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人材「広告」の本質は事実を正確に知らせること

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 第193回通常国会に提出され、今参議院でその審議の最終段階にさしかかっている「雇用保険法等の一部を改正する法律案」に含まれている職業安定法の大幅な改正案には、いくつかの柱がありますが、そのひとつに「求人情報サイト、求人情報誌などを、『募集情報等提供事業』と定義し、募集情報の適正化等のために講ずべき措置を指針(大臣告示)で定めることとするとともに、指導監督の規定を整備する。」というものがあります。

 従来求人広告を含めて「広告」というものは、表現の自由という考え方にもとづいて、その内容が不当表示や虚偽で人をだます主旨のものでなければ規制はなく、公序良俗に反しない限り原則として自由に行われてきました。過去、新聞、雑誌その他の刊行物による求人広告の掲載事業者は、忠実に掲載依頼者の意思に沿った内容を掲載して世間(募集対象者)に知らせることを第一義の本分とし、付随的に「効果的な表現」等について広告主に助言をするという構造だったと思います。

 ご存命であれば、ぜひ天野祐吉先生のコメントを伺いたいところではあるのですが、「広告」というとても奥深いものに、「募集条件の嘘偽りのない正確な伝達」という機能を重ねて考察すると、今回の法改正でよくも悪くも規制対象に明確にとりこまれた「求人広告業界」の方たちの責任はとても重いものがあると思います。
 もちろん虚偽広告や誇大広告というものがあっていいわけがありませんし、従来から法規制に拠らなくても自主基準として求人広告業界は、その会員の広告掲載内容を各求人メディアに掲載されている内容をチェックし、必要に応じて改善策の協議や個別フォローを実施するなど指導援助を行ってきました。また事後的にも求人広告を見て応募した人材、実際に就業した人材から、掲載されていた労働条件と、実際に就労した際の労働条件の差についての申し出について、求人メディアの協力を得て解決を図ってきています。

 しかしそれらのチェック作業も、「紙・誌」の時代は、一定程度の物量に対して人海戦術でこなしてきたものの、ITの進歩によって膨張した広告情報量の増加にどのように対処できるのか?という課題に直面していると思います。
 ITの進歩によって可能になった豊富な情報提供という側面と、アクセスする利用者が目的とする情報へのたどり着きやすさというものは二律背反してしまうわけで、ここにこそ本来の「広告関連職種のプロ」の方たちのノウハウが発揮されるべき場面でもあると思います。
 例えば定着率の悪さを公表しなければならない局面の募集者は、業界平均値と併せて表記するとか、現在改善の為に取っている施策を併記するというオーソドックスな手法が考えられます。

 そしてそもそもは、広告(募集情報)掲載者の問題ではなく、求人者自身がどのような労働環境で人材を受け入れ、どのような条件で働いてもらいたいのかを、自ら整理して判りやすく、今いる社員にも、これから一緒に働く社員にもオープンに示すことが、少子高齢化時代の人材確保の王道になっていくと考えます。

 しかし困ってしまうのは、「広告というものはシロをクロと思わせる表現が必要」だと頭から思い込んでいる人(募集者)がいることです。今年度の新卒求人募集においても、数が減ったとはいえ適切とは言えない固定残業代表記が残っていると、国会でも指摘されています。
 例えばA社は「新卒初任給20万円/別途営業職には営業手当あり/他に諸手当」という表記をし、B社は「新卒初任給35万円(一部残業代・手当含む)」という表記をしたときに、B社のほうが応募者が多くなる(と思い込んでいる?)状態が変わらない限り、悪質な求人は無くならないという不安は払しょくできません。
 広告業界の方々が、これまで優れたキャッチコピーによって商品の良い面の理解を広げてきたと認めるのですが、こと「募集広告」「求人広告」となると「良い面だけを誇張する」のではない事実に立脚した職場の現状を、「客観的なデータをもって示す」ことの重要性がますます増すと思います。

 なにより、人材の方々が賢く求人条件を見抜き、その情報を掲載する情報提供事業者も、そのしごとを紹介するハローワークや職業紹介事業者も「物事の両面」をバランスよく見抜いて整理し、応募人材に伝える姿勢が求められる、そういう時代になっていくのではないかと思います。

以上

 (注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)