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わが国の企業経営と人材の関係をどのように考え対応するか その4 管理職・経営幹部の人材育成

                                          MMC総研代表 小柳勝二郎

 企業が成長・発展するためには経営トップの経営戦略や取締役等の見識や判断力等が最も重要ですが、それを実務として支える部課長の管理職が優秀でなければ、それを実現することは難しいでしょう。
 優秀な部課長の多い企業は底力がありますし、その中から将来の取締役を選ぶなど経営のトップ層が形成されることになります。
 日本の企業の採用がすでにみてきたように新規学卒者が中心で、企業内のジョブ・ローテイションを通じて育成・昇進させていますので、企業は、管理職ポストに相応しい人材を登用するように常に努力しています。

 企業の管理職育成・登用方針を「人材マネジメントのあり方に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2014年)で見ますと「内部育成・昇進重視」、「どちらかというと内部育成・昇進重視」が規模・業種系の合計で約7割となっています。その他「何とも言えない」、「どちらかというと経験人材の外部調達を重視」、「経験人材の外部調達の重視」が約3割で、その内、経験人材の外部調達は1割弱となっています。規模が大きくなるにしたがって内部育成・昇進重視が高く、規模が小さくなると「経験人材の外部調達」が若干増えますが、規模・業種を問わず内部労働市場型の人材マネジメントを重視する企業が多くなっています。

 外部労働市場から「経験人材を調達する」業種を見ると「医療・福祉」、「情報通信」がありますが、その比率も小さく、日本企業の管理職の育成・登用方針は、経営のグローバル化や人事の多様化と言われていますが、最近でも内部労働市場重視の実態であることが分かります。
 最近いろいろなデータを見ると、将来の経営幹部を目指す課長職は、忙しく、「部下の指導・育成する時間がない」、「業務の高度・効率化を検討する時間がなく、当面の仕事に追われている」などの点が問題になっています。その背景として、総じて「企業全体の業務が増加しているが各職場の人員が抑えられている」とか、「プレイングマネジャーが求められ担当業務が多くなっている」、「管理職は成果重視が強まり、自分の成果を高めることも求められる」など、管理職の仕事環境が大きく変わっているのにそれへの対応ができていないなどの点があげられます。

 一方、労働政策研究・研修機構の「人材マネジメントのあり方に関する調査(2014年)では、企業が管理職(課長だけではなく部長も含めた管理職のくくりになっています)自体の能力や資質について次のような点も指摘しています。
 管理職に不足している能力として「部下や後継者の指導・育成力(傾聴・対話力)が最も多く、次いで「リーダーシップ、統率・実行力」、「新たな事業や戦略プロジェクト等の企画・立案力」「組織の活性化を促す動機づけ力」、「日常的な業務管理・統率力(業務配分、進捗管理)、「経営方針や事業計画等の理解、説明、伝達力」となっています。
 忙しいので能力が高められないのか、能力不足が原因で効果的に仕事がこなせず忙しいのか、鶏が先か卵が先かのような話になりますが、働く時間に多少余裕時間があれば能力を高めて指摘されているような点をこなすこともできます。また、能力が高ければ仕事のスピードは高まり、効果的な時間配分でいろんな仕事が出来るはずとの言い分もあります。

 会社が成長する過程では仕事量が増加するのが一般的ですので人員の増加をしないで従来通りの仕事を続ければ忙しくなるのは当然ということになります。各人の仕事の内容を常に検討・見直して、仕事のプライオリティーを決めて仕事の高度化や効率化を図るとともに仕事の廃止、縮小、部下への権限移譲を行って時間を有効に活用し、各人が能力を高めて生産性を上げるよう努力をすることです。日本企業の事務部門の生産性が低いことが問題になっていますのでIT関連投資を行い、効率的な業務遂行で生産性を高めることも必要です。それでも業務増に対応できなければ人員を増加し、時間の余裕が少し出るくらいの中で、今後の会社のあり方を多くの職場で真剣に検討し、方向性を共有しながら会社運営をすれば、会社の持続的成長・発展を推進していくことが可能になります。

 次世代の経営幹部をどのように育成するかということも最近大きな関心事項になっています。大企業も含めて経営トップは若返りの方向にあります。それは経済がグローバル化し活動範囲が大きく広がったこと、経営環境の変化が早くそれに対応する感性や行動力が求められていること、IT活用時代を迎え、経営のスピードが求められるようになったこと等が考えられます。かなり前になりますが、あるグローバル企業のトップと雑談した時、私が50歳の後半くらいに経営トップになっていたらもっとハードスケジュールでも海外ビジネスができたと思うが60歳後半に世界を飛び回ると疲れが出るようになるとの話を聞いたことがあります。欧米は、半日くらい飛行機に乗っていなければならないし、以前は今日のように便数も少なく、海外出張はそれなりに大変であったと思います。

 経営幹部は急には育成できないので経営トップは、若いうちからいろんな実戦経験をさせグローバル競争を勝ち抜くためのリーダー人材を育てたいと思っています。
 各社の育成の方法を見ると各社各様ですが、基本的には将来の幹部候補生ですから、それを担いそうな人材を選抜して教育することになります。選抜の年代は早い企業で30台の後半という企業もありますが、多くは40歳代の課長、次長、部長クラスが対象になっています。企業内に“経営塾”を設置し、できるだけ多くの人に機会を与えるためにまずは課長以上から主な人材を選抜して1年間勉強し、翌年また新たに選抜して1年間勉強し、2ないし3年でメンバーを絞り込み、継続的に多少のメンバーを入れ替え、緊張感を持たせつつメンバーを固めて教育している企業もあります。企業経営は実際の業務を通して学ぶことが多く、そういう意味では、選抜メンバーにはいろんな経験をさせるために国内外を含めた配置転換が有効としています。会社で問題を抱えている部門の立て直し、国内外の子会社経営の経験、解決困難な課題に挑戦させ、鍛えることが大事な育成策であるとしています。経営塾の年間のカルキュラムは、座学の研修や著名な経営者の講演等経営幹部としての知識、心構え、文化的知識、人間性などを身に付けるように組み立てられています。ある経営者は、修羅場を経験させ、視野が広く、精神力や忍耐力が強く、逃げないでやり抜く人材を育てたいとしています。