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労働あ・ら・かると

後出しジャンケン”的な労働条件提示は今すぐ正そう

社会保険労務士 川越雄一

 

“後出しジャンケン”というのは、ジャンケンで相手が手を出した後、それを見たうえでこちらが勝ち手を出すことですが、こちらは必ず勝つわけです。ジャンケンならともかく、労働条件の後出しでは不信感を買われてしまいます。例えば、求人票など雇用関係の入口で提示していないことを、採用後に「実は……」と後出しすることです。採用された従業員にしてみれば「はぁ?何で採用前に言ってくれなかったの」ということになります。

 

1.「はぁ?なぜ今頃になって……」

昔なら「うやむや」でも何とかなっていたのでしょうが、白黒つけないと落ち着かない人が多い今は、採用後の“後出しジャンケン”的な労働条件提示では「はぁ?」と、“驚き 桃の木 山椒の木”です。例えば……。

  • 「はぁ?残業がこんなにあるの」

始業8時30分、終業17時30分であれば、基本的にその前後の時間は残業になります。仮に、終業後18時頃まで勤務なら1日30分、20日稼働で1カ月10時間の残業となります。これくらいならともかく、1日2時間だと40時間となり、当初提示していなければ「はぁ?残業がこんなにあるの」ということになりかねません。

  • 「はぁ?そんなことまでしないといけないの」

仮に同じような仕事を経験してきた人であっても自社の仕事は初めてです。求人票に2~3行書いてある仕事の内容では、実際に何をどれくらいやれば良いのか分かりません。そして、採用後しばらくして、あれもこれもと要求されれば「はぁ?そんなこと

までしないといけないの」ということになりかねません。

  • 「はぁ?この手当には残業代が含まれてるの」

残業代について、基本給が世間相場より高いので、それに含まれているとか、職務手当なるものが、いきなり残業代見合い分だと説明されたところで説得力は弱いです。採用時にキチンと提示されていなければ、苦し紛れの言い訳にしか聞こえず、「はぁ?この手当には残業代が含まれてるの」ということになりかねません。

 

2.後出しは不信感の素

雇用関係に入る前に提示されていれば何でもないことが、後出しされると、苦し紛れの言い訳にしか聞こえず不信感の素にしかなりません。

  • 後出しにモヤモヤ

当初提示されていなかった労働条件が、後から次々に出てきますと、働く人は「はぁ?」と騙された感が半端なくモヤモヤします。特に、労働時間、仕事の内容、賃金というのは雇用関係の根幹をなすものですから注意が必要です。もちろん、会社としては後出しをしているつもりはなくても、採用後にいきなりでは、そう受け取られやすいのが今の時代です。

  • もめなくても早期離職

雇用関係におけるモヤモヤした不信感は、仮にもめ事にならなくても早期離職を招きます。従業員は不満を解消するために、会社や経営者に対しての消極的な抵抗として早期離職を選択するのです。早期離職の多い会社では、求人段階に示されていなかったようなことを後出しされている場合が多いものです。

  • 雇用関係の原点は求人票

雇用関係の入口、原点は求人票です。ですから、良くも悪くも求人段階で仕事の内容や労働条件を堂々と示しておくべきですし、採用後も求人票に記載した労働条件に則って雇用すべきです。ハローワークの求人票は2020年1月から、従来のA4一枚から二枚になって情報量は倍増しています。これを活かすことが労働条件の後出しジャンケンを防ぐ第一歩です。

 

3.求人票の内容を常に確認しておく

従業員というのは、会社の何倍も採用時の求人票を気にしているものです。ですから、仮に労働条件を変更するにしても原点である求人票に立ち返り、そこから話を進めることが重要なのです。

 

  • 時間外労働・休日労働の程度

時間外労働・休日労働はないことが原則とはいうものの、ある場合もその時間や回数などの程度は求人票に記載しておきます。また、雇用契約書にも盛り込んでおきます。もし、その範囲を超える場合は従業員にあらかじめ伝えて了解を得ることが必要です。あらかじめ伝えられると抵抗はないはずです。もちろん、残業時間は法律の上限以下であることは必要です。

  • 仕事の内容

仕事の内容には会社が求める量とレベルがありますが、これについては求人票に記載されていると思います。仕事の内容は、就職先を決める場合の重要な要素になりますから、仮に、求人票に記載した内容と大幅に変わるような場合はあらかじめ相談も必要です。いきなり、求人票に記載された内容を過度に超えることを求めると離職の引き金になります。

  • 手当の意味合い

手当にどのような名称をつけるかは会社の自由ですが、やはり意味合いを表したものが良いと思います。仮に、固定残業代であるなら、「固定残業代●時間」といった具合です。営業手当を後になって取って付けたように残業代見合い分だと主張しても嘘っぽい話になってしまいます。まして、営業手当が全員一律だとなおさらです。