労働あ・ら・かると
今月のテーマ(2012年09月 その2)内定取消し告知を人材紹介会社に押しつける会社
先月、いわゆる「ブラック企業」に勤めている人材の方々からのご相談を受けての随想を書いたところ、ずいぶん大きな反響がありました。
今月は続いて紹介会社に困ったことを押しつける求人企業(たぶん「ブラック企業」の定義とは異なるけれど倫理観のない企業)についてお話ししたいと思います。
私の今の仕事は、人材紹介業を利用する様々な方々(その多くは転職再就職を考える/あるいは活動中の人材の方、民間人材紹介会社を利用して自社の戦力となる人材を確保しようとする企業のご担当者)からのご相談やご意見を承ることが中心なのですが、人材や求人企業の方とのやりとりで困り果てた人材紹介会社からのご相談も、少なからず日々お受けしています。
「内定取消し」をめぐってのご相談は、リーマンショック以降増加し、その後沈静してはいるのですが、けして無くならない定番ご相談事項のひとつです。
採用内定取消しについて、その多くは成立した労働契約予約についての解約であり、いわゆる整理解雇の要件と同等の要素が要求されることは、周知されている筈のことなのですが、どうも行政の姿勢等も新規卒業者についての内定取消し問題に目が行きがちで、中途採用での内定取消しは大きく取り上げられる事が少ないように思います。
人材紹介業の方からの内定取消しをめぐってのご相談の中で目につくのは、人材紹介会社が求人企業から「おたく経由で内定した人材について、内定を取り消したいが、人材に対してその手続き(内定取消しの告知)をしてほしい。もちろんトラブルなくうまくやってほしい。」と言われ、困惑している(どうしたものだろうかと困っている)というものです。
内定取消しの理由は多種多様なのですが、外資系企業の場合は「本国からの採用凍結指示」、国内企業では「オーナーの気が変わった」というものが多いように思います。
「本国からの採用凍結指示」という理由は困ったもので、そういう時になると日本法人の代表者や人事担当責任者は自ら「名ばかり社長」「名ばかり管理職」になり下がってしまい、ひたすら「本国」を振りかざすばかりです。相談された人材会社とご一緒に日本での法律やルールを説明しに行っても、中には「ワールドワイドでリクルートメントがフリーズになったのだから」と、カタカナを連発すればこちらが引き下がるのではないかと思っているのではないかという方もいらっしゃいます。「日本の法律や裁判例などのルールを本国に説明するのも、あなたの仕事ではないでしょうか。」と申し上げるのですが、なかなか聞く耳を持っていただけません。
一方で、「気が変わった」という理由(実際にはいろいろな理由づけが付帯していることが多いのですが、煎じ詰めれば「やっぱりやぁ~めた」ということ)に至っては、返す言葉もありません。
「企業の雇用主責任」については、この「労働あ・ら・かると」でも2009年8月をはじめ、折に触れて言及してきました。今回取り上げたように、企業がその内定取消しの手続きを、通常中途採用のルートとして利用している人材紹介会社に対して依頼する(押しつける)場合に共通するのは、「普段、手数料を払って使っているのだから」という気持ちが見え隠れすることです。また人材紹介会社側にも、ビジネスとして次の求人が受けられるかもしれないという淡い期待感があることが多いことも否定できない事実です。
このような場合の、私からの人材紹介業の方へのアドバイスは、いつも同じです。
「有料職業紹介事業についての厚生労働大臣許可を受けているということは、何をして良いという許可を受けているのでしょうか?自動車運転免許を取得しているということは、許可された範囲の自動車などを運転して良いわけですよね?では有料職業紹介事業許可はどうなんでしょうか?」
言われるとみなさん「なぁ~んだ」という顔(もしくは声)をされるのですが、職業安定法第4条にて、“この法律において「職業紹介」とは、求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることをいう。”と定義されており、みなさん有料職業紹介事業者はそれ(雇用関係の成立をあっせんすること)を有料で行って良いという許可を受けているわけです。
したがって、「間違っても内定取消しという《労働契約予約の解約》の代行を行って良いという許可を受けているわけではないことを、もう一度よく自覚した上で、その企業にお断りしてください。そもそも、そういった法律行為の代理をすることは、‘雇用関係の成立のあっせん’とは両立しない考え方なので、弁護士さんに依頼相談されるよう、内定取消しをしようとしている企業にアドバイスされてはいかがでしょうか?」とお話ししています。
人材紹介業が「単なる前近代的口入れ屋」ではなく「人材採用を中心とした経営コンサルタント」を目指していることを、人材コンサルタントを名乗る方々にも忘れて欲しくないものです。
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)
【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】