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ITの進化で機能拡大する求人情報提供業と問われる公共性

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 過去の資料を調べたくて昭和の時代の大手新聞の縮刷版をめくっていたら、いわゆる「三行広告」が求人欄にたくさん掲載されていました。しかし目にした掲載項目は、運転手とか家政婦とか事務員といった職種と「委細面談」の文字、連絡先しか書かれておらず、応募者への求人情報開示は「ウチの会社に来たら教えるよ。」ということで、「より良い待遇(賃金、休暇、教育)を求めての転職先探し」には極めて不十分な情報しか得られなかった時代であることを、表わしていました。
 現在のWeb上の求人広告は、ハローワークの求人票には記載されていない、カラーで職場の模様の動画や求人企業についてのマスコミ報道を見ることができ、PCやタブレット、スマートフォンを通じて得られる情報は、昭和の時代の何百倍何千倍も得られるようになりました。また求人者の発信する情報のみではなく、「口コミ」や客観評価の情報も、簡単に画面をタップするだけでたどり着けます。
 その点で、求職をする人材が得られる情報量はとても多くなっていて、求人広告業界の努力進歩には改めて敬意を表したいと思います。

 新卒の方々の就活においても、昭和の時代の分厚い電話帳のような企業案内に、一企業当たりせいぜい2ページ位の「募集要項」しかなかった限られた情報で応募企業を選択した頃に比べ、タブレット、スマートフォン(と、それを利用し、就活サイトを通じて得る求人企業情報)が活動のインフラとなった21世紀の大量情報時代との差には、感慨深いものがあります。

 しかしIT技術の進化は、紙の時代の求人情報提供ビジネスに比べて、様々な機能をWebでの情報提供に付すことができるようになりました。
 7年ほど前、雇用対策法が改正され、労働者の募集及び採用に当たっては年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならないこととされ、一部の例外を除いて年齢制限の禁止が義務化されました。求人票には「年齢不問」と表示されるようになりましたが、求人主の考え方が充分に変わっておらず、現実には「35歳以上の人材の履歴書は送ってくるな。」という旧態依然の発想の採用担当者や企業が多く、「人材の能力適性を先ず見てください。」という説明に苦労する人材紹介事業者の話も多く聞きました。(残念ながら今でもそのような話が全く無くなったわけではありません。)

 その頃お受けした人材からのWebでの求人要件についての電話に、「これは、求人について応募条件を一方向に伝える単なる広告とは言えないな。」と思える苦情がありました。その人材はご自分の年齢を38歳とおっしゃっていましたが、転職先を探そうと、いわゆる求人サイトを閲覧する際、自分の属性を入力してから検索を進める設計になっていたそうです。そして、自分としてはあまり積極的に応募する気になれる求人案件が見つからないので、何気なく自分の年齢を30歳として入力し直した上で検索したところ、実年齢を入力した時に比べて、何倍もの求人情報が表示されたと、おっしゃるのです。その方はコンピュータやWebに強い職務経歴をお持ちで、「このWeb求人広告は見かけ上『年齢不問』としながら、アクセスする人材の属性によって表示するプログラムが組み込まれているに違いない。」と推測して、ご自分の年齢を31歳、32歳、33歳と、何種類も入力してその求人広告サイトを検索してみたところ、34歳と入力したら表示される求人件数が減り、36歳と入力した時には更に激減したというのです。
 つまり、33歳以下や35歳以下の閲覧者にしか表示されない機能を持つサイトは、雇用対策法による求人年齢制限をくぐり抜けていて、けしからんのではないかというご苦情です。

 その時は、電話をいただいた人材に対して筆者は「本件は、必ずしも職業紹介のこととは思えず、また当該Webの設営者は協会会員ではなく、小職の守備範囲を超えているので。」とご説明して納得していただき、厚生労働省の窓口をご案内したのですが、今年、新卒の就職活動に関して、根は同じと思える話を耳にしました。

 同じ大学同じ学部の中の良い男女学生が、ある企業にほぼ同時にWeb経由で会社説明会に申込みをしたそうです。数分もせずに(従っておそらくは手作業でなくプログラムされた自動返信機能によって)二人にほぼ同時に返信があったのですが、同年齢同学部にもかかわらず、男子学生には「会社説明会への申込みありがとうございます、○月○日に○○にてお待ちしています。」という返信、女子学生には「残念ながら、当社の会社説明会はすべて満員となりました。」という返信だったそうです。あくまで推測ではありますが、何らかの男女差別がプログラムされているか、採用担当者が手作業で返信していたとしても、恣意が働いていたとしか考えられない、と話を聞かせてくれた学生さんは話していました。社会人への入り口で社会の理不尽を知った、とその顔には書いてありました。
 似たような現象は、異なった大学の友人が応募した際にもあったと聞きます。とっくの昔に姿を消したと思っていた「指定校制」が、求人企業や求人情報提供者のプログラムの奥底に潜んでいるのでは、と疑心暗鬼になるのも無理はありません。

 もちろん、求人情報提供のWebシステムだけが悪い、と言うつもりはありません。求人企業側の発想がちっとも変わっておらず、陳腐な思い込みがあるから、それにおもねって「便利なプログラム」が作られるのだという見方もできます。
 しかし、求人情報提供業には、現在これといった法的規制が無いわけで、業界の公序良俗に反する求人や違法な求人は掲載しないという自主規制が機能してきた一方、紙の求人やWeb上で誰でも見ることのできる求人の情報に対しては、業界団体や「社会の眼」の監視機能が働くものの、前述のような機能が組み込まれ(ているとしたら)た求人Webの内容を発見すること、また、インターネットの双方向性という機能と技術進歩により、閲覧者の属性を求人者もしくは求人情報提供サイト(情報提供側)がある程度把握して、提供する情報を選別できてしまうということに対しての有効な対策は、打てていないように見えます。

 「年収1000万円以上の求人求職は扱いません。」とうたうことは、職業紹介事業者は職業安定法第5条の5及び同法第5条の6により禁じられているわけですが、「このWebページは年収1000万の求人のみ掲載されています。」と言うことは、求人情報提供Web設置者には明確な規制がない現実があります。しかも限られた例外以外は人材(求職者)からの手数料収受が禁じられている職業紹介事業者と比べれば、「このページを閲覧するには会費が必要です。」とか「このページを閲覧するには資格審査が必要です。」と言うことが出来てしまう求人情報提供Web設置者が、社会的に許されるのか、という疑問が湧いてきます。「働く」という人間の基本的な事項に関わる求人情報提供業界が今後どのようになっていくのか、求人募集を規制する職業安定法の今後の見直しの中で、求人情報提供業に求められる公共性がどのように議論されるのか、注目していきたいと思います。

                                                  以上

注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)