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過去の事故の教訓化と日頃の訓練の重要さ ―羽田空港事故の報道を受けてー

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

新年元旦早々の能登半島地震、2日の羽田空港事故と、昨年から続く世界各地での戦争の憂鬱な報道に加えての衝撃的なニュースに、愕然としたのは筆者だけではないでしょう。
改めて能登半島地震で亡くなられた方々と、羽田空港で亡くなられた海上保安庁の5人の方のご冥福をお祈りし、被災者の皆様にお見舞いを申し上げます。

元旦の夕方、津波警報のTVアナウンサーの「津波。逃げて。」「TVを見ていないで逃げて!」という絶叫調の激しい言葉での伝え方は、以前には無かったように思います。TV局の中で、東日本大震災の時の避難呼びかけについて振り返り作業がなされ、教訓化されたマニュアルがあったと伝えられています。
でもただマニュアルがあっただけでは、あれほど適切な放送はできなかったでしょう。推測ではありますが、プロのアナウンサーは毎日顎の筋肉を円滑に動かす発声訓練をするそうですし、日ごろの訓練なしにあの声あの絶叫ができるとも思えません。

1月2日に羽田空港で起きてしまった、海上保安庁の能登半島に救援に向かおうとする飛行機と、着陸した日本航空の旅客機との衝突炎上も記憶に新しい事故です。衝突から18分間で、379人(乗客367人、乗員12人)全員が炎上する機体から避難を完了したことは、海外メディアから「奇跡」とも称賛されました。
でも筆者は単なる奇跡ではないと思います。以前職業分類の改訂にかかわった時、フライトアテンダント(客室乗務員)の分類について、その仕事内容(Job-description)を読めば読むほど「これは『保安の職業』だ。」と思ったことがありました。それほどに「安全」についての記述が多かったのです。
航空関係者の方から伺った話では、客室乗務員の方々は、どんな飛行機にも乗務できるわけではなく、機体ごとに異なる非常口の位置や客室内設備の構造について徹底的な研修や避難誘導訓練を受けてはじめて、その機種の便に乗務できるということでした。

もちろん、求人広告の専門家から見ると、「客室乗務員は『サービスの職業』に決まってるでしょ。」「応募者の視点では『サービスの職業』ですよ。」と話され、現在の厚生労働省編職業分類表では「大分類09 サービスの職業/中分類056 接客・給仕の職業/小分類056-06 客室乗務員、船舶旅客係」となっています。応募人材の目にとまる職業イメージは、やはり「サービスの職業」であることに筆者は異議ありませんが、就職活動を始める学生のみなさんや、転職再就職を考えて求人「広告」を見る人材の方々には、広告の文言だけではなくその後ろにある「職務内容」を見抜く力、調べて把握する力を持ってほしいと思います。

原因究明と教訓化は、現在も続けられているでしょうが、直ちに管制塔使用用語と運用が改訂されたことは素晴らしいと思います。今後も脱出訓練のマニュアル等のなお一層の改善も実施されることでしょう。
年初から飛行機に乗る機会の多い筆者ですが、離陸前の安全ビデオの案内の声が以前よりやや厳しめの口調で「乗客のみなさまの安全のためですから必ずご覧ください!」と聞こえたときには、さもありなむと思わずうなずいてしまいました。きびきびと離陸前点検を行う客室乗務員の働きぶりからは、職務への誇りが感じられ、これは決して「ブルシットジョブ」(どうでもいい仕事)なんかではないと、改めて思いました。

事故や災害が起こってしまったときには、目前の被害者被災者をどう救援対処するかが、まず真っ先に課題となるのは当然ですが、一方で冷静に事故や災害の発生原因を究明し、すぐに実行すべき再発防止策、可能な限り速やかに実施すべき再発防止策、根本的に解決すべき課題があるのであれば抽出して対処策を考えるといった教訓化作業が、「社会の進歩」につながると改めて考えさせられる今年の一月でした。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)