労働あ・ら・かると
今月のテーマ(2012年01月 その3)年金支給開始年齢の引き上げと高齢者雇用
年金支給開始年齢の引き上げについての論議がかまびすしくなっています。個人差のある中高年の雇用について、一律に65歳まで義務づけ、さらには68歳や70歳にするという論議には首を傾げざるを得ません。おおむね60歳以上の中高年の再雇用、あるいは外部からの中途採用のいい点と悪い点を再点検してみます。これには自社内での再雇用も含めます。
よく言われるのは「中高年を雇い、ベテランの知見を生かせ」ということです。「過去の経験、熟練技術を生かせ」という。しかし、モノゴトには必ず裏と表があります。過去の経験に頼り過ぎて、最新ではない知識で誤った判断をしてしまう可能性や、すでに陳腐化した技術にこだわるあまり、新製品の開発ができない「頑固副作用」があることを忘れてはいけません。この副作用を抑えるためには、常に最新データを収集して解析する習慣がついた中高年を再雇用することがポイントなのではないかと思います。
もっと現実的にいえば、60歳の賃金水準はそれまでより低くなりますから、コストが安い。また、さまざまな柔軟な契約も可能であり、1年契約の更新が認められるという採用側のメリットもあります。一方で60歳から69歳の男性は6人に1人死ぬという現実、疾病等により勤務不能となる確率はもっと高いだろうということがありますので、人間の寿命、勤務可能な体力健康の節目の必要性という意味からも1年契約にならざるを得ません。また、健康や体力に個人差がつくということも考慮しなければならないということだと思います。
すると、一律に長期的な習熟であるとか、長期的な熟練をさらに期待することは難しいのは自明の理です。ですから、コストが安い代わりに断続的であり、そういう仕事の組み立て方をし、職務転換をしないと中高年の活用はできないと思います。
再就職支援サービスの中では、50歳以上の再就職は職種も業種も変えている事例が多くなっています。賃金を大幅にダウンし、再就職ができています。それまでのような仕事と同じ仕事を続ける再就職では多くの場合ないのです。それは働く側も知っておく必要があります。
人間は年とともに頑固になります。頑固にはいい面もありますが、若者が萎縮してしまうような頑固さは困ります。割り切りのできる、発想の転換ができる中高年を採用するのが高齢者雇用のポイントだろうと思います。成功体験にのみ寄りかかる人間が企業にとって有用ではないことは若者でも同じですが、中高年についてはさらにその傾向が強まることを肝に命じて活用を考えるべきです。
とはいうものの、一方で根拠なく新卒だけを欲しがる企業がありますが、卒業生の数の推移や若年者人口の減少によって企業が必要とする数の若者を確保することはできない現実があるので、労働者人口の減少の現実のなかで、中高年の人材を活用していくことが大切ではないかと思います。
一方で、すべてを中高年で賄えば、短期的な視野では人件費を抑えることになりますが、長期的視点で考えると企業を維持する世代の育成に繋がらないということを無視してはいけません。中高年を雇うということは、総額人件費のなかで若年者雇用にコストをさけないことでもあり、次世代育成の力が弱体化することは無視できません。
大切なことは、中高年の雇用をすすめていくためには、知見を更新し続けられる中高年を雇用することです。後期高齢者になっても、エンプロイアビリティの高い人は、好奇心をもじり「好奇高齢者」といわれています。それが問題解決のキーワードではないでしょうか。
【岸健二(社)日本人材紹介事業協会(略称/人材協)事務局長】