労働あ・ら・かると
求職者は大規模と中小規模どちらを利用すべきか
一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二
前回のこの欄では「採用企業の立場で」、経験者採用(中途採用)を行おうとする求人企業が民間の職業紹介業(人材紹介ビジネス)をどのように利用したらよいのかという点について述べましたが、翻って今回は、転職・再就職を志向する人材の立場からは、どのような人材紹介会社を利用したら良いのだろうか、どのようなルートで求人情報を得て転職・再就職活動をしたらよいか、という視点で、お話ししたいと思います。
先ず、人材の方が現在離職中なのか、在職中なのかによって、少々区別して考えたいと思います。
勤務先の倒産や経営悪化によって離職された方もいらっしゃるでしょうし、介護や育児のために離職せざるをえなかった方もいるでしょう。
離職中の方は、まず最初に当然ですが日本最大の職業紹介機関であるハローワーク(公共職業安定所)に求職登録をして、その上で更にご自分の希望に合った求人職種を多く扱う民間人材紹介会社をいくつか探し出して、(求職登録前に)接触してみることをお勧めいたします。
もっとも昨年から、ハローワークに申込まれた求人情報については、求人者が希望する場合にはその内容を民間人材紹介業に提供する仕組みが始まってhttps://www.hellowork.go.jp/dbps_data/_material_/localhost/doc/leafent.pdfおり、この秋にはさらにシステム改良が為され本格運用が始まると公表https://www.hellowork.go.jp/dbps_data/_material_/localhost/unyoukaizen_minkan.pdfされていますので、雇用保険の受給手続きのない方は、このデータ提供を受けている民間人材紹介会社を含めて求職登録をすれば足りる、という考え方もあり得ると思います。
求職登録する民間人材紹介会社を探す際には、ご自分の応募先について、まずは「多くの求人情報を得たい(=情報量)」のか、ご自分の転職・再就職先について「適切な助言とそれに合った求人先を紹介して欲しい(=情報の質)」のかをよくお考えいただきたいのです。
比較的企業規模が大きいと言われる「ナビ型紹介業(求人情報提供業)」は、新卒の就職活動についてだけではなく、すでに転職再就職にあたっても、既にそのインフラとなり始めているという指摘もあります。
「まずは多量の求人情報」を求めたい方は、「ナビ型紹介業(求人情報提供業)」や名の知れた大規模人材紹介業に登録することが良いでしょう。ナビ型紹介業の中には、
掲示された求人企業に直接応募する仕組みと共に、求職者に興味を持つ人材紹介会社が閲覧をしていて、そこからの連絡を待つ仕組みも合わせて組み込まれているものもありますので、その先に「助言付加価値型」の人材紹介業との出会いの道があることもあり得ます。
その際気を付ける点としては、数は少ないと思いたいのですが「おとり広告」的な求人情報が混入している可能性が否定できないこと、また大量の人材情報を扱っているためなのか、どうしても親身さに欠けたり、雑な職業紹介をしているとしか思えない事例があるということです。
例えば紹介された求人案件が、自分の希望と異なるので辞退することが続くと、自分の人材データ・希望条件の読み込みの甘さを棚に上げた人材コンサルタントから「選り好みをしていると、もう案件紹介はできませんよ。」と言われたという事例があります。その背景には「量を求め売り上げを求める体質」が垣間見えるように感じます。
また、いかにも高収入の求人ばかりを扱っているように謳ったり、高額な「転職祝い金」を前面に押し出すような所、「会員制」と称して求職登録の際に職業紹介事業としては許可されていない費用を人材から徴収するサイトなどは、避けた方が無難と思います。
一方で、中規模以下の人材紹介会社は「ナビ型紹介業(求人情報提供業)」に比べると、そのスピード感に劣るという声もあるのが、現実です。
その良い点は、比較的経験豊富な人材コンサルタントが職業紹介に当たっており、大型の紹介会社のコンサルタントが新卒採用で入社をしていて、様々な業界職種についての知見経験が薄いと思われることが多いことに比べ、何より自分に転職経験があるコンサルタントは、求職活動をする人材との共鳴度が違うと言われることです。
その意味では人材紹介会社利用の際に、担当者に「あなたは転職や出向などの経験がありますか?」と(もちろん失礼のないようにですが)聞いてみるのも、紹介会社を選ぶ際の手法のひとつだと思います。できれば人材の方が志向する業界・職種の経験があれば、なお良しと言えるでしょう。
「人材会社は企業ブランドでなく、担当者で選べ」というのは、長い間言われてきたことです。「適切な助言」という付加価値はどうしても中規模以下の人材紹介会社のほうが、得意としているように見えます。欠点は、担当者によってその助言内容の品質にバラつきが見られる点でしょう。
在職中の方には、まずは大規模な人材紹介業や求人情報提供サイトで、ご自分の志向する職種・業界についての状況を把握した上で、前述のように中規模以下の人材紹介会社で、志向する職種業界の経験のある担当者が居るところに登録し、適切な知見・助言を受けながらの転職・再就職活動がより良いように思います。
また、いわゆる「系列系人材会社(上場企業の商社や製造業、金融業、小売業などを親会社に持つ、人材紹介業)」は、当然ながら親会社の業種の情報に強い事例が多く見られますので、利用する人材紹介会社を選ぶ際の一つの視点とされてはいかがでしょうか。
4月にこの「労働あ・ら・かると」で、「労働移動の間隙に、場合によっては失業=無収入の期間がある場合には雇用保険はたいへんありがたい制度ですが、できることなら『失業なき労働移動』としての転職を実現するように、日々常に準備してほしい。」と述べました。在職中から民間人材紹介サービスなどを利用して「次の就職先」を決めてから(雇用保険を受給することなく)転職することを心掛けることは、限りある雇用保険財源を、本当に扶助を必要とする方々により厚く回せるという観点でも、在職中の転職活動には民間人材紹介会社の利用をお勧めする次第です。
いずれにしても「求人広告」への個人での応募よりは、人材紹介会社経由のほうが、面接日程や、複数の応募先の進行度合いの調整を依頼できて楽だった、という感想が、人材紹介業経由で届いてきています。それが転職・再就職に成功した多くの方々からの声であることを付言しておきたいと思います。
以上
注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)