労働あ・ら・かると
日本に住む魅力とは
東京パブリック法律事務所 外国人・国際部門
弁護士 尾家康介
報道によれば、日本政府は、外国人の「高度人材」について、現在よりも永住許可の取得を容易にするなどして、外国人が日本に住みやすいように仕組みを変えていくという。日本経済に活力を入れることが狙いである。
しかしながら、日本にいる外国人の支援に日常的に携わっている立場からすると、在留資格や永住許可の問題は、日本の住みやすさ(住む場所としての魅力)の重要な前提ではあるものの、日本が住みやすいというためには、解消しなければならない数多くの問題があると指摘したい。
例えば、外国人が家を借りるのは、(永住許可を持っていたとしても)時として非常に困難である。私自身、永住許可を持つ外国人が賃貸の自宅を探すのを手伝ったことがあるが、「外国人には貸さない」という家主は多かったし、貸す場合でも保証人として日本人が必要、というところもあった。誰に家を貸すかは家主の自由ではあるが、「外国人」というだけで家探しが極端に難しくなる現状は、差別とどう違うのか、愕然とした記憶がある(外国人だとわかると、まったく家探しに協力してくれない不動産屋もあった)。
また、日本語ができない外国人にとっては、日本で行わなければならない行政手続の多くは困難を極める。日本人と同じ手続をしようとしても、外国人というだけで必要書類や手続きが複雑になる傾向があるが、そればかりでなく、行政手続の多くが本人からの「申請」を前提としており、日本語で申請用紙に記入しなければならないことも多く、かなりの日本語力が必要になる。「役所から手紙が来たが、何が書いてあるかわからない」、「自分が言いたいことが役所の人に伝わらない」といった相談を外国人からよく受ける。これらは法律相談ではないが、外国人にとっても、どこに相談して良いかわからないから、私たちのところに来るのである。
さらに、子どもの教育の問題も深刻である。外国人は義務教育の対象ではないとの建前が取られる一方で、外国人学校は「各種学校」もしくは何らの資格のない学校とされ、進学の点でも不利益がありうる。また、奨学金には在留資格上の制限がある例もある。外国につながる子どもたちへの学習支援が盛んに行われているが、民間任せのきらいがある。
「高度人材」の永住許可を緩和するという方針の一方で、非熟練労働外国人の受入れ議論の中では、日本の住みやすさについての議論はなされていないどころか、むしろ、外国人の「定住化」は慎重に避けられているようである。技能実習制度の拡大や、国家戦略特区による家事支援人材の受入れなど、いずれも、短期ローテーションでの受入れを前提とした制度になっている。これらの分野では、外国人が日本に来る目的の大部分は自国との経済格差(日本で働いた方が儲かる)にあると思われるが、技能実習生の送出し国が中国からベトナムにシフトしていることからもわかるように、経済格差はやがて小さくなっていくのであり、「日本で働いた方が儲かる」という国はどんどん少なくなっていくであろう。
「永住権が取りやすいから」という理由で移住先を選ぶ人は少ないであろう。そして経済格差は縮まっていく。永住許可の問題は、あくまで前提問題であって、その先に、住む場所としての魅力がなければ、日本に住もうとは思わないであろう。そのために乗り越えていくべき課題は多い。