労働あ・ら・かると
我が国企業の経営課題と対策について考える~その3.企業内外の環境変化を分析し、勝ち抜く経営戦略を実現する
MMC総研 代表 小柳勝二郎
企業が持続的成長・発展を実現していくためには、常に明確な目標や経営戦略を持ち、それを実現していくことが重要です。経営戦略を立てるに当たっては、内外の経営環境の変化を分析し、企業の経営理念を踏まえた今後の経営目標とそれを実現するための誤りなき経営戦略をたてなければなりません。目標や戦略が決まったらそれを全従業員に周知徹底し、必ず達成するとの意気込みで取り組むことになります。多くの企業では程度の差はあれ、目標やそれを実行する経営戦略を持って経営をされているでしょうが、グローバルでの企業間競争が激化する今日、従来以上に経営戦略の重要性が高まっています。経営目標や経営戦略が打ち出されることで各部門、各人のやるべきことが明確になり、その達成に向けての意識と力が結集されます。
経営目標や経営戦略が明確でない企業は、各部門の仕事の力点の置きどころがバラバラで達成の意欲が高まらず、期待されたような成果をあげることは難しいと言ってよいでしょう。
今まで何年間も順調に利益をあげてきた企業でも経営戦略の誤り等で期待されたような成果をあげることなく、競争に敗れた企業や時代の変化に乗り遅れた企業は多くあります。
その一方で、新たな経営モデルを武器に比較的短い年数でその業界のトップクラスの企業になっているケースもあります。
好むと好まざるとにかかわらずまさに経営戦略の善し悪しで企業間競争の明暗がはっきり表れてくる時代になっていることを全従業員は肝に銘じ、競争に勝てる経営戦略を真剣に考えていく必要があります。
誤りのない目標や経営戦略を立てるには、今後の企業を取り巻く内外の経営環境をしっかり分析することです。目標や戦略の検討に当たっては、三つの側面からのアプローチが必要です。
一つは、企業の外的環境がどのように変化していくか、顧客ニーズの動向、規制緩和や海外諸国の政治・経済動向など国内外の政治・経済動向を分析し、どのようなビジネス展開をすべきか検討することになります
二つは、企業内の経営資源の検討も必要です。企業には有形・無形の経営資源があります。人的資源や研究開発力、技術力、資金力、マーケティング、のれんなど色々あります。会社の目指す目標・経営戦略を実行するうえで自社の経営資源を活用することで対応できるのかできないのか、どこが対応ででき、どこが足りないのかを明確にして、足りないところは、事業展開のスピード、製・商品の高度化・効率化等を考慮して、企業買収、外注、業務提携などを考えていくことになります。
三つは、市場での競争環境がどのような状況にあるかということも大変重要な点です。将来的に自社製・商品のマーケットの拡大がどの程度期待できるのか、どのような競争品があり、トップ企業がどの程度のシェアを握っているのか等を明確に分析したうえで自社が競争に勝てる経営目標や経営戦略を打ち出すことになります。
これらの点を分析する方法としていろいろな方法や考え方がありますので、後でその要点を見ることにします。
上記の分析が甘いとか、間違っていると企業の命取りになりますし、新製・商品、サービスを市場に出すタイミングもありますので、方針が決まったらスピード感を持って対応することが大切です。
このような視点からの分析ができ目標や方針が決まれば、それをどのように具体的に実現していくかということになります。経営戦略には企業全体の企業戦略、事業(ドメイン)戦略、部単位の機能別戦略があり、それらがうまく連携し、機能を発揮させることが大切です。
そのための手順を大雑把に示すと環境分析を踏まえて、①会社全体の方針、戦略が決まると、②それに関連する事業部門の基本戦略が決まります。③それを受けて部門ごとの戦略が決まり、④それを実現するための具体的な計画や実現するための行動・アクションが取られることになります。
これらの手順は企業の大きさや経営者の考え方によって異なる場合もありますが、会社全体、各部門の戦略目標を実現するためには、従業員の理解や意識の徹底を図ることも含めて経営トップから課長までの経営幹部の指導や働き方が重要になります。
経営戦略は企業経営において最重要事項であるため以前からいろいろな考え方が示されています。企業が市場で勝ち続けるためにはどのような戦略を取るべきか、新製・商品、サービス等を市場に提供しても買ってくれる顧客がいなければ、付加価値や利益をあげることができないため、企業業績は悪化し、最悪の場合は倒産することになります。
したがって、企業が成長・発展していくためには顧客のニーズに合ったものを提供し続けられるように常に努力し続けることが求められます。どのような分野の市場かによっても競争の厳しさが異なりますが、複数企業が激しい競争をしている場合には、コストで勝負するのか、質で勝負するのか、機能で勝負するのかなど戦略が重要になります。
経営戦略ついての研究はいろいろな学者が研究し、今でも企業経営に大きな影響を与えています。
企業が新製・商品を市場に投入する場合にどのような点を考えて戦略を立てるかは重要な点です。その際、良く使われる方法を紹介します。
①ポジショニングの検討
経営戦略を立てる際にドメイン(事業領域)やセグメンテーション(顧客対象)を絞りますが、自社と競合関係のある企業
がどのような製品を出し、どのような顧客を対象にして、どれくらいのシェアを持っているかなど市場における自社の位置づ
けを確認して自社の戦略を考える方法で、多くの企業はこのような視点で検討しています。
②コア・コンピタンスCore・Competence)
顧客に対して他社が簡単にまねのできない自社独自の価値ある中核的な技術、能力をベースに事業展開をする経営という
ことで、一商品だけではなく長期的・継続的に活用できる技術や能力を有し、それをもとにした経営をしていくことが
できるか検討するということです。
③SWOT分析
SWOT分析も企業の現状や将来の展望を分析する際によく使われる方法です。SWOTは、自社の「強み(Strength)」
と「弱み(Weakness)」、外部環境の「機会(Opportunity)」と「脅威(Threat)」の頭文字をとったものです。これは
企業の内外要因の強み、弱み機会、脅威を分析して自社の経営戦略を検討する一つの方法です。自社の強みを伸ばして弱みを
回避する。外部環境の機会、チャンスを生かして脅威を強みにしていくなどの戦略を検討します。
その項目としては、財務力、人材力、ブランド力、技術力、研究開発力、営業力、購買力、製造力などです。外部環境とは
政治、経済、為替変動、競合環境などです。
④ファイブ・フォースと三つの選択
これは戦略論者として著名なハーバード大学教授マイケル・E・ポータが1980年に発表した「競争の戦略」で述べたもの
で、重要な二点について紹介します。一点は経営戦略の作成に当たって企業が属する業界の競争状況を分析するための重要な
点を5つあげています。
これが有名なファイブ・フォースです。それを列記しますと①新規参入業者との関係、これは市場への新規参入の脅威についての分析です。②競争業者との関係、既存する競争業者間の敵対関係の分析です。③代替品との関係、代替品や類似の製・商品、サービスの分析です。④買い手との関係、買い手は顧客で、それとの力関係の分析です。⑤供給業者(売り手)との関係、業者との力関係の分析です。これらの状況を分析して自社としてどのような経営戦略で経営をしていくかを検討するとことになりますが、その視点として次の3点をあげています。
基本的な考え方は他社、他製品との差別化をどのように行うかということになります。①はコストリーダーシップ戦略、これはコスト競争で他社を圧倒する戦略です。②は差別化戦略です。他社製品やサービスについて質やデザイン、サービスの内容等で徹底的に差別化するということです ③は集中戦力化です。例えば、ある年齢階層の顧客にターゲット絞り集中的に経営資源を投入し、差別化やコストダウンをする方法です。これらを組み合わせて戦略を考えることもできます。
経営戦略には他にもいろいろな方法がありますので自社に合った方法で対応したらよいでしょう。これらは競争市場で勝ち抜くための戦略ですが、2005年に経営戦略論の専門家であるw・チャン・キムとレネ・モボルニュ氏による「ブルーオーシャン戦略」が出て注目されています。その内容をごく簡単に言うと、現在の激しい競争が繰り広げられているレッドオーシャン市場を抜け出して、競争のまだない未開拓のブルーオーシャン市場で新たな経営戦略で顧客を創造し、大きな利益を目指していくべきとしています。
経営者は常に広い視点に立って誤りなき経営戦略を立て、全社員がその実現に向けて取り組むことが大切です。