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我が国企業の経営課題と対策について考えるーその4.機動性・スピード重視の組織戦略
MMC総研代表 小柳勝二郎
企業経営において前回の経営戦略と密接に関係してくるのが組織戦略です。経営のグローバル化で組織の重要性が一層強まっています。経営環境の変化への対応や意思決定の早さが求められるようになっています。組織は常に事業内容や人材との関わりが出てきますので、組織と人材をいかにマッチさせるかが企業の盛衰に大きく影響することになります。
組織のあり方についてよく議論されますが、これについては、ハーバード大学の経営学教授で経営史の研究家として有名なアルフレッド・チャンドラー氏は1962年に発表した著書「経営戦略と組織」において「組織構造は経営戦略に従う」という名言を残しています。その一方で「戦略は組織構造に従う」という考えを持つ人もいます。企業経営においては、企業として何をするのかの目標があり、それをどのように効果的に実施し、目標を達成するかが至上命題になりますので、チャンドラー教授の考え方が理解されやすいと思われます。
経営のグローバル化で経営環境が激しく変化し、意思決定や実行のスピードが求められます。それらが実行できる組織と人材をマッチングさせた組織運営が大事になります。
誤りなき経営戦略、それを実行していく機能的な組織、組織を100%効果的に運営できる人材配置、これらが三位一体に実行できれば企業は強くなれますし、どこかがうまくいかないと企業は期待したような成果を上げることができないことになります。
そのベースになるのがすべて人剤の能力です。トップから一般従業員までその職位に相応しい能力のある人が就いていないと組織全体が強くなることは難しいということになります。「組織構造は経営戦略に従う」ということは、各企業にはそれぞれの経営戦略があり、それを達成する組織形態も企業によって異なります。まずどのような組織が企業で実施されているか簡単に見ることにします。
組織の形態として多くの企業で導入されているのが、「職能別組織」です。これは社長をトップに業務を職能別に専門化するもので、経理部、企画部、人事部、技術部、生産部などから成り立っています。この組織の特徴は、経営トップに権限が集中し、指揮命令系統が明確で仕事の統制や効率性が高いことがあげられますが、規模が大きくなると情報が部門間に伝わりにくいという問題点があります。
大企業でよく導入されているのは組織として事業部制があります。事業部門の設定や運用の仕方は各社各様ですが、事業部組織として製・商品別の場合や地域別の場合などがあります。事業部組織の特徴は各事業部で独立採算制が多く、業績の責任が明確になるなどのプラス面がある一方、全社視点ではなく事業部視点で仕事をする意識が強まるという問題があります。人事や経理まで含めて独立採算制の組織にするのか、人と金は全社的視点で管理部門が対応するかによって事業部制の独立性の度合いが異なってきます。
最近では、管理部門の業務の重複性を防ぐため管理本部ということで事業分全体の支援をするという位置づけで仕事をしている企業が多いと思われます。その他課題解決型の「プロジェクトチーム」や職能別組織と事業部制組織を組み合わせた「マトリックス組織」があります。この組織は部門間にかかわった仕事については広い視点で議論ができることや、人材を有効に活用することができるなどのメリットがありますが、従業員は一人の上司でなく2人の上司に仕えることになりますので指示命令が複雑になるという問題もあります。
マトリックス組織とプロジェクト組織が組み合わさったような組織として、日産自動車の再生のため、社長として乗り込んできたカルロス・ゴーン氏が日産再生プランの検討として導入したクロス・ファンクショナルチームという組織もあります。
これは、再生に必要な重要課題について部門間を超えて課題についての専門家を集めて検討・対応策を提案する組織で、当時は大変注目されました。
最近では、経営環境への機動性や意思決定のスピード等を求めて、「純粋持ち株会社」が目につくようになってきました。ここでいう一企業内の組織形態ではないですが、企業グループ全体の組織の形態としてその動向を注目していく必要があります。持ち株会社は事業持ち株会社と純粋持ち株会社があります。事業持ち株会社は以前から多くありましたが、最近は、事業を持たずに企業グループ全体の投資等の経営戦略などを業として行っている純粋持ち株会社が多くなってきています。
企業組織は経営環境の変化に対応できないと活性化しなくなります。最近、製品の寿命や組織の寿命が短くなってきていますが、組織を活性化していくためには、そこで働く従業員が能力を高めて、持続的にイノベーションを起こして、顧客が欲しい製・商品を市場に提供し、マーケティング力を高めて多くの人に買ってもらうことが重要なポイントです。
製品や事業組織は人間と同じように寿命があります。人間は最近、長生きする人が多くなりましたが、いくら医療が進歩しても、節制しつつ肉体を強化しても100歳を超えて何十年も元気で生き続けることは難しいでしょう。
企業も長く元気に生き続けることは難しいですが、やりようによっては若返ることもできますし、元気で150年やもっと長く活力を持って生き続けることもできます。
その前提には、トップに座る人が常に誤りなき経営戦略を立て、企業全体が不祥事を起こさないこと、組織の役割に応じた能力の持ち主を配置し、能力を高めた結果を公正に評価して職場満足度を高めること、常に顧客創造に向けた新たな製・商品を市場に提供し続け、多くの顧客に買ってもらうこと等が必要です。
企業の若返りや長寿を維持するためには、事業の合併・買収、事業提携などいろいろな対応策もあります。これらをどのように活用するかもこれからの経営にとっても重要です。
企業組織はまさに自社の実態を踏まえて選択・導入するものですから会社がどのような戦略を持って仕事をしたいのかを明確にすることが大切です。それを受けて組織体制や人的配置が決まるということになりますので、その手順・方法は大切にして組織の活性化につなげていくことがよいでしょう。
組織について経営学者として有名なP・Fドラッカーは著書「あすを支配するもの」の中で組織について「もはや万能な組織構造などは存在しないと認識すべきで、いろんな組織がそれぞれの強みと弱みを持ち適用される場面を持つ」としています。「組織がすべてではない組織は共に働く人たちの生産性を高めるための道具にすぎない。組織はある時点においてある仕事に適合するだけのことである」(趣旨要約)としています。
組織をどのように活用し、効果的に活用するかどうかは、その状況、状況で的確な判断ができるリーダーが必要です。組織がうまく機能するかどうかはリーダーの能力にかかっていると言ってよいでしょう。
組織運営には、業務をどのようにマネジメントするかということも大事ですが、それと併せて従業員の業務遂行の仕方も改革が必要です。仕事の仕方は前任者の仕事の踏襲ではなく、各人は担当業務についてもっと良い方法はないか、もっと質を高めていくにはどうしたらよいかを考えて見直すことも必要です。つまり、「業務の再設計」、「業務の根本的革新」等プロセスの改革(ビジネス・プロセスエンジニアリング)の考えを常に持って業務に取り組むことができればさらに効果的な仕事ができ、組織は活性化することになります。それを推進するためには教育も含めて従業員の意識改革、社内風土の革新が必要になります。