労働あ・ら・かると
共感と期待を示す
就職・採用アナリスト 斎藤 幸江先生
●第7波の中で募る不安
コロナ禍がなかなか収まらない。公務員を中心に選考の終盤を迎えた23年卒業予定者、そしてインターンシップ目前の24年卒予者は、落ち着かない日々を送っている。
「本当、ギリギリで官庁訪問が終わってよかった」と安堵する国家公務員志望者をはじめ、「内定が取れなくて、今から応募できるのは知らない企業ばかり。これが全部オンラインになると、不安」など、さまざまな声が聞こえてくる。
24卒に関しては、インターンシップや1 day仕事体験の選考の結果が舞い込む時期だ。「せっかく対面だからと応募したのに、どうなるんだろう?」と心配している。対面実施なら行きたいが、正直、人の多い首都圏のオフィス街に行くのは怖い、同居や頻繁に顔を見に行く高齢者がいるので、感染を怖れて躊躇する等の学生も散見される。
●対応姿勢が好感度を分ける
採用やインターンシップの受け入れ側も、先行きが見通せない中、対応に苦慮されていることと思う。現段階では、オンライン、対面両方の可能性を見極めつつ、という企業も多いだろう。
対応策がギリギリに決まったり、決定が覆されたりという状況も考えられ、学生への連絡も余裕を失いがちだ。事実、昨年、一昨年と、「急遽、オンラインになりましたと、慌てた連絡が来た」という話がいくつもあった。
採用側、応募側双方不安な状況だからこそ、その対応姿勢で、学生の企業イメージは大きく変わる。
「一方的に『ウチは何がなんでも対面で実施します。指定期日に来社してください』と言われた。同居家族に病人がいるし、今回の連絡で、そんな上からの対応をする会社なの? 余裕がないの?とがっかりした面もある。最終面接は辞退した」
ちなみに、上記のように配慮すべき家族のいる学生が、事情を申告することはまずない。
「もしかして、転勤不可?と疑われたら、内定を出さないかも、ですよね?」という。
逆に対応でイメージアップする企業もある。学生から好評だったのが、選考方法を応募者に選ばせるスタイルだった。
「対面での面接を希望なら、今は難しいです。しかし、必ず実施しますので、コロナが落ち着くまでお待ちください。オンラインでしたら、すぐでも構いません」
そう提案した企業がある。中でも応募者の志望度を上げたのが、以下の説明だ。
「当社は、あなたにぜひ次の面接を受けてほしいと考えています。対面で実際にお互いの雰囲気や人物を見てから決めたいなら、その気持ちを尊重したい。いや、いつになるかわからないし、オンラインでも十分というなら、その希望に添います。
ただ、誤解がないように申し上げますが、私どもはあなたに会うのを楽しみにしております。対面がいいが、いつになるのか、その前に採用が終わるのではないかと心配されているかもしれません。でも私たちは、必ずあなたに会い、面接します。オンライン、対面のいずれかが不利になることはありませんので、ご希望を聞かせてください」
●共感と期待をセットで示す
この決め台詞が学生の心を打ったのは、共感と期待をセットで示しているからだ。学生の希望や不安を汲み取った説明をし、さらに「あなたには期待をしている」とメッセージを送っている。
今回のようにイレギュラーな連絡だけではなく、採用のあらゆる場面で、学生に好印象を与えることができるのが、共感と期待だ。
企業説明会などで、学生が頷いたり、終了後に活発な質問が出たりするプレゼンも、学生の立場や意識に寄り添った投げかけを行ったり、最後に応募への期待を率直に語ったりしている。
この1、2年はオンライン選考の導入で歩留り率の見極めが難しく、「繰り上げ合格の連絡を受けた」という事例に毎年、接している。
「お祈りメールを出しておきながら、いきなり電話をかけてきて、『あなたは、最終面接を受けてもらえることになりました。どうしますか? 日程は〇〇で、場所は本社です』といわれた。
実は第一志望で、最終直前で祈られた時は、本当にがっかりした。でも、今回の連絡で興醒め。落ちてよかった」
応募者にそう言わしめたのは、採用側の言葉に共感も期待もなかったからである。
もし、この会社が、こんな説明をしていたら、どうだろう?
「当社にご応募いただき、ありがとうございました。以前、ご縁がなかったとの連絡を差し上げました。しかし、このたび社内会議で内定者を増やすことが決まり、ぜひもう一度、□□さんに会って、再度採用を検討したいということになりました。決定が変更になり、申し訳ありません。
すでに進路も決まっているかと思いますが、お気持ちやご都合はいかがでしょうか?」
実は、これは別の会社が繰り上げ内定者に連絡した時のメッセージである。電話を受けた学生は感激し、喜んで最終面接に足を運び、入社を決めた。
最近は、「ひとを大切にする企業」を選ぶ学生も増えている。学生と向き合う時には、共感と期待を伝えて、企業イメージの向上に役立ててほしい。