労働あ・ら・かると
雇用の安定は『ドラえもん』に学べ
社会保険労務士 川越雄一
〇コロナの収束が見え始めるとともに、従来からの人手不足感が一層深刻となっています。特に早期離職の多い会社にとっては今後の事業展開もままならず、雇用の安定が大きな課題です。その対策として一つ参考となるのがアニメの『ドラえもん』です。ドラえもんといえば、のび太、ジャイアン、スネ夫の三人組ですが、この取り合わせが雇用を安定させるうえで大きなヒントになるのです。
1.不安定な職場の“あるある”
〇雇用が不安定だと、「エースで四番」の即戦力を追い求めがちですが、そもそもそのような姿勢に大きな落とし穴があり、さらに不安定になってしまいます。
●全員が自称「エースで四番」では職場がギスギス
〇「エースで四番」というのは、野球において、投げても打っても最高の選手、今でいえば大谷選手のような存在です。ですから、そのような人は滅多にいません。仮に全員が自称「エースで四番」の職場はどうでしょう。自分こそが最高の人ですから助け合うという発想に乏しく、職場がギスギスするのは必定です。
●できる“つもり”の人が足を引っ張る
〇雇用が不安定だと新入社員をじっくり育てる余裕がないので、ありもしない「エースで四番」を追い求めてしまいます。しかし、多くの場合、採用できるのは自称「エースで四番」であり、自分は仕事ができる“つもり”の人です。そのような人は中途半端な経験をひけらかし、周囲の足を引っ張ってしまいます。
●早期離職でみんなヘトヘト
〇ただでさえ人手が足りないうえに、せっかく採用した人が早期離職を繰り返すと、今いる従業員はみんなヘトヘトです。せっかく受注した仕事も「それ、誰がやるんですか?」と従業員の冷ややかな態度に気持ちも折れます。期待して採用した自称「エースで四番」は鳴かず飛ばずの大きなお荷物に……。
2.ドラえもんの三人組は安定のお手本
〇ドラえもんには、のび太、ジャイアン、スネ夫の三人組が登場しますが、それぞれ持ち味が違います。その違いが友だち関係の安定につながっていると思います。皆さまの周りにもこのような関係の三人組がいらっしゃるのではないでしょうか。
●持ち味の違う三人組
〇ドラえもんに登場する三人組の持ち味は次のようなことではないでしょうか。のび太は
スポーツは苦手、勉強も好きではなく、性格はドジで怠け者、いじめられっ子ですが、人の心の痛みが分かる、やさしい人柄です。ジャイアンは乱暴なガキ大将ですが、友情に厚く、学校ではいつもいばりちらしているものの、親には頭が上がらず、妹のジャイ子にはとてもやさしいのです。スネ夫は家が裕福なのを鼻にかけて少々意地悪、口がうまくて世渡り上手ですが、実は背が低いのを気にしています。一見バラバラの三人組が時にはケンカしながらも友だち関係は継続します。
●なぜ三人組は安定しているのか
〇のび太、ジャイアン、スネ夫はそれぞれに持ち味としての強みがあり弱みもあります。決して誰一人「エースで四番」ではありません。お互いに足りない部分を自覚し補完し合っているのではないでしょうか。ドラえもんに限らず、このような関係は雇用が安定した職場にもあります。接客は得意だがパソコンが苦手、パソコンは得意だが愛想がイマイチ、愛想は良いが書類作成に難がある、というような関係です。そもそも、会社は多くの場合、チームワークで仕事をしているわけですから、それぞれは一長一短あっても全体で成果をあげれば良いのです。
3.三人組から見える雇用安定3つのポイント
〇持ち味の違う三人組の関係は安定しやすいのですが、それを雇用に活かすには次の3つがポイントになります。身の程をわきまえた人を採用し、職場の人員構成は「2:6:2」にしかならないと割り切り、それぞれの持ち味を引き立てることです。
●身の程をわきまえた人を採用する
〇身の程をわきまえた人を採用するというのは、自分自身の能力を客観的に理解できている、ほどほどの人を採用するということです。このような人は、自分で、分かっていないことが分かっていますから謙虚です。そのため、不足している部分を補完してもらおうと相手を思いやります。逆に、自称「エースで四番」は優秀意識が強いので職場内で浮いた存在となります。
●人員構成は「2:6:2」だと割り切る
〇仮に優秀な人ばかり採用したところで、職場の人員構成は「2:6:2」になると割り切ります。つまり優秀な人が2割、普通の人が6割、そうでもない人が2割という割合になります。そうでもない人が2割いて、その能力に見合う仕事をしてくれるから、優秀な人や普通の人も、それに見合う仕事ができ全体で成果をあげられます。
●持ち味を引き立てる
〇ドラえもんの三人組は、のび太のお人好し、ジャイアンの腕力、スネ夫の世渡り上手というようにそれぞれ持ち味を持っています。雇用においても従業員の持ち味を引き立てることが大切です。従業員が複数いるとそれぞれに何らかの良い持ち味を持っているものです。これが三人三様違うから人間関係が安定します。