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労働あ・ら・かると

情報の賞味期限

就職・採用アナリスト 斎藤 幸江

●素早い対応がZ世代をつかむ
担当しているキャリア教育科目の授業で、久しぶりに対面のグループワークを実施した。コロナ禍を経て授業が対面に戻ったものは昨年。しかし、「まだ、密はちょっと……」と学生も引き気味で延期し、ようやく、満を持しての実施である。
それでもと不安だったが、予想以上に盛り上がった。
「本当に楽しかったし、思った以上に意欲的に参加できた」、「苦手な人がいて、自分の意見を抑えてしまった。一方で、自分にとってコミュニケーションがとりやすい相手や環境を知ることができて、よかった」など、それぞれのシチュエーションで経験を前向きにとらえており、ホッとした。
「ぜひ、またやりたいです!」との声を受け、授業とは別に自己分析ワークを有志で実施することにした。
1割くらいの学生から、「参加します!」との声が挙がったが、こちらのスケジュールの調整がうまくつかず、実施が1ヶ月後になってしまった。すると、あっという間に参加意欲が減退。1週間前に参加可否の確認メールを送ったところ、参加希望者はゼロになった。
Z世代の興味は移ろいやすい。気持ちが高揚して「やろう!」とその気になった彼らに素早く反応しないと、あっという間に冷めてしまう。彼らの意欲を上手に育てたいなら、即応するか、うまく刺激して高揚感を持続させていくしかない。

●ネットが賞味期限を加速する
昔話になってしまうが、就職情報が紙媒体からネットに移行してから、採用活動に大きな変化があった。それは、就活生が「新しい情報にこそ、価値がある」と評価するようになったことだ。
紙媒体の世界では、ライブで採用状況を知ることが難しい。そこで、就活生自ら企業に問い合わせをしたり、大学にまだ掲示されている求人票をもとに応募したりという方法が一般的だった。2〜3ヶ月前の求人情報でも、学生にとってはチャンスだったし、事実、採用の門戸を開けている企業も多かった。
しかし、ネットで大量の情報が提供され、さらに新しい情報が次々と寄せられるようになると、古い情報への評価が下がった。紙媒体の時代の感覚で採用していた企業側は、「ホームページに採用は終了したと書いていないし、エントリーもできるのだから、応募して欲しい」と期待していたが、まったく見向きもされないのだ。
就活生に「採用側はそう言っている」と話すと、「2ヶ月も更新されない求人情報は見ないし、もし見つけたところで、もう終わっているかな、あるいは、更新もしないでまだ採用活動を継続している企業って、どうなの?って、思いますよね」と言われた。

●高まる「新しさ」への価値評価
その後、ネットの発信する情報量は急激に増加した。ユーザーは、刻々とアップデートされる情報に、刺激や期待を求めるようになった。同時に、新しいもの=より価値があるといった評価が、なんとなく浸透してきたように思う。
私自身、仕事で情報収集する際、見つけたデータが2〜3年前のものだったら、「ちょっと古いかなぁ」とがっかりしてしまう。客観的に背景や用途を考えてみると、別にそのくらいの古さは問題がないにもかかわらず、だ。
現代という時代は、変化が激しい。時流をつかみ、柔軟に対応して流れに乗っていくことこそが、生き残りには必要––。そんな風潮もあって、新しいものを次々とつかむことを、過度に希求する傾向が、特に若い人の間で強くなっている。
その一方で、古いもの、今の自分の気分に即応してくれないものに対して、評価がどんどん低下している。こうしたZ世代の新旧に対する価値の格差は、我々が考える以上に広がっているのだ、と今回のグループワークの機会を通じて、認識させられた。

●「新鮮さ」の提供が魅力維持に
Z世代は「新しいこと」志向について振り返ると、思い当たることがいくつかあった。
たとえば、企業側からの連絡が遅れた時の反応である。
「面接の結果は2週間以内に連絡します」と言われた時に、その期限を超えた時はもとより、1週間を過ぎたくらいから、その企業への興味が薄れる学生が、体感では増えた。
重複内定にしても然りだ。志望度の差が微妙な時は特に、客観的判断ではなく、「直近に出た内定」を選択する傾向が出てきているようだ。
「新鮮さ」が彼らの意思決定に大きな影響を及ぼしているのなら、やはり、ここは対策が必要だ。
インターンシップから早期選考へのプロセス、重複内定の可能性がある応募者のフォローなどで、間が空いてしまう時は要注意。ここで放ったらかしにせず、何らかのアクションを起こした方がいい。雰囲気を伝える職場の小さなできごとを伝えるなど、簡単でいいので、応募者の興味を刺激する投げかけを行いたい。「過去のもの」にさせない工夫が、Z世代の採用に求められている。