労働あ・ら・かると
銀座の上客に学ぶ従業員雇用3つのヒント
社会保険労務士 川越雄一
銀座といえばクラブ、男なら(男でなくても)一度は行ってみたい場所の一つではないでしょうか。先日、ちょっとしたご縁から四半世紀以上続く老舗クラブのオーナーママのお話を聴く機会がありました。お店に通ってくださる良いお客様、いわゆる上客の三大要素があるそうです。「太く」「堅くて」「長い人」だそうですが、意外にも従業員雇用におけるヒントがいっぱいです。
1.「太く」:たくさんお金を払う人
見当もつきませんが「座って5万円」ともいわれる銀座のクラブに通うには、それなりの金が必要です。それでも通うだけの価値があるのかもしれませんが…。
- よい従業員を持ちたいならそれなりの賃金が必要
江戸幕府270年の礎を築いた徳川家康は「大将の戒め」の中で、「よい家来をもとうと思うなら、わが食へらしても家来にひもじい思いをさせてはならぬ。」と諭しています。家康も人のことで苦労したのでしょうね。「座って5万円」とまではいかないまでも、普通に生活できるだけの賃金は必要です。
- 世間相場のちょっと上を払う
一般に従業員へ支払うものといえば毎月の賃金、年2回程度の賞与、それに退職金でしょうか。賃金と賞与については厚生労働省が毎年調査・発表している賃金構造基本統計調査というのがあります。細かな点で少々難がありますが、大方の相場観はつかめます。また、最低賃金は最近、年に30円、月額では5,000円程度(月170時間換算)引上げられています。
- 身の丈に合わないことはしない
「いつかは銀座のクラブに」といっても日常の生活ができていての話です。それもなしに銀座へのめり込むというのは本末転倒、身の丈に合いませんし、下手すると破滅します。ですから、少々厳しい言い方ですが、世間並みの賃金を払えないのなら人など雇用すべきではありません。身の丈に合わないようなことをしても結局お互い不幸になるだけです。
2.「堅くて」:支払いがキッチリしている人
支払いがキッチリしているというのはキレイに払うということです。散々楽しんで会計の段階になって「高い」と言って値切ったりするのは野暮です。
- 最初にキチンと取り決める
まっとうなクラブでは入店時に懐事情を伝えておけば、むやみに高価なお酒を入れたりフルーツを出したりはしないでしょう。雇用においても採用時に賃金などの労働条件をキチンと取り決めておくべきです。その時点で話がまとまらなければ雇用関係は成立しないわけですからもめ事が起きません。採用後の後出しではもめるのが必定です。
- 未払いにしない
いくらたくさんお金を使ってもツケを踏み倒すようでは上客とはいえません。雇用において基本給を未払いにすることは少ないでしょうが、残業代は未払いになりやすいものです。残業代も基本給と同じ賃金ですからキレイに払うことが大原則です。残業をさせた後で難くせをつけて残業代を払わないのは野暮、というよ
り違法です。
- 恩恵的なことを持ち出さない
「出勤前の同伴で食事をご馳走したから勘定を負けて」というのは興ざめします。雇用においても、福利厚生を充実させたり決算賞与を払ったからといって、本来支払うべき残業代などを帳消しにさせるというのは許されません。恩恵的なことはこちらが好きでやっているわけで見返りを求めるべきではありません。
3.「長い」:5年10年と店に通ってくれる人
いくらたくさんお金を使っていただいても、1回きりではいけません。雇用においても長く定着してくれることにより会社の戦力となってもらえます。
- 従業員は辞めやすいと心得る
上客というのはどこのお店にとっても上客である場合が多いので、他店からの誘いも多く油断すると浮気されます。従業員も他社に魅力を感じれば転職などにより辞めやすいものです。ですから、賃金などの労働条件は世間相場より少し上であることは当然として、社内の雰囲気など働き続けようと従業員に感じてもらう働き掛けも必要になります。
- 今の時代、ハングリー精神は死語?
今の時代、ホステスもがむしゃらにお金を稼ごうというハングリー精神を持ち合わせた人は少ないようです。ホステス以上に雇用においてはハングリー精神など死語かもしれません。「ゆとり教育」の影響が強く、みんな一緒に仲良く仕事をしたい人が多いのです。ですから、指導方法は褒めて育てることがキホンです。
- 3年間は育成期間と割り切る
クラブのホステスも素人を3年かけて一人前にするほうがお店の雰囲気は良くなるそうです。お店の雰囲気が良くなるからこそ先輩が後輩に仕事を教える仕組みができます。雇用においても、3年間はじっくり育てる育成期間と割り切ることが必要です。これはほとんどの業種に共通しています。急がば回れです。
10月に入り何となく秋らしくなってきました。このような秋の夜長、ぶらり銀座のクラブで気楽に一杯とはいかないまでも、上客といわれる人の行動を雇用のヒントにしてみてはどうでしょうか。