労働あ・ら・かると
良好な雇用関係づくりは交差点の3秒間に学べ
社会保険労務士 川越雄一
交差点は多方向から車が行き交います。ですから、一歩間違うと重大事故につながるのですが、それを防ぐために、交差点の信号機は全方向が赤の時間があります。これを“全赤”(ぜんあか)というらしいのですが、平均して3秒間だそうです。つまり、青か赤ではなく、全方向が「止まれ」の状態が3秒間あるわけです。この3秒間により交差点内の事故を減らすことができるのだそうですが、良好な雇用関係づくりにも相通じるものがありそうです。
1.全方向が赤の3秒間
信号機は赤・青・黄色で交通整理をしますが、全方向が赤の時間が約3秒間あります。全方向の車が3秒間立ち止まるわけです。
- 信号機が示す色の意味
青信号の基本的な意味は、「進むことができる」です。歩行者や他の車の状況を確認したうえで進むことが可能であるだけで、「進め」ではありません。黄色信号は基本的には「止まれ」です。赤信号は、停止位置を越えて「進んではいけない」です。“全赤”というのは、全方向の車が3秒間「進んではいけない」状態です。
- 3秒間が交差点内での事故を防ぐ
信号機が“全赤”状態の場合、渋滞がなければ交差点内に車は存在しないはずです。もし、赤信号になって交差点に進入してきた車も3秒間のうちには通り抜けるでしょうし、反対側の車が少々フライングして青信号になる前に飛び出しても、3秒以内ならこちらも赤ですから衝突事故を防ぐことができます。
- 譲り合いの3秒間
信号機の“全赤”は、人間がミスを起こす「かもしれない」
を前提にして3秒間のお互い「止まれ」が設定されているようです。交差点における事故防止のためのお互い「止まれ」ですが、言い方を変えれば譲り合いです。わずか3秒間の譲り合いですが、交差点に限らず良好な雇用関係づくりにもいえることです。
2.雇用関係は交差点のようなもの
雇用関係は経営者と従業員、従業員同士、いろいろな立場の人たちが絡み合っており、ちょっとしたことで衝突してしまいます。いわば交差点のようなものではないでしょうか。
- 職場には多方向からいろいろな人が入ってくる
交差点がそうであるように、職場にはいろいろな人が入ってきます。中には気の短い人、自己中心的な人もいるでしょう。そのような人との雇用関係を制御するのが信号機としての法律や就業規則です。権利が青信号、義務が赤信号のようなものです。今は双方で権利主張が強く“全赤”ではなく“全青”の職場が多いのかもしれません。
- 「だろう」ではなく「かもしれない」
雇用関係で大切なのは、車の運転同様「だろう」ではなく「かもしれない」という意識です。交差点はそのようなことを想定して信号機が制御されていますが、雇用関係においても労使双方がそのようなことを意識しておくことが必要です。労務トラブルでは多くの場合「かもしれない」ではなく「だろう」意識の雇用が原因です。
- 雇用関係に“全赤”を設ける
ちまたでは、雇用関係を法律上の権利・義務で捉え、会社と従業員が対峙するように仕向ける人も少なくありません。しかし、そのような勝ち負け型の関係では、良好な雇用関係は築けません。ですから、良好な雇用関係づくりにおいては、お互いの権利を主張し合うのではなく、“全赤”で一呼吸置くことが重要ではないかと思います。
3.良好な雇用関係は譲り合いから
雇用関係は交差点ほど単純なものではありませんが、基本的には譲り合いではないでしょうか。
- 人間関係づくりから始める
良い雇用関係というのは、従業員同士が信頼し合い、安心・安定して働けることだと思います。従業員同士の関係が安定していれば、経営者の悩みの多くは解決します。そのためには、従業員同士が譲り合うという、いわゆる“全赤”の関係をつくります。もちろん、“全赤”の方針を示すのは経営者です。
- 短期的な結果を追い求めない
4月から中小企業でも「パワハラ防止法」が適用になりましたが、パワハラが起きやすいのは短期的な結果を追い求め過ぎる職場です。人間関係もできていないのに、短期的な結果を追い求めると、従業員同士にゆとりがなくなります。ゆとりがないと譲り合うという意識が気薄になり、ぶつかり合うのです。
- 法律のちょっと上を意識する
雇用関係における譲り合いは、法律のちょっと上を意識することです。「法律に違反しなければ良い」とばかりに、法律ギリギリの労働条件ではギスギスとした関係になります。ですから、法律では求められていないちょっとした配慮が必要です。一見損をしたような感じもしますが、「損して得取れ」ともいいます。
交差点では全方向が「止まれ」の3秒間があるために、交通が円滑になったり事故防止につながっています。雇用関係においても、そのような譲り合いが良好な関係づくりにつながるのだと思います。4月に採用した新入社員も3カ月を過ぎ、職場に慣れてきたこの時期、ちょっと一呼吸置いてはどうでしょうか。