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「女性の活用」その3 活用上の留意点

今まで「女性の活用」その1では「現状と課題」、その2では「活用の具体策」を述べてきました。その3では「活用上の留意点」を書くことにします。

すでにその1・2で述べましたように基本的には女性をもっと有効に活用し、女性の持つ高い能力を広いフィールドで大いに発揮してもらうことには大賛成ですし、それなくして日本全体がバランスのとれた活力ある豊かな国として持続的に発展していくことが難しいでしょう。

わが国女性の年齢階級別労働力率の推移をみると、結婚、出産、育児等で会社を退職するためM字型カーブが欧米に比べて深くなっていましたが年々浅くなってきています。その背景には、景気の悪化で女性も働かざるを得なくなったことや女性の就業意識の高まり、出産・育児などで退職せざるを得なかった女性が育児休業制度等の活用により継続就労が少し可能になったことなどが考えられます。

グローバル経済やわが国の産業構造のサービス産業化の動き、女性の能力に対する社会の期待、女性の意識の変化などいままでと異なる状況が強まり、その結果として女性の活躍する分野が広まったということもあります。女性の意識も変わり、活躍の場を国内外に求め、チャレンジし、起業等も含めて成果をあげてきた人達が出てきたことがメディアに取り上げられてきたことも女性にとっては大きな刺激になっているように思います。

最近では高学歴の女性も多く、今後ますます社会で活躍したいと思う人が増えていくでしょう。そこで大事な点は、女性が社会で能力を高めて働くことができるようにするためにはどのような点について留意したら良いかみることにします。そこには「社会としての側面」、「組織としての側面」、「男性の側面」「女性自身の側面」等いろいろの見方や留意すべき点があります。

①国全体として女性を積極的に活用したいと思うのは当たりまえのことです。今までそれを実現すような環境を積極的に作ってこなかったということ自体が問題でした。女性がキャリアを継続できるようにするための国、自治体の対応については前回述べましたので割愛しますが、小学校6年生までの育児期間においても育児とキャリアアップが両立できるような労働時間を中心とした環境整備が必要です。

企業組織の側面としては、業種、企業によってはバラつきがありますが、経営のトップは、産業労働人口の減少や経済、企業経営の観点から以前に比べて女性の活用に前向きになっているように思いますが、にわか仕込みの制度ではなく、企業も従業員もともにメリットを感じるような制度を作ってほしいと思います。

②ダイバーシティ・マネジメントが強まる今日、まだ十分活用されていない女性の活用は待ったなしです。企業は最近「仕事と家庭生活の両立」「ワーク・ライフバランス」という言葉良く使います。これは、メリハリのある仕事と家庭生活を送ることでリフレッシュし、充実した毎日を過ごそうということであり、国・企業・男女を問わず反対する人は多分いないでしょう。国は法整備・行政指導の面でかかわりがありますが、直接的に従業員が影響を受けるのは企業がどのような考え方でどのような内容の制度をつくるかにあります。

企業も総論は賛成し、具体的な各論では、自社に影響が出る恐れがあると反対する場合があります。それでは物事は改善して進むことは難しいため、方向性が間違っていなければまずは進めて、問題があればその点を見直していく対応を取るべきでしょう。

③「仕事と家庭生活の両立」を阻害している大きな問題の一つに日本の長時間労働の問題があります。これを是正しない限り、両立は難しいでしょう。これを是正するためには、まず会社のトップが自社の働き方の見直しを行うことを明確にし、考え方に沿ったシステムを構築する必要があります。

日本の雇用者平均の年間の実労働時間は1728時間でヨーロッパの先進諸国(ドイツ、フランスは1400時間台)よりはかなり長いですがアメリカ(1787時間)並みにはなっていることは事実です。雇用労働者の長時間労働者の割合を労働政策研究・研修機構の2013年の国際労働比較のデータブックの数字を見ますと2004年~2005年の男女平均で28.5%、男性39.2%、女性13.0%となっています。男性の長時間労働者の割合は韓国の51.6%.イギリスの33.5%についで3番目に高い数字となっています。ヨーロッパや北欧は短く10%前後となっています。わが国ではかねてから雇用システムとの関係で、長時間労働が問題になっています。また最近、一般職の労働契約の際にも年俸制と称して年俸額の中に所定外労働時間40時間、あるいは45時間、賞与を含むという会社もあります。企業は当然それに見合った労働を求めますので長時間労働が常態化することになり、育児を主として行っている女性はその会社に勤務し続けることは現実的に難しいということになります。

少し話がずれますが、最近賃金と労働時間についての問題が多いように思います。一つは、職種や職務内容にもよりますが、通常一般職の職務内容に年俸制がなじむのかという問題があります。そのうえ時間外労働、賞与制度を含めて年俸額で支払うということになりますと時間外(普通と深夜)の取扱、欠勤した場合の取り扱いなど賃金の問題がさらに複雑化し、労働契約時には年俸制を導入する考え方を従業員によく説明していないとか、聞いても担当者がよく説明できない等不透明な部分もあり、その内容が法律に抵触しているのか否かも不明な内容になっている企業もあります。また、“名ばかり管理職”とか長時間働いても時間外手当を支払われないなどの法律違反が行われ、“労働者の使い捨て”と言った言葉が出るなどいわゆる“ブラック企業”問題があります。行政はそれらの実態を把握し、早急に対応する必要があります。

労働時間は賃金と並んだ2大労働条件です。労働時間は「仕事と家庭生活の両立」にとって賃金以上に重要な意味を持つ場合も多くあります。仕事の仕方を見直し、労働時間と賃金のあり方を明確にし、職務遂行の評価は働く時間の長さではなく、職務遂行の質・量の内容で行うことが望まれますし、フレックスタイム等労働時間管理の多様で弾力的な制度の活用も検討すべきでしょう。

④人事・賃金等の処遇制度と女性の活用は企業にとっても本人にとっても大変重要で、多くの従業員の納得が得られるように対応する必要があります。

男女を問わず従業員はいろいろな思いを持って働いています。仕事の結果や能力、性格、言動等が会社の期待している内容に合致しているかどうか、どの程度合致しているか、会社の将来にどの程度貢献できるか等を公正に評価されて人事・賃金等の処遇が決まります。なかにはダメな上司がいて自分の好みで評価をする場合もありますが、好ましいことではなく、実力がなければ評価する人もされる人もどこかで躓くでしょう。

⑤従業員に処遇制度を納得してもらうためには、各人の役割、職務内容と等級格付けを明確にし、それをどの程度遂行したかを公正に評価した結果で処遇が決まるとの制度に早急に見直すことが必要です。職務の役割・職務内容があいまいでは公正、透明、納得性のある処遇はできません。これからいろんな社員との処遇の均衡問題等が考えられますが、そのさいもベースとなる役割・職務内容の明確化が求められることになります。女性自身の評価を納得し、それを高めるためには役割・職務を明確した処遇制度や人事考課制度を求めていく必要があります。

⑥会社は女性活用の時流に乗るために、そのポストの仕事をこなす能力が備わっていないのに無理をして女性の登用を推進すると社内的に波風が立ち、会社・処遇制度自体への信頼を失うことになります。人事・賃金制度は男女の区別なく職能・成果・職務への適性・将来性等を多面的に検討して能力・成果等に相応しい処遇をしていくべきです。企業の最近の動きをみると女性の活用を社内的に明確に示し、早くロールモデルを作り、後に続く人を増やしていきたいとの思いも感じられます。それはもちろん大事なことです。現在時点で、管理職候補、役員候補として話題になるくらいの人であれば、女性を優先的に就任させることは許容される範囲だと思います。“職位が人を育てる”という言葉がありますが、そのような状況にない人を無理に就任させるとモラルハザードを惹起し、会社への不信感が高まることになります。そのような場合には、1~2年教育して多くの人が納得するレベルに育てて就任させる方が良いでしょう。能力がない人を無理して就任させると“どうせ女性枠で就任したのでしょう”という批判も出ますし、周りからも冷たい目で見られることになります。それをはねのけて期待される成果を出す人もいますが、なかにはその任に耐えられなくなる人も出ます。その見極めをすることが大切です。

⑦会社組織の処遇は、年齢や男女に関係なく、経営トップから順番に能力、品性が優れた人材が就任することが王道です。直属の部下が上司を超えようとすると軋轢が生じ、優秀な部下は排除される可能性が出てきます。それを見抜き優秀な人材を生かし、活用するのがさらなる上の職位の役目ということになります。多くの人が納得する人材活用は難しいですが、それを実施しなければ組織の力は低下しますので細心の注意を払う必要があります。

⑧女性は出産・育児、場合によっては介護をしながら持続的にキャリア形成をするとなると大変な労力が必要となります。もちろん育児も介護も当然男性も女性と平等にやるということにならないと公正な競争条件ではないということになります。しかし、実態はどうか、企業の育児休業制度の取得率を厚生労働省「雇用均等基本調査」で見ますと2012年では女性が83.6%で、男性は1.9%になっています。女性の取得率は2007年頃から80%台に乗っていますが、男性の取得率は最近2%前後で推移しています。もっと男性は育児や家事に時間を増やす必要があります。

一応、育児・介護休業制度等の法律は整備されていますが、この数字を見てもわかるとおり、休業制度はとりにくいとの声をよく聞きます。休業取得も短時間勤務も他の人に迷惑がかかるので気になるとか、なかには上司や同僚、同性の女性からもからもいやみを言われるなど実態は大変のようです。男女が結婚し、出産し、子供を育てることは当たり前のことで、そのことで社会のいろいろなシステムが機能し、その恩恵を国民、企業、従業員全体が受けることを考えれば、むしろ喜ぶべきことではないでしょうか。目先の企業の状況や自分の働く状況が少し忙しくなったとしてもそれを許容する心のゆとりを持つような、企業経営や従業員教育をすべきです。これが実行できる会社であるかどうかはトップの見識にかかっています。

⑨休業制度を取得する人の仕事をどうするかということも現実の問題としてあります。各部署とも各人別の業務遂行マニュアルを作成し、基本的な部分はそれを見ればわかるように準備しておく必要があります。取得した人の仕事は上司も含めて同じ部署の人が分担するということが望ましいですが、それが出来ない場合は、人件費が多少増えますが期間限定で人を採用して対応したら良いでしょう。

⑩最後に女性の働き方について若干触れることにします。女性にもいろいろな人がいますので一般論や私が経験し、見てきた感想ということになります。女性の良い点は総じて能力は高く、まじめで指示されたことはきちんと仕事をすること、人に対して細やかな配慮ができること、整理整頓がうまいことなどですが、問題点は、部門内で一番下は好まないが管理職になるのも好まず程よい位置にいて仕事をしたいという人が多いように思います。能力・モチベーションを高めて管理職や役員を目指す気持ちが高くない。女性の管理職に仕えた部下の感想は「女性は感情的になりやすい」といっていましたが、アンーケートでもそのような事が指摘されています。職場で働きやすくなるか否かは管理職次第という意見も多くあります。女性の管理職のタイプは、自分も男と同じように長時間働いて頑張ってきたと部下にも同じようなことを求めるタイプと仕事の効率化を図り、率先して仕事を時間内で片付け、部下にもそれを求めるタイプがあります。環境によって異なりますので一概にいうことは出来ませんが、今後は男女とも時間内で仕事を終わらせる密度の高い仕事の仕方を社内に定着させる必要があります。女性活用のフィールド広がり、働く環境も整えつつありますし、期待も高まっています。モチべーションの高い女性も増えています。変化する環境を冷静に分析し、広い視野の下で高い目標に向かって挑戦して欲しいと思います。

【MMC総研代表  小柳勝二郎】