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唯一祝日のない6月に労働時間短縮を想い巡らす

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 部屋の整理をしていたら、筆者の小学生時代の夏休みの宿題と思われる卓上暦が出てきました。筆者自身の記憶にはほとんど無いのですが、昭和30年代のその暦に記入された祝日を数えてみると、祝日はなんと9日しかなく、正月元旦、成人の日1/15、春分の日、(昭和)天皇誕生日4/29、憲法記念日5/3、子供の日5/5、秋分の日、文化の日11/3、勤労感謝の日11/23だけで、祝日の無い月は、2月、6月、7月、8月、9月、10月、12月と7カ月もあったことが伺われます。

 厚生労働省発表の「毎月勤労統計調査」による推移図表によれば、昭和30年の労働者1人平均年間総実労働時間(事業規模30人以上)は、所定内2,150時間+所定外206時間=総実労働時間2,356時間であり、これが岩戸景気のためか昭和35年の同年間総実労働時間は、所定内2,164時間+所定外262時間=2,426時間となったと記録されています。 当時は、所定内、所定外ともに増加させて好景気の業務量増大に対処したのだろうか?と想像したりすることができます。
 大ざっぱな計算シミュレーションをしてみると、当時の所定内労働時間は、1年365日のうち月~金の平日が5日×52週で260日。そこから当時の祝日日数9日と正月盆休み等5日の計14日を引くと8時間勤務日が246日で、246日×8時間=1,968時間、これに「半ドン」の土曜52日間×4時間=208時間を加えると、2,176時間というところが(当時のパート労働比率がどのくらいあったのか等、緻密に計算すれば多少は異なるとは思いますが)、当時の「働く時間」の姿であったのではないかと思います。

 翻って現在、この8月に「山の日」という祝日が増設され年間の祝日数が50年前の倍近くとなり、週休2日制も相当普及した前提で机上で計算してみると、1日8時間(週40時間)で、週休2日、祝日16日、年休20日を取得すれば、年間所定内の実労働時間は約1800時間になります。少なくとも祝日が9日から16日に増加したことにより、金融機関や大手企業の所定内労働時間短縮には56時間くらい貢献したのだろうと推理します。

 そしてさらに厚生労働省による毎月勤労統計調査の平成27 年分結果確報を見ると、年間総実労働時間(年平均の月間総実労働時間を12 倍して年換算したもの)は、1,734 時間となったとされ、一瞬「働き過ぎの日本人は過去のもの?」と錯覚してしまいます。
 しかしこのデータには「常用雇用パート労働者」が含まれているわけですから、ちっとも喜べる数値ではありません。もしそうなら「かとく(過重労働撲滅特別対策班)」が労働局に設置されるはずがありません。上記確報の「就業形態別月間労働時間及び出勤日数」を見ると、30%を超えるパートタイム労働者を除く一般労働者の月間所定内労働時間は154.3時間とされていますから、これを12倍した1851.6時間が、昨年のフルタイム労働者の所定内労働時間だと言っていいように思います。この間ずっと目標にしてきた「1800時間」には、まだまだたどり着いていない実態が、データからも浮かんできます。

 これからの労働時間短縮は、今まで同様「時間外労働の削減」「所定内労働時間の短縮」によることになると思いますが、その具体策として一番手近にあるのは「年休の計画的取得」ではないかと考えます。あと1週間(7日)の年休取得で56時間の労働時間短縮ができ、前述の1851.6から56時間を引けば、やっと念願の1800時間に手が届くのではないでしょうか。

 時間外労働に目を向ければ、平成27年版「労働経済の分析」(労働経済白書)においても、人口減少社会において就労参加を促すには、長時間労働の是正等、働き方の見直しが必要となることを謳っています。さらに、所定外労働が発生する理由として、労使双方で、業務の繁閑、人手不足、顧客対応等を挙げていますが、この他、企業側は労働者の能力、技術不足、労働者側は納得できるまで仕上げたいとの回答も多いとし、所定外労働時間の削減に取組み、短縮した企業では、実態把握、注意喚起、仕事の内容、分担の見直し、トップの呼び掛け等を行っており、そうした企業ほど、自社の労働生産性は同業他社に比べて高いと認識する傾向があると、指摘しています。

 うっとうしい梅雨空の下6月にも例えば‘時の記念日’といった祝日があればと思う一方、6月にも祝日を設定することは、金融機関や一部の大手製造業の所定内労働時間短縮にはなったとしても、これだけ三次産業化が進んだ今では、祝日増は昔ほど日本中の労働者の所定内労働短縮にはつながらないのではないか、結局のところ労使の真摯な話し合いと生産性向上によって一歩ずつ進めることが一番の近道ではないかと考えたりもします。
 最近でこそ非正規労働者の組織化の動きも活発になってきたように思いますが、なんとしても現在の組織率では「社会を動かす労使関係」ではなく、まだ「大企業を動かす労使関係」の段階だと思います。劣悪な労働条件のために過労死を出してしまった飲食店チェーンの労働組合結成の報道に接し、「遅すぎたがこれからを見守りたい」と思いつつ、間違っても「残業をしない(できない)パート労働が増えたから、結局正社員が残業して仕事を処理しなければ」という隘路にはまってはならないと心配します。これほど祝日が増え、労働時間短縮が進んだように見えても、過労死や長時間労働による健康問題の不安が高まる一方なのは、何が問題なのかと考えてしまうのです。

以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)