労働あ・ら・かると
今月のテーマ(2012年01月)有期労働契約の在り方についての審議会の建議をどう考えるのか
有期労働契約の在り方について、審議会から建議が行われた。
もっとも注目されるのは、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合には、労働者の申出により期間の定めのない労働契約に転換させる仕組みを導入するという点である。
いわば有期労働契約の継続期間の上限を5年にしようというもので、初めての試みだ。
この規制は、有期労働契約の継続期間が5年になれば有期契約労働者が雇止めされることを意味するというのが常識的な理解だろう。審議会の建議でも、「制度の運用に当たり、利用可能期間(5年)到達前の雇止めの抑制策の在り方については労使を含め十分に検討することが望まれる」との記載がある。
これは、有期労働契約の継続期間が5年になれば有期契約労働者が雇止めされることを懸念してのことであろうが、所詮懸念の表明がなされたに過ぎず、その解決策については何も示していない。その点では、極めて無責任としか言いようがない。
もし、有期労働契約の継続期間の上限が実態的にも何もなかったとすれば、建議による規制は、有期契約労働者の雇止めを促進することを内容とする規制ということができよう。
ところが、雇用の実態はそうはなっていない。多くの企業が有期労働契約の継続期間の上限となる期間を定めている。そして、その多くが3年を切る期間に設定されている。
特に、2年11月に設定しているところが多く、そのために有期契約労働者についても2012年問題というものが顕在化しようとしている。
なぜ2年11月に設定しているかといえば、労働基準法で労働契約において定めることができる上限期間が原則として3年と規定されているからだ。
本来労働基準法で定める労働条件の基準を理由として労働条件を低下させることは禁止されているのだが、同法において労働契約で定めることができる上限期間を原則として3年に定めていることを理由として有期労働契約の継続期間の上限期間を2年11月に設定しても、この禁止には当たらないという取扱いが行われている。
このため、実態としては、建議による規制によって、有期労働契約の継続期間の上限期間が2年11月から5年に延長されるから、有期契約労働者の雇止めまでの期間は延長されることになる。
そのことは、有期契約労働者の雇用の安定化が図られるとみることもできる。
この点については、有期契約労働者という不安定な地位にいる期間が長くなるとして、マイナスに評価する見方もあろう。そういう立場からは、有期労働契約の継続期間の上限は短い方が良いのかもしれない。
一方、有期労働契約の継続期間の上限期間が2年11月から5年に延長されることにより、有期契約労働者の雇止めが抑制されることになり、有期契約労働者の雇用の安定化が図られるとみる立場からは、そもそも労働契約で定めることができる上限期間を原則として3年に定めていることを理由として有期労働契約の継続期間の上限期間を2年11月に設定することが労働基準法に違反するという取扱いをしていれば、有期契約労働者の雇用の不安定さを解消できた面があるのではないかと思われる。
このように有期労働契約には見方によって違った評価がなされ得るが、例えば、有期労働契約が反復更新して、実質的に長期の雇用が確保されれば、それはそれで雇用が安定しているという風に評価することはできないだろうか。
もし、そういう評価ができるとすれば、建議による規制は有期契約労働者の雇止めを促進するもので、適切ではないことになる。もちろん、その前提として、有期労働契約の継続期間の上限期間を2年11月に設定することを禁止することが必要であるが。
【木村大樹国際産業労働調査研究センター代表】