労働あ・ら・かると
どんな人材ビジネスを目指すのですか?
一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二
少し前に、人材ビジネスを学生起業した青年実業家(本人たちは「実業家」などとは全く思っていない様子でしたが)と話す機会がありました。
筆者がこの仕事やこの業界に関心を持ったのは、昭和の時代40年近く前のことなのですが、改めて今昔の違いを認識した次第です。
今回会うことのできた方々とお話ししていて、筆者の脳裏に浮かんだのは以前規制緩和論議(職業紹介責任者の要件について、許可職種についての経験要件を10年を3年にする論議だったように思います)の際に、年配の方の「きちんと人を雇ったことも雇われたこともないような人間が、職業紹介に従事することができるのか」という発言でした。
当時の職業紹介事業許可の要件について、過去の資料(昭和62年5月30日社団法人全国民営職業紹介事業協会発行「民営職業紹介事業ガイドブック」)を見ると、従事者についての規制は、従業者の履歴書が許可申請書類の添付書類となっている以外見当たらない(当時は「従事者証」なるものの携帯提示が義務付けられていたらしい)ものの、社長(代表者)は取扱職業が法定資格を必要とする職業の場合、資格保有者であること(つまり医師の紹介をする紹介会社の社長は医師資格保有者でなければならない)とされ、経営管理者や家政婦、マネキン、配ぜん人などを取扱う紹介会社の社長は当該職業に成年に達した後2年以上の経験が必要とされていました。さらに職業紹介責任者にあっては、取扱職業が法定資格を必要とする場合、資格保有者でありかつ5年以上の経験、法定資格不要職種の場合は10年以上の経験がないとダメという規制があったのです。
これらの規制はILO条約の96号条約から181号条約への改訂と共に、また規制緩和の風潮と共に急速に緩和されてきたわけですが、前述のように経験を要件とすることにも一理はあったのではないかとの気持ちが心をかすめました。もちろん当時の規制が新規参入を阻害し、既存事業者の既得権益擁護になっていた点は非難されて当然だと思いますが、一方で「はたらく」という場面での環境整備の苦労やミスマッチの防止の工夫は、机上の学習ではとても身に着けることができるものではないと今でも思います。
人材ビジネスを学生起業した方々からは、これからの時代をビジネスパースンとして担おうとする純粋な心を感じました。率直な気持ちとして「スマホをベースとしたソフトウェアを開発していて、需要と供給(売買、貸借、請負、雇用)を簡単便利に結びつけるものは社会と人のためになる。」と思ったとの心情の吐露もありました。
ただし、少なくとも雇用に関するマッチングの場合(他の取引も同様だと思いますが)、とても残念なことではありますが、世の募集者や紹介者などのすべてが善人とは限りません。
悪人であるとは申し上げたくはないものの、意識してか無意識のうちかはわかりませんが、その行為が相手の人生を大きく変えてしまったり、不心得な利得を目標としている会社や人がある(いる)ことも見つめなければなりません。だからこそ職業紹介は許可制であるわけです。
若い経営者は、システム開発をしているときにそれが「職業紹介」に該当し、職業安定法にもとづく手続きが必要となるという認識は、当初全くなかった様子でした。
「自分たちの作ったシステムで、便利や幸福を利用者に提供したい。」「けして不幸な人を作るためのものではない。」という言葉には極めて共感しますし、今や先輩や人脈を活かしての情報収集をして、きちんと厚生労働大臣許可を受けての事業展開をされる様子に、有難迷惑かもしれませんが老骨に鞭打ってでも応援したくなりました。
三月に成立した改正職業安定法(「雇用保険法等の一部を改正する法律」に含まれる)については、その大部分の条項について、その施行日は今年秋の10月1日とされており、過日6月10日に関連する政省令や告示が公表され、これから実際上の事業運営がどうなるかについての詳細が記載された「募集情報等提供事業の業務運営要領」や「募集・求人業務取扱要領」、「職業紹介事業の業務運営要領」の改訂版の公表が先日なされたところです。
今回の職安法改正の主眼が、募集情報等提供事業の把握に焦点が当たっていることに目をやれば、私が会った「元やんちゃな若者」が社会のルールがなぜ制定されたのかの理解を進め、立派な「青年実業家」に脱皮していく道筋との合致を大いに期待したいところです。
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)