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今月のテーマ(2012年01月 その4)65歳までの雇用

高年齢者の雇用に関しては、既に60歳定年と65歳までの継続雇用などが義務化されているが、例外的に労使協定で継続雇用制度の対象となる高年齢者の基準を定めることが認められてきた。

この労使協定で定める継続雇用制度の対象となる高年齢者の基準を廃止するよう提言する審議会の報告書が出された。

この報告書には、①就業規則における解雇事由または退職事由(年齢によるものを除く)に該当する者について継続雇用の対象外とすることができる、②できる限り長期間にわたり現行の高年齢者の基準を利用できる特例を認める経過措置を設ける、③親会社、子会社、同一の親会社を持つ子会社間、関連会社など事業主としての責任を果たしていると言える範囲において継続雇用における雇用確保先の対象の拡大を図る、といった例外的な扱いも示されている。

この問題は、2013年度からの老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の引上げに伴い無年金・無収入となる者が生じることが背景としてある。

年金支給開始年齢の引上げは国の年金財政がひっ迫することがその理由だから、国の財政状況によって発生した問題のつけを企業に押し付けたということもできる。

無収入の者については、受給期間が限られている雇用保険の失業給付制度や求職者支援制度、これらが利用できないときには生活保護による給付くらいしか収入を確保できる制度がないのだから、国の財政状況を考えると、高年齢者が無収入になっては困るわけで、働く意思と能力がある限り働き続けてもらわなければならないというのは、理解できる。

しかし、そのことから、これまで働いてきた企業に働き続ける職場を提供するように義務を課す形で行うというのは、論理の飛躍があるように思う。

企業と対象となる高年齢者の間には長年の雇用で形成された人的関係があるのだから、その間における評価も蓄積されている。その評価に基づいて、企業として雇用し続ける人を選択できるようにしていたのが労使協定で定める継続雇用制度の対象となる高年齢者の基準だったのだから、その基準が廃止されるとなると、企業としてはあわてざるを得ないだろう。

企業として引き続き雇用したいと考える人材はいるであろう。しかし、一方では、引き続き雇用したくない人材もいることも間違いがない。その際、問題となるのが企業側の都合による解雇に対する制約で、判例で確立し、労働契約法にも規定されている解雇権の濫用の法理や整理解雇の四要素と呼ばれるものは、本当にこのままで良いのか、労使自治の問題はあるにせよ、労働組合との関係をどのように考えるのか、という問題もある。

また、雇用に責任を負うのは決して企業だけではない。働く人本人の責任もあれば、国の責任もある。ところが、報告書では、企業のいわば社助だけが強調されて、働く人本人の自助や国の公助が抜け落ちているような印象が強い。

年金の支給開始年齢は、今後も引き上げられ、将来は70歳あるいはそれを超える年齢となることは間違いないだろう。そうなっても、年金支給開始年齢まで企業に雇用の継続を法律上の義務として負わせるには、無理がある。

そう考えると、定年前でも企業側の都合で辞めさせることができる範囲を広げることも考えて良いように思われる。そういうと、それは司法の判断の問題と言われるかもしれないが、現在では労働契約法に解雇権の濫用が規定されているのだから、その改正など立法(行政による提案を含む)による解決は可能なはずだ。

また、働く人本人の自助や国の公助、企業の社助をどのように分担させるのかも、今のうちに議論を始めた方が良いのではないだろうか。

継続雇用というのは、働く人が同じ仕事を続けられるというプラスの評価もできるが、一方では長い職業人生で同じ仕事しかできないと見ることもできる。

単純な継続雇用という考え方は、どこかで打ち止めにした方が良いのではないだろうか。

【木村大樹国際産業労働調査研究センター代表】