労働あ・ら・かると
「女性の活用について考える」その1女性活用の現状と課題
安部首相が唱えるアベノミクスは、デフレからの早期脱却と経済再生を実現するために、第一の矢として「大胆な金融政策」、第二の矢「機動的な財政政策」、第三の矢「民間投資を喚起する成長戦略」を掲げて取り組んでいます。第一、第二の矢による円安と景気対策等の効果により輸出産業を中心に企業業績が回復するなど、長い間のデフレ状況から経済・経営環境に明るさ感じられるようになってきました。
日本経済の持続的成長を推進する役割を担う第三の矢にどのような政策が盛り込まれ、どのように実行されるのかが国の内外から注目されています。政府は、雇用の確保・賃上げで消費を高めて景気を良くし、企業業績の改善による企業の設備投資、雇用増・賃上げ、消費拡大と言った「経済の好循環」を実現したいとしています。高齢者の雇用の確保については昨年の4月に改正高齢法が施行され65歳までの継続雇用が実現しました。今年の労使交渉は、政府が積極的に関与するなど例年と異なる動きになっています。
それが影響してか、久しぶりにベースアップが大手企業の多くに実施され、今後は、雇用者の約7割を占める中小企業が、厳しい経営環境の中で、どのような対応をするかが注目されています。政府は今年の4月から消費税が上がることもあり、賃上げを日本経済の持続的成長につなげたいという思いが強くあります。これは多くの国民の願いでもあります。
第三の矢の「成長戦略」との関係で大きく注目されていますのが「女性活用」の問題です。女性は人口、雇用労働者の約半分を占めています。女子の大学への進学率が2013年は45.6%となっています。しかも総じて優秀です。そのような女性が、長い間培った能力を社会が十分活かしてこなかったということが今日までの実態です。政府関連の資料によれば、女性管理職割合の国際比較では日本は11.1%です。欧米の主要国は30%~40%ですので大きな開きがあります。また、日本の上場企業の役員等に占める女性割合は1.2%と低い比率になっています。
日本経済の再生には女性の力が不可欠ということで、政府は2020年までに指導的地位に占める女性の比率を30%程度まで増やすとか、全上場各企業の役員に1人以上の女性を登用することを掲げています。企業でもこれらの動きを踏まえて、女性の活用や処遇、働く環境の整備などが論議・実施の動きにあります。
少子化と女性の活用の問題は密接に関連しています。いずれもかなり前から問題になっていたにもかかわらず今日まで危機感をもって取り組んでこなかったつけが来た感じです。遅きに失した感はありますが政労使に女性自身も含めて早急に対応策をとる必要があります。
少子化の問題は先進諸国で見られる現象でありますが国によって多少異なっています。
日本では、厚生労働省が2012年の出生率は1.41人(1人の女性が生涯に産むとされる子供の数)と発表しました。1.4台は16年振りとのことです。人口を維持するのに必要な2.07には程遠く、出生数は103万7千人と前年より1万3千人減少し、過去最低でした。日本の出生率の低下は、女性の社会進出との関連で未婚率、結婚年齢が高まったことや結婚後の初産年齢が30歳を超えるようになったこと、子育ての環境整備が不十分であること等が影響していると思われます。早めに結婚するフランスは、出産に対する対応策が厚いことも反映してか出生率は2.01と先進諸国の中では最も高い数字になっています。
日本の出生率が低い理由は、その他にも待機児童の問題や長時間労働、家事労働、税制の問題、雇用制度など子供をもつ女性が仕事と家庭の両立させることが難しい環境があり、子供を産みたくても産めないとの声も高まっています。
高度成長期は賃金・物価とも上がり、ローンを抱えている生活はそれなりに大変でしたが男性のみの収入(シングルインカム)でも子供を育てつつなんとか生活ができていたように思います。当時は女性の進学率は今日ほど高くなく、世間も会社も結婚、出産を契機に退社するのが当たり前のような感覚で、“寿退社”という言葉がありました。
ここ二十年余りは経済・経営環境が厳しく、物価はデフレで多少低下しましたが、賃金は、企業競争の激化や業績の悪化等で上がらず、日本の高物価構造やライフサイクルが従来通りの下で、大学等への進学率や子供の教育費等が高まり、ダブルインカム(夫婦共働き)でもなければ生活できない状況になっています。
このような環境の変化や女性が生涯社会とかかわって仕事をしたい等の動き、第3次産業の高まりなど産業構造の変化で女性が働きやすい社会になりつつあること等が重なる中で女性の就業意識が強まってきています。その変化に行政の政策や企業の対策が後追いになっているのが実態です。
現在働いている女子の心配事は、出産・育児に費用がかかるという問題もありますが、それよりも子供を産み・育て、働きに出かけられる環境と働くことへのモチベーションが高まるような状況をつくって欲しいということが本音ではないかと思われます。そのような環境を整備することなく、女子の活用を数字で囃し立てても多くの女性をその気にさせることは難しいでしょう。
小生も学卒者の入社の面接に何年もかかわってきましたが、女性の能力・言動の力は非常に高まってきています。それらの能力を生かしていくためには、女性自身が意識を変えることも必要ですが、まずは働きやすく、やる気の出る環境を作り、出産・育児に当たっても辞めたくないのに辞めざるを得ないような環境は早急に改善していく必要があります。そのための方策については今日まで多くの議論がされ、課題も明確になっていますが、実施は期待されたように進んでいないのが実態です。政府、企業もそのような立場に立つ女性の声をしっかり聞いて具体的な対策を早急にとることが大切です。
子供の誕生、健全な育成は、明日の日本、企業にとっては大変重要なことです。自分の選挙や任期中の利益も大切でしょうが、国のリーダーに値する人たちには、国全体の将来を見据えた対応が強く求められています。
MMC総研 代表 小柳勝二郎