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広告宣伝と正確な情報提供 ―改正職業安定法全面施行にあたり ―

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 2022(令和4)年3月に成立した「雇用保険法等の一部を改正する法律」のうち改正職業安定法の部分は、この10月1日から全面施行されます。
 今回の改正は、これまでの職業紹介についての改正中心であったものとは異なり、「募集情報等提供事業者」についての規定の新設改訂が中心のものであると言っていいでしょう。
 21世紀になり、IT技術の進歩がますます速度を増し、その発展が目覚ましいことは読者のみなさんに異論のあることではないでしょうが、このIT技術の進歩Webの発達によって、求人情報の提供の仕組みは大きく変わりました。「一億総活躍」を目指す働き方改革が実現する前に、「一億総端末携行時代」が、スマートフォンの普及により出現しているという社会の変化に対処するわけです。
 以前の求人「紙・誌」の時代、求人者は求人雑誌等の発行元に求人広告を出稿依頼し、転職再就職を考える人材(求職者)は、求人内容が掲載されている無料配布の求人リーフレットを駅頭で入手したり、書店で求人誌を購入したり、購読している新聞の求人欄を閲覧して、関心のあるものについて求人者に履歴書や職務経歴書を郵送して応募するという仕組みでした。
 当然のことながら、求人広告掲載の依頼を受けて求人「紙・誌」を編集作成している発行元を応募人材の個人情報が通過することはなく、個人情報にかかわる紛争が求人広告提供事業者を巡って起きることは、まずありませんでした。
 新卒入職を除く、人材の企業への入職経路の約3割が、国によるハローワーク、民間職業紹介事業者、学校等の職業紹介によるものであり、その事業状況は厚生労働省がしっかり把握していることはご存知の通りですが、昨今の求人メディアは「誌・紙」の時代から「スマホ・パソコン」時代に移行しています。これらの「求人メディアによる入職」も約3割に及んでおり、ここで起きる紛争や不適切な情報管理の実情は、必ずしも国として行政機構が把握できているわけではありませんでした。
 この入職経路の3割を担う求人メディアのうち、個人情報を扱う求人メディアを「特定募集情報等提供事業者」として届出制の対象とし、まずは行政がその実情を把握しようとすることが、今回の職安法改正の第一の主眼と言っていいでしょう。
 「令和4年職業安定法の改正の概要について」という厚生労働省の公表資料でも、サブタイトルに「~求人メディア等のマッチング機能の質の向上~」と付されていますが、そのためには何より、求人メディア等が提供する求人求職情報が正確である必要があります。
 従って「求人等に関する情報について的確表示」(虚偽又は誤解を生じさせる表示を禁止し、最新かつ正確な内容に保つための措置を講じること)を義務付けることが、今回の法改正のトップに掲げられ、この「的確表示」は、ひるがえって職業紹介事業者、求人企業(労働者を募集を行う者)等にも同様に義務づけられることになりました。

 さてここで、求人「広告」という文字と、求人「情報提供」という表記の文字をそれぞれご覧になり、読者の皆さんはどのような違いを感じますでしょうか?
 5年前の前回職安法改正の際、適正な宣伝広告等に関する事項として「職業紹介事業に関する宣伝広告の実施に当たっては、不当景品類及び不当表示防止法の趣旨に鑑みて、不当に求人者又は求職者を誘引し、合理的な選択を阻害するおそれがある不当な表示をしてはならないこと。」との記述が人材ビジネスに関する指針(平成11年労働省告示第141号)に加わりました。不当であるかどうかの考え方について、単に職業安定法条文に規定するだけではなく「利用者が合理的な選択を阻害するおそれがある表示」は不当だと、より人材ビジネス利用者の視点に立った規定になったと言っていいと思います。
 以前の訴訟事案の中で、裁判官が「宣伝広告というものは、多少なりとも購買利用行動を煽る要素がある」という話をされたことも思い出しますし、健康食品やサプリメントなどのテレビコマーシャルを視聴していても「これってやや誇大広告なのでは?」という印象を持つこともよくあります。
 広告批評家でいらっしゃった天野祐吉さんがご存命でしたら、是非お話を伺いたいところですが、商品売買に関する広告であれば、誇大・虚偽広告ではないかということで返品・返金を要求して「元に戻す」ことができるでしょうが、「働く」という人生の大きな要素について、その選択の機会を提供する職業紹介業が不適切な情報提供を行うことによって人材の職業選択を誤らせてしまうことがあったとしたら、時計の針は逆には回せないのですからその責任は重いといわざるを得ません。
 転職・再就職のお世話をする職業紹介事業の「求人・求職」の「広告」が「多少『盛る』コトもあり」という安易無責任な考えを排除し、「適切な情報提供」としての求人求職情報や職業紹介サービスについてどうあるべきか、改めて考えさせられる法改正だと思います。

 当面は、届出制の導入によって行政としてその状況を把握することを実現する今回の職業安定法改正の次に、どのような仕組みと規制が検討されることになるのか、息長く注目していく必要がありそうです。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)