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フリーランス新法の今後を附帯決議から検証すると

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

フリーランス新法以外にもいろいろな略称呼称があるようですが、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が過日4月28日に成立しました。
施行日は未定ですが、附則には公布日の5月12日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされていますので、かなり先にはなりますが2024年秋までに施行されることになるのでしょう。さらに附則の2には施行後三年を目途として、この法律の規定の施行の状況を勘案し、この法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるとされています。
斜に構えた見方かもしれませんが、今から4年半、この法が社会でどのように受け止められるのか、どのような紛争が表面化するのかの様子を見た上で、雇用以外の請負形態などで働く人々への保護の仕組みが本格的に出来上がるとも見えなくもありません。「なんと悠長な」という印象もぬぐえませんが、「ないよりましな法律」と言われてしまう所以はこのあたりにあるようにも思えます。

でもしかし、今般の審議と衆参両院で決議の際に付された全会一致の「附帯決議」をみると、与野党の国会議員の方々がこの新法のどのような点に懸念を抱いているのがわかります。
今回の附帯決議は、衆参同趣旨のものもありますが衆議院で18項目参議院でも19項目 と多くなっているものの、本法案担当の後藤大臣は、この附帯決議に記載されている事項を尊重すると答弁していますから、今から4年半の間どのように運用されるかのヒントがあるように思います。

今回成立した法律には、雇用類似の業務受託や請負の「仲介」についての規制は盛り込まれていませんが、附帯決議には「業務委託を仲介する事業者の実態を把握するとともに、質の確保の観点から、本法の適用対象とならない仲介事業者に対する規制の必要性について検討すること。(衆議院付帯決議の四)」とありますから、4年半後には何らかの規制の仕組みが出来上がる可能性があると見ていいでしょう。
そのための情報収集に必要な「相談体制整備と相談窓口の周知(衆議院附帯決議一)」「特定受託事業者であるか否かを問わず、業務委託の相手方である者からの相談を受ける体制を整備し、その相談窓口を十分に周知・広報すること。(参議院附帯決議三)」が記されていますし、「雇用によらない働き方をする者の就業者保護の在り方について、本法の施行状況や就業の実態等を踏まえて検討し、必要な措置を講ずること。(衆議院付帯決議の五)」とも決議されています

「本法施行後の実態把握に努めるとともに、施行後三年を目途とした見直しを行うに当たっては、当事者を含む関係者からの意見を聴取して検討を行うこと。(衆議院附帯決議八)の「当事者」をどのように把握するのか、発注者受注者が含まれることは当然でしょうが。仲介事業者が含まれるのかどうかも気になるところです。
職業安定法のここ四半世紀の変遷を見ると、社会で起きている紛争を防止するために、国は職業紹介事業者や労働者派遣事業者、最近は募集情報等提供事業者への規制の緩和と強化によって、働く人びとを保護する政策を改編してきたように見えます。その「働き方」が兼業副業もあり、業務委託や請負と、雇用に留まらない多様な形態に発展しているのですから、IT技術の進歩も相まってその仲介形態も多様化し、その実態を把握したうえであるべき労働行政の姿を形作ろうとしているのでしょう。
しかし、今回成立した法律について所轄する行政機関は「公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣」と三か所掲げられており、そのうち厚生労働大臣はすべての都道府県に労働局があり、傘下に労働基準監督署等の組織のある労働行政の長であり、手足の少ない他の行政機関との二重行政が発生しないか、あるいは相互に他の機関の所轄と考えての隙間が生じないか「各行政機関の一層の連携強化を図ること。(参議院附帯決議二)」といっても懸念がぬぐえないところです。

今回は附帯決議のすべてについてコメントすることはできませんが、国会議員の方々の懸念点が凝縮されたような衆参両院の附帯決議に目を通していると、「雇用」の仲介においても、すでに様々な業界から様々な職種の求人を取り扱うだけでなく、正規・非正規と単純に括るわけにもいかない「短時間」「短期間」「勤務地限定」その他の求人内容を精査把握しないと実現できない「適格紹介」であるのに、これに加えて民法の物差しを借りれば「雇用」「業務委託(委任/準委任)」「請負」という様々な働き方それぞれについて、よほど学習して知見を身につけ整理できないと、「雇用類似で雇用以外」の働き方も含めて人材を提供できる仲介事業は実現できないのではないかという困惑が筆者の心の中に湧いてきます。

労災保険や労働安全衛生法をはじめとして、「雇用」された労働者の身分であれば、労働関係法令による保護が受けられるのに、見方によっては「委託」「請負」で働く自由度と引き換えにセーフティネットの外に身を置くことになるフリーランスという立場を選択する(せざるを得ない?)人材をどのように保護していくのか、そのような働き方を仲介する事業者はどうあるべきなのか、まだ十分に見えてこないような気がします。戦後三分の二世紀にわたって、規制緩和と強化の繰り返しの下で事業を行ってきた「職業紹介」業界に身を置く筆者としては、その経験をもとに今後とも発言していくことになりそうです。
以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)