありませんが、十数年前のリーマンショクの時、希望退職に応じ、再就職支援サービスを利用して転職した方からこの台詞を聞き、今も元気で活躍しているとの年賀状をいただくことは、人材ビジネスに永年かかわってきた方たちの嬉しい笑顔につながっています。
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)