労働あ・ら・かると
試用期間を終えようとしている新入社員の方々へ
一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二
先々月のこのコラムで、就業規則のことについて触れたところ、思わぬ多くの反響をいただきましたので、今月も今春の新入社員の方々を念頭に、就業規則 には必ずと言っていいほど記載のある「試用期間」のことについてお話ししようと思います。
JILPT(独立行政法人労働政策研究・研修機構)による2014年の調査では、86.9%の企業が試用期間を設定しており、規模が大きくなるほどその割合は高くなっています。そしてその長さは「3 ヵ月程度」が66.1%ともっとも割合が高く、次いで「6ヵ月程度」が18.3%、「2ヵ月程度」が8.4%などとなっているので、多くの今春新入社員がこの6月末に「本採用」になるわけです。
「えっ。今までは『試されて』いたの?」と思う方もいるかもしれませんが、事実はそうなのです。しかも企業によっては「6ヵ月以上(「6ヵ月程度」「7ヵ月程度~1年程度」「1年超」の合計)」とするところもあり、これも新卒採用の場合で19.8%の企業がその長さの試用期間を設定しているというのが調査結果です。
みなさんには「職業選択の自由」があり、企業にも「採用の自由」があります。もちろん「自由」といっても、他人に迷惑をかけたり秩序を乱す自由の主張や、基本的人権を蹂躙するような採用の自由が許されるわけではありませんが、その「職業選択の自由」と「採用の自由」の中で企業と人材が出会って、縁あって「あなたを雇います。賃金を払うから指示に従って働いてください。」「一生懸命働きますから、きちんと賃金を支払ってください。」という関係になったのですから、その「雇用関係」を大事に働いてほしいと思うわけです。
「お試し」と言っても、もちろん余程のことがなければ本採用になるのでしょうが、雇う側からすれば、採用選考の段階では見抜けなかったような能力不足、適性不一致が、数カ月の試用期間中一緒に働いている中で表面化してくれば、まだ「終身雇用」の文化が残っていればいるほど、「本採用しない」という判断をすることがあるわけです。ミスマッチを引きずらないための制度でもある「お試し期間」を無事通過したのですから、本採用されたら更に自信をもって仕事に邁進していただきたいとも思うわけです。ユニオンショップの労働組合がある企業では、試用期間が終わると原則組合員になるケースも多く、「ただ試されてきた立場」と異なり、会社と対等に交渉する組合員になった自覚も持って欲しいとも思います。
もし「本採用しない」と言われた場合は、正当な理由なのかどうか、労働局や弁護士さんにすぐ相談することをお勧めします。
「えっ。ウチの試用期間は1年以上だってさ。」という方はどうすべきでしょうか。試用期間が採用選考の段階では判らない業務遂行能力や適性を見定める性格をもっているわけですから、職種や業界によって、必要な長さも異なってくると思います。もっとも1年を超える不当に長い試用期間は「公序良俗に反する」として無効だとの裁判例もありますので、実情をよく見定めて、それが「人材の使い捨て」が疑われるような制度の場合は、さっさと転職活動を始めましょう。「入社してみたら試用期間が1年を超えていて、とても人材を大事にする会社とは思えない。」という転職動機は、次の応募先の面接官に充分な説得力を持つと思います。
中途採用の場合の試用期間も、前述の調査ではその長さは、「3ヵ月程度」が65.7%ともっとも多く、次いで、「6ヵ月程度」が16.5%、「2ヵ月程度」が8.3%などとなっていて、新卒対象と大きくは変わりません。もしあなたがアルバイトから本採用になったりした場合、また有期契約を反復継続して無期雇用に転換した場合、長期間アルバイトや派遣社員で働いていた人を、そのまま同じ業務を行う正社員として採用する場合、すでに長期にわたる勤務状況がありすでに適性や能力は判断できているとされて、正社員登用時にあらためて試用期間を設ける必要はないと判断された裁判例もあることは、心の隅にしっかり刻んでおきましょう。
試用期間について、企業側が正しく理解していない場合もあるかもしれません。事前に就業規則や労働条件通知書の記載を確認し、不当でないかを自ら判断できるよう、知識を持っておくことが大事です。試用期間のことに限らず、厚生労働省の作成した「これってあり?~まんが知って役立つ労働法Q&A~」には目を通しておいてください。
4月にも申し上げたことですが、これらの知識は自分を守るだけでなく、将来あなたが将来管理職となって部下を監督する立場になった時にも、起業するなり、入社した会社の社長あるいは関連会社の社長となって「人材を雇う」立場になった時にも必要な知識なのです。
「働き方改革」のうねりが大きくなっている今の時代に、無事試用期間を通過して「本採用」になったみなさんが、正しいルールの下一生懸命働くことで社会に貢献することを何より願ってやまないのです。
そして採用担当の皆さんへ。もし万一残念ながら試用期間を経て本採用しない事例がでてしまったら、それは採用選考時に「人材を見抜く力」が不足していたのだという見方もできます。厳しい言い方かもしれませんが、時間と労力と経費をかけてやっと採用した人材を放り出すということは、単なる無駄をしてしまったということだけでなく、貴社に悪い印象を持った人を輩出してしまったということを肝に銘じておく必要がありそうです。
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)