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労働あ・ら・かると

「労働あ・ら・かると」寄稿開始15年に想う

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

筆者がこの「労働あ・ら・かると」に最初に寄稿したのは2008年12月のことですから、連載をお引受けしてまる15年経過し、16年目に入ったということになります。
この間様々な視点からのご指摘、叱咤激励をいただいた読者のみなさまに、改めてこの場をお借りして御礼申し上げます。

15年前の原稿を読み返すと「人材紹介と人材派遣の違い」と題して、今は亡き母に「人材紹介の業界に移ることにしたよ」と話すと、母は「女衒(ぜげん)になるのか」と嘆いたこと、労働者派遣と職業紹介の違いの理解を求めること、大事なことは「徳性ある有料職業紹介事業がどう発展するか」にあることなどが稚拙な文章で綴られています。それから15年経過した現在は、さすがに人材ビジネスについての社会の見方は少しは進んだと思いますが、まだまだ古い時代の考えのままの方もいらっしゃることは忘れてはならないと自分に言い聞かせています。
そんな記憶をたどり、想いを巡らせながらこの15年間、進歩したこと、変化しないことを振り返ってみていますが、「人材紹介と人材派遣の違い」の社会からの理解については、道半ばの感をぬぐえません。
広く言えば「人材ビジネス」と言われる範疇に双方属するのでしょうが、「ハケン会社はけしからん。」というお電話をいただいた時、じっくりお話を伺うと求人広告会社のことであったりすることすら未だある一方で、IT技術進歩によるWeb利用の劇的な発展により、利用者にとって職業紹介と求人情報提供の区別がつきにくくなっている現実に直面しています。

15年前の2008年の経済社会と言えば、何より記憶にあるのはリーマン・ショックでしょう。翌年の2009年7月には、日本の失業率は5.5%と戦後最高水準にまで達し、その後、実質GDPは1年間マイナス成長を続けたことの記憶の風化を防ぎ、教訓化したことは、一部ではあるかもしれませんが、雇用対策などを見ていると、今回の新型コロナウィルス感染症による社会の混乱防止に役立っている点があるように思います。
同様に、新型コロナウィルス感染症が鎮静化に向かっている今でも「喉元過ぎても熱さを忘れるな」と、必ず再来するパンデミックへの備えのための検証が必要だと唱えることは、大事なことだと思います。

人びとの生活に目を転じれば、この15年間の一番の変化として挙げられるのは「一億総スマホ携行時代の到来」だと思います。皮肉なことに働き方改革の目指す「一億総活躍時代」より早く実現したように見えます。
1970年の大阪での日本万国博覧会において、日本電信電話公社(当時)は、「未来の電話」として、ワイヤレステレホンを展示したと聞いています。その後1987年に携帯電話サービスが始まり、技術進歩による端末の高性能化が一気に進んできました。15年前の2008年における携帯電話・PHS世帯保有率は、総務省「通信利用動向調査報告書」によれば、95.6%(因みに同固定電話保有率は90.9%)でしたが、2022年には携帯電話は33.8%となる一方、スマートフォン90.1%に達しています。(iPhoneが米国で発売されたのは2007年)
この状況は人々のコミュニケーションスタイルを大きく変容させていることは間違いないでしょう。
15年前の通勤地下鉄の中では新聞を読むビジネスパーソンを見かけましたが、筆者が見た今朝の車内では、新聞紙は皆無でほぼ全員がスマホの画面を見つめる光景が広がっていました。
「一億総スマホ携行時代」は、通勤交通機関の中の光景を変えただけではありません。スマホの機能は多岐多様に進化発展しています。
指折り数えてみても、「一億総スマホ携行時代」は、「一億総カメラ携行時代」であり、「一億総郵便配達ポスト&郵便局時代」「一億総図書館・百科事典携行時代」「一億総映画館携行時代」「一億総放送局&視聴者時代」「一億総秘書通訳随行時代」「一億総財布&決済口座携行時代」と言ってもよく、更に進化を遂げています。
高齢を言い訳にする筆者でさえ、なんとかデジタルデバイドを克服しようと、携帯電話はもちろん、搭載された機能の半分もいかないでしょうが、それでも電子メールの送受信、文書の作成・閲覧、写真・ビデオの撮影・再生、カレンダー、電話帳住所録、計算機などの機能を(操作スピードは鈍いですが)使えるよう頑張っているのですから、若い現役バリバリ世代の人材は、もっともっと使いこなしていることでしょう。
これらの変化は、当然に社会にも雇用環境にも大きな影響を既に与え、これからも与え続けていくことは、まず間違いのないことだと思います。

「働き方改革関連法」の施行が始まったのが2019年4月からですから、まもなく5年経過することになります。
もうあと三カ月の話となった、時間外労働時間規制や裁量労働制の改訂、労働条件通知書記載項目の改訂などの労働基準法と施行規則改正の来春施行、その影響を受けた改正職業安定法施行規則の施行から目を離すことはできませんし、労働関係法令の改正には「5年ごとの見直し」が附則に定められることが多いからこそ、この「5年区切りの振り返り」によって「これからの5年10年」に備えることが大切でしょう。

筆者の守備範囲の中心の職業安定法は、労働基準法や労働契約法による雇用や雇用類似の関係法施行前の、予告編段階の募集選考過程を所轄するわけですから、こちらも変化の波の外であるはずがありません。
改めて今年10月にこの「労働あ・ら・かると」で触れた「新しい時代の働き方に関する研究会報告書」を読み直し、今年度内にはスタートすると思われる、この報告書を受けての労働法学者を中心とした研究会での論議に刮目すれば、「次の労働基準法改正」への道筋が見えてくるでしょう。

シンギュラリティ「AIが人間の知能を追い越し、人間の予測不能なことが起こると言われている転換期」の2045年までは、あと20年ちょっとです。世の中の変化のスピードが劇的に速くなっていることを考えると「5年ごとの見直し」でまにあうのか、3年ごとでも遅いのではないかという焦燥感も心を過ぎらないわけではありませんが、正月という年の区切りが間もなくの今日、改めて来し方行く末を考えている次第です。
みなさまが良い年をお迎えになるよう祈っております。

以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)