労働あ・ら・かると
“できる人事部長”に見られる3つの共通点
社会保険労務士 川越雄一
〇中小企業では、人事の専門部署もありませんし、人事部長などという肩書もなく、他の業務の片手間に人事部長としての業務を担っていることが多いと思います。人事部長の社内における立ち位置としては経営者と非常に近く、重要な役割を担います。それだけに、その仕事ぶりが雇用関係の良し悪しに大きく影響します。そこで、雇用関係がうまく機能している会社の、いわゆる“できる人事部長”に見られる共通点を3つにまとめてみました。
1.法律や制度を正しく理解する
〇法律や制度を正しく理解する第一歩は、自分自身が「分かっていないこと」を理解することです。これがあるからこそ謙虚になり、法律や制度を正しく理解しようと努めるのです。
●何事にも謙虚であること
〇「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という“ことわざ”があります。稲の穂は実るほどに穂先が低く下がるものですが、人も本当に偉くなればなるほど、謙虚な姿勢で人と接することが大切であるというような意味です。たとえ立派な人事部長であっても、自分は「分かっていないこと」のほうが多いという謙虚さが必要です。
●「やっていること」と「やって良いこと」を区別する
〇当然ですが、「やっていること」と「やって良いこと」は違います。例えば、同業他社が「やっていること」は「やって良いこと」とは限りません。それは単にやっているだけで、たまたま問題が発覚していないだけかもしれないのです。例えば、法令違反をしながら車を運転しても、警察に捕まらなければ発覚しないのと同じようなことで、「他社がやっているから」という判断基準は、今の時代にはとてもリスキーな話です。
●自分に都合よくアレンジしない
〇法律や制度は、人事部長に都合よくできていない場合もあります。だからといって、自分に都合よくアレンジしないようにします。アレンジすればするほど原則から離れていきますので、従業員から軽く見られるようになります。ですから、まずは基本を忠実に実践します。
2.バランス感覚を持つ
〇感情のある人を対象とする人事の仕事は、経理業務などと違い、人の気持ちに配慮することが重要です。もちろん、人の痛みを理解するものの、感情に流され過ぎず、ほどほどの緊張感も必要です。何より公平に接することが大切です。
●労務は三次元を意識する
〇人事においては「人の気持ち」「法律」「経営」の3つのバランスを保って調整する能力が必要です。小さな会社では経理などの片手間に行われやすい人事・労務ですが、この2つには決定的な違いがあります。法律と経営の二次元で片が付く経理に対して、人事・労務は人の気持ちが加わり三次元になるということです。
●人の痛みを理解する
〇言葉でいうと簡単ですが、これは非常に難しいことです。理屈というより五感で感じ取る必要があります。要は自分がされた嫌なことは相手にもしないということです。パワハラなど、今はちょっとしたことでもめ事になりますが、最初は些細なことの行き違いです。予防の視点からも人の痛みを理解するというのは有効です。
●公平に行う
〇人事部長は公平であることが求められます。そのためには、肝心なことを感情に流され有耶無耶にするのではなく、法律や就業規則などルールに従って事務的に処理することも必要です。公平性を欠くと“えこひいき”と受け取られやすくなりますが、された人も、されなかった人も気持ちの良いものではありません。これを防ぐためにも、誰にも丁寧語で接するなど意識しておきます。
3.経営者と従業員の橋渡し役に徹する
〇橋渡し役として社内調整を行う場合に必要なのが“信頼関係”ですが、これは日頃より、双方向の報・連・相によりコミュニケーションを図っておくことで培われます。
●情報と感情のやり取り
〇コミュニケーションを一口でいうなら「情報と感情のやり取り」ということもできます。情報というのは、就業規則などの社内ルールや行事予定、感情というのは日常的な挨拶や労いなどでしょうか。日頃からこのようなやり取りをすればこそ、お互いに信頼関係ができます。その場合に有効なのが上司や部下関係なく双方向の報・連・相です。
●目配り・気配り・心配り
〇コミュニケーションを図るうえで、意識したいのが、この3つの配慮です。「目配り」は周囲に目を向けること、「気配り」は相手を考えて行動すること、「心配り」は相手の立場になって行動することです。要は相手の立場に立って考え行動することです。このような配慮により人事部長の仕事がキラリと光ります。
●経営者とのコミュニケーション
〇人事部長というのは、会社で最も大切な“ヒト”に関する仕事を任された人です。しかし、任されたとはいえ、経営者の方針に沿うことは当然ですから、日頃より経営者とのコミュニケーションは欠かせません。そして、人事方針などを従業員に発表する場合は、両者で十分話し合ったうえで、意見を統一させておきます。
〇いつも裏方として会社を支える人事部長ですが、できる人を簡単に表現すると「謙虚さ、バランス感覚、コミュニケーション力」ということではないでしょうか。