労働あ・ら・かると
求人せずに人手不足を乗り切ろう
社会保険労務士 川越雄一
〇求人を出しても応募どころか問い合わせすらない会社も少なくありません。そもそも今いる従業員が離職しなければそう頻繁に求人する必要はないはずです。もちろん、一つの会社に勤めあげる時代でもないという考え方も広まってきていますが、中小企業には離職のダメージは大きく事業の存亡にかかわります。では、離職率を改善し求人をせずに人手不足を乗り切るにはどうしたら良いのでしょうか。
1.応募がない、採用してもすぐ辞める
〇仕事を探している人がいないわけではないのに、応募者がない、採用してもすぐに辞めてしまい年がら年中、求人・面接・採用・離職という会社も少なくありません。
●求人を出してもさっぱり応募がない
〇今、世間一般では人手不足だといわれており、求人を出すもののさっぱり応募がなく、問い合わせすらありません。「本当に当社の求人票は公開されているのだろうか」と疑いたくもなります。そこで、藁にもすがる思いで有料の求人媒体を使ってみたり、採用コンサルタントに頼るもイマイチ効果がありません。
●採用できても早々に辞められる
〇応募が少ない中、それでも何とか採用はできたものの早々に辞められることもめずらしくありません。会社はそのたびに振り回されてしまいます。もちろん、当たり障りのない理由をつけて辞めますが、結局のところ会社を見限っているのです。応募がないのは辛いですが、採用後早々に辞められるのはもっと辛いものです。
●今いる従業員も一人辞め二人辞め
〇確かに、大手のような人事異動のない小さな会社では、たまに人が入れ替わるのは、まったく悪いことでもないでしょう。しかし、1年に従業員の2割以上も入れ替わるとなれば話は別です。新入社員に仕事を教えてもすぐに辞められれば教えがいもありません。こうして、今いる従業員も浮き足立ち一人、二人と辞めていきます。
2.定着の悪い会社に多い3つの傾向
〇求人難の原因は採用した従業員の定着の悪さにもあります。そもそも、採用した従業員が定着してくれれば、そう頻繁に採用活動を行う必要はないからです。そして、定着の悪い会社には共通した傾向があります。
●採用手順が甘い
〇採用手順に絶対的な方法があるわけではありませんが、最低限押さえておくべき手順はあります。経験則ながら、定着の悪い会社は踏むべき手順を踏んでいません。例えば、求人票に空欄が多くスカスカ、面接前後のフォロー不足、内定時の打ち合わせ不足などです。採用手順が甘いから問題社員候補には歓迎され、まっとうな人には“なめられる”のです。
●労働条件の不備
〇賃金・休日・労働時間といった労働条件が世間並みでないと採用は難しくなります。仮に採用できたとしても、しばらくすれば「これじゃー無理」ということで早々に離職されます。人の欲求というのは進化するからです。例えば、空腹時には何でも食べますが、それを満たせばより美味しいもの、雰囲気を求めるのと同じです。
●お互い様感覚の欠如
〇完璧な従業員はいませんし、労働条件や仕事の内容など完璧な会社もありません。つまり、中小企業の雇用関係はお互い様感覚がないと長続きしないのです。それなのに、採用した従業員に完璧を求め過ぎるので関係がおかしくなります。従業員は会社の鏡ですから、会社のレベル以上に良い人を採用・定着させることは難しいのです。
3.離職率改善へ向けた3つの取り組み
〇採用と定着は一体のものです。今いる従業員が安心して定着すればこそ、求職者も安心して応募しますから採用もうまくいきます。定着に魔法の杖などなく、まずはルールに基づいた雇用関係をつくり従業員に安心感を持たせることがポイントです。
●当たり前のことをルール化する
〇中小企業の雇用関係はどうしても恣意(しい)的になりやすくなります。恣意的というのは、その都度の思いつきでというようなことですが、働く側にしてみれば何とも不安なものです。ですから、雇用関係に関することはできるだけ規則的に行えるようルール化します。具体的には就業規則や雇用契約書など文字にしておきます。
●ルールに沿って公平に雇用する
〇昔であれば「オレがルールブックだ」という経営者も少なからずいました。いわゆるワンマンといわれる方ですが、これも「強く、正しく、潔く」を旨とすれば全面的に悪いわけではありません。しかし、「強く、正しく、潔く」が貫けないのであれば、やはりルールに沿って公平に雇用することが従業員の安心感につながります。
●ルールと恩情を区別しておく
〇ルールは会社と従業員それぞれに権利と義務を課します。それに対して会社の恩情は見返り無しが大原則です。これを混同してしまい「〇〇をしてやったのだから、……」となれば、「はぁ、今頃になって……」となりますから、この2つは区別しておきます。区別できないのであれば下手に恩情はかけないことです。
〇人手不足であれば求人に目がいくのは当然ですが、その前に今いる従業員の定着に注目すべきではないでしょうか。求人難の今、思うような採用ができないわけですから、そのほうが現実的だと思います。