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わが国の企業経営と人材の関係をどのように考え対応するか―その1.企業における人材の位置づけと今後のあり方

                                          MMC総研 代表 小柳勝二郎

 どこの国でも企業の人材についての関心は高いですが、日本の場合は経済がグローバル化し、企業間競争が一段と激化したことや将来的には生産年齢人口が減少することが明確になってきたことを背景に、人材問題が以前に増して重視されてきたように思います。
 企業経営の重要な要素としてヒト、モノ、カネ、情報が取り上げられ、その中でもヒトが最も重要である事は、多くの人は知っています。人が頭を使って物を作り、情報を活用し、利益を上げるために投資をするため、多くの企業で優秀な人材の確保に最大限努力することは経営としては当たり前ということになります。そのような事もあって、競争激化の経営環境の変化の下で、人材への意識が先進国や発展途上国を問わずグローバルに高まってきました。最近では、“人材争奪戦”という言葉が紙誌に出るなど少しオーバー気味ですが、それほど人材確保、活用等が経営上重要になっていることを示しているといってよいでしょう。

 人材の確保・育成・活用・処遇等をトータルとして考えることが大切との指摘は、以前からありましたが、それを理論も含めて体系的にした“人材マネジメント”いう形で日本に注目され出したのは2000年前後ではないかと思います。その後は、経営のグローバル化とともに人材の求め方も変化し、最近では世界的に活躍できる“グローバル人材”の確保・育成・活用・処遇等に関心が一段と強まっています。
 人材力とかグローバル人材であるかどうかは基本的には個々人の能力の問題で、国単位で見る視点と異なりますが、先般、世界の人材競争力のランキングについて、スイスの人材サービス最大手のアデコとフランスやシンガポールで経営大学院を運営するインシアドなどが共同で算出し、発表しました。今年で3回目ということです。調査対象は109か国。有能な人材を持つ国ごとに評価した2015~2016年版の「世界人材競争力指数」で、日本は総合指数が19位と報じています。

 この調査は、グローバル企業の人材獲得に当たり、優秀な人材を集めやすい国を選ぶ目的で作られた側面があるといわれています。今回のランキングでは1位から10位までは次のようになっています。スイス、シンガポール、ルクセンブルク、米国、デンマーク、スウェーデン、英国、ノルウエー、カナダ、フィンランド等になっていまして、日本は19位、マレーシア30位、韓国37位、中国48位となっています。上位は北欧や英語圏などですが、調査項目は多様で、労働時間やワーク・ライフバランス、ビジネスのしやすさ政治の安定性、人材をひきつける力、人材の多様性、高度な教育、労働生産性など多様で、日本の個別項目では「競争の厳しさ」や「技術の活用」が世界1位と高評価でしたが、人材を引き付ける魅力に乏しく「外国人労働者」が75位、「男女の収入格差」76位と厳しい評価になっています。
 「技術の活用」は理解できますが「競争の厳しさ」の1位は、年功的処遇で長い期間競争状態にあることを指しているのか、詳細の内容が不明ですのでどのような点を評価しているのか知りたいところです。「外国人労働者」と「男女格差の問題」は、今後の日本の大きな課題であり、今後どのような対応をするのか、現在は、高度専門能力を保有する外国人の受けいれを実施していますが、今後はそれ以外も含めて外国人の受け入れについてどのように対応するのか、また、女性の有効活用も絡めて男女格差の問題は、政府の一億層活躍の方針との絡みで均等・均衡処遇実現への早急なる対応が求められます。

 日本の政財界は人材立国日本、高度な専門能力を持つ人の移住、国際社会に通用する人材育成に力を入れていますが、仕事の仕方や処遇等も含めて日本に対する世界の見る目は厳しくなっています。今後とも日本の良さを生かしつつ、移住に当たっての環境整備や働き方、企業の処遇制度の抜本的見直しを行うなどの対応策を早急に整備し、目標を実現することが求められます。
 個々の企業は、グローバルに経営展開をしないと勝ち残っていくことは難しく、グローバル人材の確保・育成・活用・処遇等に関心が高くなっていますが、まだ十分ではなく、いろいろ課題があります。

 日本経団連が大企業におけるグローバル経営上の課題についての調査(2015年3月)を見ますと、「本社でのグローバル人材育成が海外事業展開のスピードに追い付いていない」が最も多く、次いで「海外拠点の幹部層の確保・定着」、「経営幹部層におけるグローバルに活躍できる人材不足」、「世界中の拠点から人材の選抜・配置・異動によるグローバル最適の人材配置」「本社側の海外現地事業に関する理解不足」「グループ全体への企業理念・経営ビジョンの浸透」、「グループ企業の人材データーベースの構築と人事・評価制度のグローバル共通化」等が上がっています。いずれも重要な問題で経営の要であるある人材が絡んだ課題です。大手企業の一部では国内外のグループ企業の人材のデータベース化や評価制度の共通化を整備し、実際に運用していますが、上記の課題を早急な解決し、グローバル経営がスムースに展開されることが企業の競争力、収益力に直結しますので早急なる対応が求められます。
 このようなことは大企業だけでなく、中堅・中小企業でも制度のしくみの精粗はあっても対応していく課題ですので、自社の実態を踏まえた効果的な人材確保・育成・活用・処遇等を考え、対応することが求められます。