労働あ・ら・かると
社会保障プログラム法案の実施に寄せて
わが国の懸案であった社会保障改革がようやく動き出す。昨年に議論された社会保障改革国民会議の報告に基づいて、12月の国会で成立した「持続可能な社会保障制度の改革を図るための改革の推進に関する法」が4月から実施される。この実現のためにすでに成立した消費税率の3%かさ上げと連動して、過去数年にわたって論議され、実行されなかった社会保障の具体的改革がいよいよ始まるのである。同法第7条の規定によって設置された「社会保障制度改革推進本部」は、本年2月14日から第1回の会合が開き、具体的な動きを始めた。とはいっても、「改革」として4月から実施されるのは実際には限られている。社会保障改革国民会議の報告内容に従って4月から行われるのは、医療保険制度では70歳から74歳の医療費自己負担の増額実施である。よく知られているように、これは医療制度改革の実施以降、法令に明記していたものを政権担当当時の与野党ともに政治的思惑から行った軽減措置によって1割自己負担のままであった。それが、ようやく70歳の誕生日の翌月から(1日が誕生日の場合はその月から)75歳の誕生日の前日まで、収入に応じて2割または3割となる。冗費の削減と高齢者に偏った社会保障の優遇を排する、という意味は大きいが、その内容は本来の法規に戻るだけで、厳密に言えば到底本法に示す「改革」の名に値するほどではない。
次に高額療養費制度の改革がある。これも厚生労働省サイドではすでに2011年にその見直しが指摘されていたが、進まなかったものである。制度ごとに公費負担が異なるこの制度は、近年総負担額が急増している。改革案としては一般所得者の負担区分をさらに細分化して、負担に齟齬が生じないようにする、高額所得者から低所得者まで、それぞれに年間上限額を設けて過剰な給付を制限する。また、高額療養費支出のために受診時に定額の自己負担金を課すこと等が表明されていた。今回は4月から年齢区分と基準額の改正を行い、順次国会でさらに改革を進める予定である。これも消費税増税に見合った、思い切った改革とは言い難い。
このほか、国民健康保険及び後期高齢者医療制度の低所得者への保険料軽減措置を行う。国保の場合、保険料算定根拠となる世帯加入者人員に応じて算出する「応益負担」を減額するというもので、夫婦と子供1人のモデル世帯の場合、5割軽減の対象は現行の「年収98万円超~147万円以下」から「98万円超~178万円以下」になる。2割軽減も「147万円超~223万円以下」だったものを「178万円超~266万円以下」に改める。この措置により、およそ400万人の適用対象者が軽減の恩恵を受けるといわれる。さらに政府は後期高齢者医療制度にも現行被保険者保険料の軽減措置を行う。これによって増税額5兆1千億円のうち、625億円が投入されるというが、実施した後でないと正確な金額はわからない。
4月から実際に目に見える形で行われるのはこのような内容である。しかし、人々が求めるのは果敢な改革の精神と思い切った制度改革案の早急な呈示である。消費税増税という負担に合意した人々に、その覚悟に見合った内容の改革の提示と実施こそが、今求められている。
【日本大学 法学部 教授 矢野 聡】