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人材ビジネス いろはかるた2017

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

明けましておめでとうございます。
毎年同じことを申し上げて恐縮ですが、被災後6度目の冬の中、徐々に復興が進んでいるとはいえ、
未だ故郷に帰還できない大震災・原発事故被災者の方々、福島にて被曝の危険の中、黙々と廃炉作業等に従事している方々、
日本各地での地震・大火といった天災に遭われた方々、戦乱や困窮の中にある世界中の人びとに思いを寄せながら、
新年のご挨拶を申し上げます。
2013年2014年2015年2016年と、毎年恒例の「人材ビジネスいろはかるた」ですが、
5年目の今年も「人材ビジネスいろはかるた2017」として続けたいと思います。

け 芸は身を助く
一つでも芸を見につけておくと、何かの時に役立つという意味。集団就職の時代から今日に至るまで、
地方から上京上阪して就職する若者に「地方芸」を教えて見送ることがあるそうです。
島根出身者は安木節を、徳島出身者は阿波踊りを覚えて、宴会の時に先輩から「何か芸を」と言われたときに
困らないようにと配慮した時代が懐かしく想えます。
でも今は会社を挙げて温泉旅行などなくなったのでしょうね。
グローバルな今の時代は、簡単なコップや硬貨を使ったテーブルマジックなどを身につけておくと、良いかもしれません。
しかし「芸は身の仇」(習い覚えた芸があるため、かえって身を誤ることがあるという意)とも言うそうですし、
そもそも芸に頼るようでは追い詰められている状況なのでは?という見方もあり、そう世の中簡単ではなさそうです。
Learn a trade, for the time will come when you shall need it.

ふ  武士は食わねど高楊枝
武士は、たとえ貧しさで物が食えなくても楊枝を使って満腹のふりをすると、
生活に窮しても不義や恥ずべきことを行なわない気位高さを言うという説と、
見栄っ張り・やせ我慢を揶揄しているとの見方もあります。
しかし格差社会の到来の中で、「そんな理屈は、明日の飯を満足に食べられる貧しさを知らない連中だから言えるのだ。」
という声がWebを駆け巡り、一方で「貧すれば鈍する。」「衣食足りて礼節を知る。」という声がかき消されがちな昨今、
このセリフには庶民から見た武士へのやや軽蔑の気持ちも含まれているという解釈のほうが優勢なのでしょうね。
Eagles eat no flies.

こ  呉越同舟
元々は、孫子が、呉と越の敵対する国の人が同じ船に乗り嵐に出合ったとき、敵味方が協力して水を掻き出し、
困難を乗り切るという団結心を説いたものだそうです。
筆者の勤務先もそうですが、様々な「業界団体」には多かれ少なかれこのような要素があるように思います。
「業界全体、社会貢献の視野を持って共に強調することの大事さ」と共に、
「共通の公正なルールの下に創意工夫をもって競争する健全さ」を維持したいものですが、
「抜け駆け」「勝ち逃げ」を許さない社会全体の健全な感覚が何より重要なようにも思います。
Bitter enemies in the same boat

え  縁は異なもの味なもの
本来は男女の縁について、非常に不思議でおもしろいものだということを言ったそうですが、
人材紹介ビジネスの世界に長く身を置いていると、仕事と人材の関係についても「縁」としか説明できない場面にも
多々遭遇します。
若いうちに花咲いて社長に上り詰めても晩節を汚してしまう方、
何度も挫折しながらも人の縁を大切にしたおかげで晩年世界から評価された研究者の方、
読者もそれぞれ思い浮かべる報道記事があるでしょう。
でも努力・根気と、人を好きになる心・センスがなければ、折角の縁も活かせずに出会いの中にある
セレンディピティ(偶然の発見により幸運をつかみ取る)にも気づかないでいて、実にもったいないと思うこともあります。
Marriages are made in heaven.

て  出る杭は打たれる
本来、頭が良く優秀なのに、それに気づかない上司や企業風土の中で悶々とする人材と面談した際に、
人材コンサルタントがよく使う台詞です。
今や有名ブロガーとなった某氏が、若い頃、勤務先の上司から、その奔放な発想や言動について
「君が『出る杭』なら打ちようもあるが、『抜けてしまって飛び回る杭』では打ちようがない。」と言われたエピソードを思い出します。
「打たれても打たれても伸びようとする杭」を組織内でどう活かすのかという発想がなければイノベーションは起こせません。
一方で「しっかりと基礎の岩盤に打ち込まれて踏ん張る杭」との組み合わせも必要です。
「何しろ杭の高さを揃える」時代から「多様な働きをする杭を組み合わせる」人事マネジメントの時代になっています。
Envy is the companion of honour.

あ  会うは別れの始め
大昔漢文の授業で、「会者離之始」について「無常と無情は異なるものだ。」と先生から教わった記憶があります。
この春晴れて学校を卒業して企業の入社式に臨む諸君には厳しい言葉かもしれませんが、
仕事に就くときの「雇用の始まり」の先には、いずれ「雇用の終了」があります。
それが定年退職のこともあるでしょうし、さらにキャリアアップ・ステップアップを目指しての転職のこともあるでしょう。
老いて引退するとき以外は「雇用の終了」の先に「次の雇用の始まり」が見えていたほうがストレスは少ないのは自明です。
できれば「失業なき労働移動」ということで在職中に転職先を見つけること、
それには民間人材紹介業を利用されることをお勧めいたします。
また大切なのは「会っている間をどう過ごすか」です。
また老いて引退しても、ボランティアという「仕事」がある老人の顔は輝いて見えます。
最悪なのは自分を見失い、過労によって心を壊したり命を失う「雇用の終了」で、これこそ無情なことです。
「理不尽」に対して声を上げることを忘れてはなりません。
We never meet without a parting.

さ  三十六計逃げるに如かず
昨年は悲しいことに、東京と大阪の労働局に設置された「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)活躍の報道が目立つ年でした。
もちろんパソコンに保存された労働時間のデータを改ざんするなど、
悪質な事例を見抜く高い専門性を持つ労働基準監督官の努力には頭が下がりますが、
東京7名大阪6名の人数(スタート時)では担当官の過労も心配になります。
来年度多少増員したとしても、所轄の事業所数を思い浮かべると、とてもじゃありませんが個々の摘発が
追いつくはずがありません。
「一罰百戒」的な取り締まりにならざるを得ない現実を考えると、悔しいことではありますが、
一人ひとりの労働者が身を守ろうとする場合、近くに信頼できる労働組合が無い場合には
「三十六計逃げるに如かず」も選択肢のひとつです。転職活動を始めてください。ご自分の転職先が決まったら、
他のその企業に働く方々のことを思って声を上げることも忘れずに。
The smartest thing in a tight situation is to beat a retreat

き  聞いて極楽見て地獄
今年は十数年ぶりの本格的な職業安定法改正の年になりそうです。
すでに昨年「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会」による報告書が6月に取りまとめられ、
労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会にて論議が行われ建議がなされています。
いくつか大きな改正点が予想されますが、その一つに「募集情報等提供事業」に対する規定の整備があります。
「募集情報について、より幅広い項目が示されるよう、業界団体等の自主的な取組を促進することが適当である。」としつつ、
職業安定法に基づく指針に具体的な措置を盛り込むということになりそうです。
誇大広告や虚偽広告は、第一義的には広告主(求人者)の責任事項ですが、
商品の誇大広告なら返品と言う手段もあるかもしれないものの、
転職・就職と言うやり直しのきかない事項の情報提供について、
求人広告掲載者も規制の対象とすることが、若者雇用促進法の求人企業の職場情報等の開示義務と相まって、
「人材の就職先選び」がより的確に行われるような流れを作り出すことにつながればよいと思います。
求人情報で聞いたことと、入社して実際に見ることの格差が「聞いて極楽見て地獄」にならないような時代の到来を願います。
A paradise on hearsay, a hell at sight.

以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)