労働あ・ら・かると
入管法改正をめぐって―その1
武蔵大学 客員教授 北浦 正行
入管法の改正が今国会の最大の焦点となっている。衆議院を通過して参議院段階での審議であるが、野党の強力な反対姿勢に対し、会期末までの採決に与党の姿勢は強硬である。新たな在留資格として、通算5年の「特定技能1号」と、その後に続く家族帯同も認める「特定技能2号」を創設するものだが、いくつかの素朴な疑問を感じる。
第一に、「単純労働」の解禁を図るものではないことだが、そのような受け止めが相変わらず多い。しかし、特定技能1号は入国要件に「一定の技能」を掲げているから、決して単純労働者ではない。技能実習制度の第2号修了者は無試験で特定技能に移行させるというのだから、その技能レベルは技能検定3級程度となるはずだ。つまり、専門高校卒の就職者に相当するということである。おそらく技能実習でも実質的に軽作業に携える事例も見られることが、その誤解を生む理由だろう。
だから、予定されている業種ごとに、どういう機関によって認定試験が作られるかが「入り口」として大きいはずだが、この点はまだ見えない。しかも、業種によってそのレベルをどう揃えるのか。任せきりでは、「一定技能」がバラバラになってしまう。また、その一方で、送出国でもそれだけの技能習得を行い、人材確保できるような体制が本当に作れるのか。
したがって、当面は技能実習制度からの移行で対応するという報道であるが、昨年創設されたばかりの第3号の実習(4―5年目)が空洞化することはないだろうか。また、送出国の人材を狙っているのは我が国ばかりではない。中国など近隣国はもちろん、欧州からも期待されており争奪戦になる職種もありそうだ。
第二に、人手不足を理由とすることの危うさだ。既に、入国に「上限」が設定されるかどうかや、国内情勢が変化した時は入国をどう止めるのかが問題になっている。この数量コントロールは極めて重要な問題だが、元々が業界の要望で作り上げたものだから歯止めは簡単ではない。そもそも入国のフィルタリングはできても、ひとたび在留資格を与えた者を本国に帰すのは難しい問題となるのではないか。それに、送出国でどんどん募集をかけていたとしたら、日本が入れないことについての批判も出ることも覚悟しなければならない。
第三に、この新制度の在留管理の主務官庁は「出入国在留管理庁」が担うことになっているが、関係省庁との連携体制づくりはこれからだ。就労という場面においては、実際のところ国内労働者と一緒にした形でハローワークや労働基準監督署などが対応せざるを得ない。これも誤解があって、今までの技能実習は労働ではないような言い方がされているが、これも入国時の集合研修期間を除けば、労働として取り扱うことになっている。おそらく実態としては違反事例が多いことから批判的な意見が強いのだろう。
要は、昨年の法制定で、この技能実習制度の縛りがきつくなったことが背景にあるのではないか。新制度は、教育研修も何もなしで働かせられるという期待があるのだろうが、日常生活上の支援は受け入れ機関の義務となるとはいえ、登録支援機関に委託も可能だという。この登録支援機関は一体どういうところがなり、しかも経済的に運営出来るのかどうかがまだ不透明だ。
(続く)