労働あ・ら・かると
我が国企業の経営課題と対策について考える~その1.わが国企業の収益・国際競争力の低下の要因と対応
MMC総研 代表 小柳勝二郎
我が国経済は長期間にわたる閉塞感の漂う低迷状況からようやく転換期を迎えつつあります。直近の状況は、消費税増税の影響で個人の消費動向は若干鈍化傾向にありますが、アベノミクスの政策やアメリカ経済の回復等も影響して、高過ぎた為替レートは円安へと大きく是正され、輸出産業・企業の収益や株価が高まり、雇用環境も改善してきています。
その一方で、輸入産業・企業では、部材や野菜などの物価が高くなり経営内容や庶民の生活が厳しく、消費税率10%引き上げ実施の延期やアベノミクスの評価等をめぐって衆議院の解散、総選挙が実施されます。
それはさておき、ようやく回復しつつある経済が、好循環サイクルを持続するためには国、企業、働く人たちは何をしたらよいのかを何回かにわたって書いてみたいと思います。
政府は、アベノミクスとして金融政策、財政政策、成長政策を行っています。今後の日本にとって成長戦略は大変重要です。その実現は企業が主役で、その役割が大きく期待されています。企業は収益をあげ、設備投資や雇用・報酬増が可能になるような経営を実現していかなければなりません。
最近、「わが国企業の収益力や国際競争力がなぜ低下しているのか」とか、「技術力に勝る日本がなぜ事業に負けるのか」など、企業経営の重要な点である「日本企業の収益力や国際競争力の低下が問題」になっています。
それらの問題の背景は、いろいろあり、簡単に解決できる問題ではないですが、わが国の産業政策や経営のあり方、人材の育成、処遇、仕事の仕方、経営環境の整備等が問われていますので、政府も企業労使もそれらの問題の解決に早急に取り組む必要があります。
今回はその1回目ですので、経営の要の収益力や国際競争力の実態とそれに対する対応策を包括的に説明し、次回から経営戦略や雇用・人材戦略等広い範囲から対応策を見ることにしたいと思います。
まず「なぜ日本の企業の収益力が低下しているのか」を見ることにします。
財務省の「法人企業統計年報」で企業の本来の営業活動で生じる収益性を示す指標の一つに「売上高営業利益率」があります。売上高に対して営業利益がどれくらいになっているかを見たものです。その割合が高ければ収益性が高い企業ということになります。
多くの企業は10%以上の営業利益を目指すとされており、日本もかつては、そのような企業が多くありましたが、最近はその割合が大きく低下しています。財務省の「法人企業統計」によれば、企業規模や業種を問わず営業利益率は低下し、大企業では2006年5%が年々低下し、リーマンショックの08年は2.70%となり、12年は少し回復しましたが4%弱位に低迷しています。中堅企業は、2%台から3%前後に、また、中小企業は、1%台から2%位になるなど以前に比べて多少は良くなっています。アメリカは10%以上が多く、国によって多少異なりますが、ドイツ、フランス等と比較しても日本はかなり低い状況であると言ってよいでしょう。
平成25年度の「経済財政白書」によれば、景気回復の主役として今でも期待されている製造業の収益性が低下している理由として次のような点が考えられるとしています。
①株主が要求する収益水準が低いために、企業が利益率の低い投資プロジェクトを選択している。 ②日本の横並び意識が反映してか、製品の差別化が進まず、事業の収益格差が小さく、利幅が薄く、競争力のある企業が出現しにく くなっている。 ③企業の成長、衰退というダイナミズムが失われている。日本の開業率、廃業率がアメリカに比べて少なく、企業の新陳代謝が活発 でない、これは、政策金融などで非効率な企業の退出を妨げ、産業構造の変化を遅らせ、過当競争が生じている。 ④日本の高コスト構造が利益を圧迫している。売り上げに占める原材料、労務費、輸送コスト、流通システムの多段階性など売上原 価率が高く、それが利益を圧迫している。 ⑤海外生産の製品が国内に輸入されることで国内生産品の付加価値や収益性の伸びを抑える要因になっている 等
また、低収益性の背景にある生産の動向としては、企業の生産性や収益と関連のある設備投資や研究開発投資による技術水準の向上につて、次の点を指摘しています。
①中小企業を中心に有形固定資産である生産設備が有効に活用されず収益を生み出していない可能性がある。 ②日本製造業のROA(総資本利益率=営業利益/総資本)は中小企業を中心に低い水準にとどまっている。それは有形固定資産で ある生産設備が有効に活用されず収益を生み出していない可能性がある。営業利益の有形固定資産に対する比率(生産設備ROA) は大企業、中層企業ともに、ドイツ、フランスより低い水準にある。その理由は、資本生産性や資本分配率が等が低いことにある。 ③日本は生産効率の高い新規設備の導入が進まず、結果として設備の老朽化が生産効率全体を押し下げている可能性がある。 ④研究開発の効率性も低生産性の一因としています。研究開発費は中小企業が少なく、大企業が大部分を占めています。研究開発効 率は企業規模が小さくなるほど高くなる傾向にあるが、大企業は基礎的研究が多く、中小企業が売り上げに直結する研究開発が多 いためと考えられとしています。日本の研究開発効率はアメリカ、ドイツより低いと指摘しています。 ⑤日本は研究開発投資を促す環境整備に加え、研究開発効率が高い中小企業の研究開発投資の促進、大企業の研究開発効率の向上が 課題としています。
その他、アウトソーシングや海外進出企業の収益との関係を分析しています。
結論から言いますと、アウトソーシングを積極的に活用している企業、海外進出している企業が、アウトソーシングを活用してない企業、海外進出していない企業より収益が高い傾向にあるとしています。
これらを総括しますと、今後、企業は研究開発の効率化に努め、常に製品の差別化を行い、設備投資を実施して生産性を高め、需要を開拓するなど経営全体の効率化を図り、国内はもちろん、アジア、アメリカ等の強い需要を取り込んで収益を高めていく必要があるということになります。
日本の企業が生産性や収益を高め、経営の持続的成長と雇用・報酬増を高めていくためには、企業は国内外の経営環境を分析し、中期目標を立て、スピード感を持って目標の実現をする経営戦略を立て、それに沿って業務を遂行することが大切です。
具体的には、従業員の意識改革はもちろんそれを実現していくための組織体制や仕事の仕方の見直し、人材育成・処遇制度など会社全体を変えていく必要があります。
その大筋を示すと次のようになります。
企業が生産性を高め、収益をあげるためには、製造業の場合は、外部から原材料を購入し、人と資本(設備等)を活用して製品をつくります。これに価格をつけて販売することで付加価値が発生します。付加価値の中には利益や人件費等が含まれています。需要者に多く販売できれば付加価値は大きくなり、付加価値を構成している比率が一定であれば、利益や人件費の絶対額が大きくなります。したがって、企業が収益や人件費を高めるためには付加価値を高めることが必要になります。
企業の会計期間の利益段階としては5段階あります、①売上総利益(売上高-売上原価)→粗利益、実質的な稼ぎ高、②営業利益(売上総利益-販売・管理費)→本業の営業活動の成果、③経常利益(営業利益―営業外損益)→経常的な経営活動の成果、④税引き前利益(経常利益―特別損益)→税引き前の会社の業績、⑤当期利益(税引き前利益―法人税等充当金)→当期の最終利益、事業の成果。
①は付加価値が相当する利益でこの利益が高いことが重要です。②の販売・管理費を効果的に行うことで①の利益を大きく減らさないようにすることが大切です。③の経常利益は営業利益から営業外損益(受取利息や支払利息等)を加減することで、経営活動の総合的な成果ということになります。
企業が生産性をあげ、利益を生み出していく上での対応策、留意点はいろいろありますので2回以降はそれらの点について見ていきたいと思います。