労働あ・ら・かると
今月のテーマ(2013年10月)課長の悩みを考えるーその3「部下の評価」について
課長になると喜びもありますが、気が重くなる仕事も出てきます。課長のアンケートをみるとその中に「部下の人事考課が難しい」という回答が2~3割くらいあります。
部下のいない管理職という人もいますが、多くの企業では課長の下に部下がいます。ほとんどの企業は何らかの形で人事・賃金・賞与等の処遇や能力開発、人材育成等に活用するために人事考課を行っています。
課長としての重要な役目は、課の目標、課長の目標の達成と部下の指導・育成です。部下との関わりの中で、課長が悩む項目の一つが人事考課です。人を査定するのですから大好きという人はあまりいないと思います。そのような人は主観的で常に自分の見方が正しいと思い込んでいる人かもしれませんし、偏向的な見方をしているかもしれません。そのような考課者の考課が考課制度のルールにしたがって的確に行われているか、考課内容をよく見る必要があります。
考課者の考課結果が会社内の処遇に影響し、家庭の生活等にも影響を与えると思うと考課結果の重みや考課のコメント、その後の指導が適正であるかどうかを真剣に考えてしまうのが一般的です。考課の実施に当たっては、部下の行動、考課の仕方やルールを踏まえて納得して考課するぐらいの慎重さがあった方が、公正で、納得性のある考課ができようになるのではないでしょうか。そのような気持ちを持って常に考課をすれば、部下との面談において自信を持って話し合いができるということになるでしょう。
課長(考課者)が考課に当たって悩む点はいろいろあります。①考課の結果で人間関係に影響がでるのではないかという心配、②人事考課の内容をよく理解していないので考課に自信がない、③目標設定と考課結果の評価が難しい、④考課のフェードバック面談が苦手である―等です。
これらの点は、多かれ少なかれ多くの管理職が感じている事柄です。その思いがあるので部下の能力開発や成長に真剣に取り組むことになります。そのような悩みを経験や学習をすることで克服することで自分も成長し、部下からも信頼されるような上司になれるのです。
考課の透明性、公正性、納得性を高めるためには、上記4つの問題点の整理と対策を考えることが大切です。
①は、新任管理職で、真面目な人がよく悩むケースです。毎日顔を合わせて協力的に仕事をしている部下を評価することは確かに気が重い仕事です。全員に高い考課をつけることができればよいのですが、実態はそうなっていませんし、できがよい人も悪い人もいます。考課のルールもありますので、それを踏まえて適確に評価しなければなりません。
考課を甘くし、考課者が部下にいい顔をしたいでしょうが、それは会社にとっても本人にとっても決してよいことではありません。各人の仕事の実態と考課の狙い、ルールをしっかり踏まえて、公正な評価をすることです。日常の業務を通してコミニュケーションを密にし、考課結果の事実関係をもとによく説明すると同時に今後の対応を話し合えば、部下も理解してくれますので自信を持って正面から部下と向き合うことが大切です。
②は、考課についての知識不足が原因で考課について自信が持てないということでしょう。人事考課を実施するには、考課のルールがあります。考課の対象は基本的には会社の業務で、私的な行動は会社に被害が及ばないことであれば考課の対象にならないとか、考課は具体的行動をどの考課項目で評価するか、どのような段階で考課するかなど決めなければなりません。初任管理職になった際、考課者研修を実施しているところが多いと思いますので、しっかり考課の仕方や重要性を勉強することです。考課の項目は大きくは業績考課、能力考課、情意考課の3つあります。具体的な考課になりますとさらに小項目がありそれをもとにして考課しますが、例えば、ある具体的な行動を評価する場合、判断力と実務知識どちらで評価したらよいか迷う場合があります。そのようなことは考課の過程で少なからず出てきます。会社の人事考課マニュアル等で考課の仕方や実施要領が書いてありますので、人事制度との関係を理解しつつ自分でしっかり勉強していくことが大切です。
考課者が陥る問題点が書籍でもよく紹介されています。知っていれば考課の際に役に立つこともありますので、簡単に紹介しておきましょう。
1)ハロー効果は、被考課者が何か優れている点や劣っている点があるとその特性に惑わされて他のものまで優れている、あるいは劣っていると考課する場合があります。部下の行動事実に基づいて考課項目ごとに考課します。
2)寛大化傾向は、人間の判断は常に正確であるとは言いがたく、判断に甘辛があります。人事考課については、部下に甘くなる傾向にあります。温情的考課は部下のためにはならないとの認識の下で事実に基づいて厳正、公正な考課を行うように努力します。
3)中心化傾向は、考課結果が中心による傾向で、優劣の差があまり出ない状態をいいます。考課者が優劣をあまりつけたがらない心理が反映した結果とみることもできます。被考課者の行動を考課基準に照らし厳正に考課することが大切です。
上記の他に、「論理的誤差」は、一つの考課項目が優れていると、それとの関連の項目も優れている、逆に一つの項目が劣っていると他の関連項目も劣っていると思って考課する考え方。「対比誤差」は、自分がよく知っていることについては考課が高く、あまり知らないことについては考課が低くなる。その逆の場合もあります。
いずれも問題のある考課の仕方ですので、常に部下の具体的行動を明確に記録し、事実に基づいて、どの項目で評価するか、どの段階で評価するかを厳正、公正に評価することが重要です。
③目標設定と考課結果の関係を公正で納得感を持たせることは大変ですが、目標設定のレベルを部門間の集まりで調整しているなどの企業があることは、前回の目標設定、進捗状況で書きましたのでご参照お願いします。
④人事考課のフェードバックが苦手の人もいます。人事考課の中で最も大事な点はフェードバックの実施による人材育成です。考課のフェードバックは考課の良い人には行いやすいのですが、考課の悪い人との面談は多少気が重くなるようです。それは考課者だけでなく被考課者も同じです。上司に何を言われるか、自分の今後の仕事の取り組み姿勢を上司に話さなければなりません。
最近、フェードバックを実施している企業が増えてきていますが、その内容はまだ十分ではないようです。各部下との話し合いするを時間が短く、今後の能力開発、人材育成等についての話し合いが不足しているとの意見があります。これは、管理者だけの問題ではなく、自分の考え方を示さない部下自身にも問題がある場合もありますが、それをどのように引き出すかということは上司としての大事な仕事ですので、苦手だけでは済まされないことになります。部下ごとの良い点、問題点、将来の育成などの点を事前に整理し、部下との面談に臨むことが大切です。話やすい雰囲気をつくり、部下の言い分や質問にもていねいに答えていけば、上司の言っていることにも理解を示し、両者の信頼関係を強めていくことになります。
【MMC総研代表小柳勝二郎】