労働あ・ら・かると
職場情報総合サイトへの期待と懸念
一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二
厚生労働省は、9月28日に「職場情報総合サイト」を立ち上げると公表しています。
このサイトには、各企業の採用状況や実際の職場での働き方のデータが掲載・公表されることが予定され、すでに職場状況開示に積極的な企業の入力作業が始められています。
昨2017/平成29年の職業安定法改正は、求人者、求人情報提供事業者をその規制対象として明確化した点が大変大きな点だと思います。
長時間労働の是正や、少子高齢化社会の到来に備えた柔軟で多様な働き方の実現が社会的な課題となる中、「一億総活躍社会」の実現のための「働き方改革」政策には、雇用主の職場情報を透明に公開し、その労務管理が適切健全な企業は必要とする人材が確保でき、人材を使い捨てにするような「いわゆるブラック企業」に対しては「人材兵糧攻め」と呼びたくなるような、ハローワークや民間人材会社での「求人不受理」の取り扱いをすることなどが盛り込まれています。
すでに2015(平成27)年に公布された「青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)」によって、学校卒業見込者等であることを条件とした労働者募集において、適職選択のための取組促進が始まっており、一昨年(2016/平成28年)3月からは、ハローワークにおける「いわゆるブラック企業(一定の労働関係法令に違反し、違法な長時間労働をくり返しているとして公表された場合、対象条項違反により送検され公表された場合など)」からの求人を、新卒者などに紹介することのないよう一定期間受け付けない仕組みが作られてその運用が始まっており、民間職業紹介事業者等においても同様な取扱いをすることが望ましいとされて普及しつつあるところです。
現時点では「若者の募集採用」が対象となっているこの「ブラック企業からの求人不受理」施策は、今回の職業安定法改正により、2020年3月末までにはすべての求人を対象とする条項も施行されることになっていますが、何とも「悪徳企業を叩く」という側面が目立ってしまっており、「人材を大切にする企業」の認定制度である「ユースエール認定制度」など、「良い会社にスポットライトを当てる」方策の方は、残念ながら影が薄い印象も無きにしも非ずです。
今回開設される「職場情報総合サイト」には、これでもかという位の項目が入力公開されるように設計されており、「採用状況」「働き方(勤務実態)」「育児・仕事の両立」「能力開発」など多岐にわたるデータが、社会に広く公表されることが期待されています。
従来就職活動をする学生さんたちの中には、「その会社の採用ホームページには、都合の悪いことは書いていない。」という声が少なからずあり、一定の信頼できる編集を経た「就職四季報」を見たり、信頼性に危うさがある「口コミサイト」を閲覧したりして、応募先を選択している方がたくさんいらっしゃるわけですが、応募先の的を絞った就活生が、この「職場情報サービスサイト」で対象企業の働く環境について、信頼できるさまざまな情報を得ることができるようになることは、素晴らしいことだと思います。労働力人口が減少する中で「選ばれる立場」になりつつある企業にとっても、日常の労務管理をより健全なものにしていくことが求められることになるわけですし、それは今勤務中の社員にとってもプラスに働くだろうと期待します。
しかし一方で懸念がないわけではありません。今回の職業安定法改正で、虚偽求人への罰則など求人者への規制も強化されたものの、その普及は今一つ進んでおらず、民間人材紹介会社の方から小職に対しても、「法に触れるような内容の含まれる求人について、修正をお願いしたら『そんなウルさいことを言うのならおたくには求人しない。』と言われた。」とか、「求人内容をいちいち書面にして提出しろ(職業安定法第5条の3に明記されている義務)など聞いたことが無い。」と言う求人者に振り回される話が、多々寄せられています。
このような情報集約サイトは、そこに入力掲載される情報が多くて信頼できるものであり、検索しやすい使い勝手の良いものでないと、国民からそっぽを向かれかねません。前述のような「困った求人者」はこのようなサイトに情報を掲載せず、結果として淘汰されることを視野に入れての開設でしょうが、良心的な職場作りをしている企業でも、操作が面倒であれば、入力公開作業は後回しになってしまうおそれがあります。
またこのサイトへの記載内容が虚偽であったり誇大だった時に、法律上違法だとしても、どのような要員がどのように実際に取り締まるのでしょうか。
このサイトに情報を公表しようとしても、すでに「若者雇用促進総合サイト」「女性の活躍推進企業データベース」「両立支援のひろば」の既存サイトのいずれかに情報を掲載している企業でないとは公開されないとの記述もあり、使い勝手の悪いものであったら、おそらく多額の予算を費消して開設するこのサイトは、極めて少数の情報や、更新されない古い情報が一回掲載されただけのような末路につながってしまうのではないかとの懸念もぬぐえません。これが杞憂に終わることを願っています。
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)