インフォメーション

労働あ・ら・かると

入管法改正後外国人材の受入れに何より必要なこと

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

閉会した今国会(第213回通常国会)で、我が国における外国人材の活躍に大きな影響がある二つの法律の改正が行われました。
一つは「出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案」で、施行は公布後2年内、もう一つは「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案」で、こちらの施行は公布後3年内とされています。
前者の法案は途中で修正案が出されて可決し、衆参両議院法務委員会で附帯決議がなされていますし、後者についても多項目の附帯決議(衆議院14項目、参議院29項目)が行われての可決成立でした。

立法府の国会議員が、法務省出入国在留管理庁の行政運営に懸念を表明しているとも言えるこれらの附帯決議を、どのように尊重した政省令通達等を所轄官庁が作成発出して運用していくのか、目が離せませんが、実際に外国人材を日本に招へいする場合や、実際に日本で働く(そして暮らす)現場がどのようなものになっていくのか、成立した法律だけを読んでも、何ともイメージがわかないのは、筆者だけでしょうか。

前者の法改正によって、現在の在留カードはマイナンバーカードに一体化するという方針は法律条文から読み取ることができます。しかし「一体化」されたマイナンバーカードの表面には、目に見えるどのような項目が記載され、ICチップ経由で読み取る項目がどのようになるのでしょうか。
現在、民間職業紹介事業所においては、外国籍の求職者が求職登録を希望する場合、在留カードの提示を求めるよう指導されています。事業者としても不法就労あっせんに加担しないよう、在留資格の範囲内での求人に紹介する必要があるので、今は在留カードを拝見していますし、例えば「留学」の在留資格であれば、カード裏面に資格外活動許可が記載されているかを点検して、許可された範囲の求人について適格な職業紹介を行うことになるわけです。

健康保険証のマイナカード紐づけを行い、医療機関で診察を受けられたことのある読者の方はご存知と思いますが、現在徐々に医療機関の受付には「カードリーダー」の備え付けが進んでいます。その設置費用は各医療機関が負担し、厚生労働省から費用補助が交付されていると聞きます。
医療機関の数は全国で18万近いと聞いていますが、全国の有料無料職業紹介所や、特別の法人・特定地方公共団体を合わせると公共職業安定所(ハローワーク)以外の職業紹介所が全国で約3万1,000強、派遣の事業所が4万3,000強、これに本所・出張所・分室合わせた全国の公共職業安定所数604を加えると7万4,000台以上のカードリーダーの設置(医療機関窓口の4割)が必要だという計算にならないでしょうか? カードリーダー単価1500円として、一体いくらのコストになるのでしょうか?

携帯電話契約時の本人確認をめぐっては、身分証を偽造して携帯電話の所有者になりすまし、被害者のSIMカードを乗っ取ってしまう「SIMスワップ」「SIMハイジャック」が問題視されていると聞きます。デジタル庁はICチップ読み取りによる本人確認を推奨してたはずです。
ハローワークや地方公共団体や民間の職業紹介所が、国籍により差別することなく適格に外国人材の職業選択の自由を確保することを実現するためのコストは計算しての法案提出審議だったのか、これからの詳細広報を待ちたいと思います。

後者の法案による「育成就労制度」中の外国人材の転職については、民間職業紹介事業者は「かかわらせない」とのことですが、特定技能の在留資格に移行したのちも「民間職業紹介は悪」といった先入観があるのではないかと勘繰りたくなります。
過去の技能実習制度が国際的にも非難され、当局の摘発も多数あった原因は、職業紹介機関にのみあったとは到底思えません。附帯決議の第一項にある「我が国が外国人材にとって魅力ある働き先」であるためには、仲介事業者のみを悪者扱いするのではなく、この制度の利用者である求人者・雇用主が、なにより安価な人手」という発想を捨て、「経営資源としての人材への投資」を惜しまずに外国人材の活用、共生を図っていくことが何より必要だということなのです。
5年前1月のこの「労働あ・ら・かると/働き方改革 いろはかるた 2019」をもう一度読み返しています。「に:人間がやってきた。労働力を求めたら。」

以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)