労働あ・ら・かると
今年の新卒採用を展望する
就職アナリスト 夏目孝吉
1.内定率5%は気にしない
昨年10月、経団連が新卒採用の指針を撤廃すると発表して以来、今年の新卒採用は早期化し、大いに乱れるとの報道がしきりだ。1月中旬に報じられた新聞報道でも「大学3年生、内定率はや5%インターンで前倒し」と報じられた。
だが、実際にそんなに早く進んでいるのか、このあとどう進展するのか展望してみよう。まず、内定率5%という大手就職情報会社の調査結果だが、学生たちが1月1日までに企業から内々定を受けた数字だという。これは、ほかの調査でも同様で、それぞれ昨年より速いペースで内定が進んでいると指摘している。
しかし、この時期、どの企業も内定通知を出すわけではないから学生の受けた感触や握手、言葉での通知を集計した数字と理解しておきたい。そして、その内々定を早期に出す業界、企業は毎年、変わらない。IT、サービス、中堅企業である。これらの企業は、遅くては応募者も来ない、早期に内定を出すことによって少しでも確保しておきたいという気持ちからの内々定である。だから指標になるかといえば、あまり意味はない。影響もない。
2.夏のインターンシップが就活の出発
今年の採用活動の前哨戦は、インターンシップの氾濫だった。ここ数年、インターンシップと採用活動のつながりは密接になっている。例えば、夏に開催されるインターンシップは、誰でもが参加できるのでなく、大学3年生が対象で、応募にあたっては、書類審査や選考があって選ばれる。とくに目に付くのが1dayインターンシップである。1日だけでは、会社説明会にすぎないといわれても仕方ないが、企業にとっては、回数も多く開催しやすい。学生にとっては、時間的な拘束も少なく、生の企業を知る貴重なチャンスだ。
今年は、こうした1dayインターンシップが夏から現在まで急増している。参加する学生は、大学3年生になった途端に就業体験だけでなく就職先として関心のある企業を数多く選ぶことになる。しかも、これらのインターンシップは採用と関連があると思わせるものが多く、学生たちは、数多くのインターンシップに参加することになった。これが学生の就活を大きく変えた。就活の出発点が大学3年生の夏からになってしまったのである。
3.インターンシップで囲い込み
昨年夏から現在まで学生はどう動いたのか、これも就職情報会社の調査だが、1月上旬までに学生が取り組んだ就職活動は、大学の就職ガイダンスや学内の就職講座に参加することに次いでインターンシップに参加という回答が多かった。学生の7割がインターンシップに参加したというから驚く。そしてその7割が1dayインターンシップだった。インターンシップだから当然、企業との接触はある。企業によってはグループディスカッションや面接もある。学生は選考されていることを意識せざるを得ない。だが、これは契機に過ぎない。
注目は、インターンシップの後である。それが現在である。いよいよ企業の採用事前活動が本格化するのだが、あらたな応募者のエントリーを受け付けたり、企業セミナーを開催したりする一方、企業は、すでにインターンシップに参加した者(高評価者)には、特別選考会、二次面接を案内している。今年はこの動きが激しく、いわゆる内定への囲い込みが継続的に行われている。多くの学生が、こうした状況なので他社にとっては、この囲い込みをどう破るかが現在の課題になっている。
4.流れは昨年並みに
このようにインターンシップなどに囲い込まれた学生が多いからといって企業が続々と早期に内定を出すかといえば、そうでもない。企業は、いつでも内定を出せる状態だが、決定とはいかない。学生の入社意思確認だけでなく、大手企業、就職人気企業の流れをにらんでいる(これは学生も同じ)。この流れに準じて内定ピークが形成されるからだ。とくに今年は、金融業界の準総合職や一般職の採用計画が流動的なことが気がかりだ。ここがはっきりしないと企業も学生も最終決断ができない。
そこで、今後の採用活動を予測してみよう。大手企業でも早期内定が少しは増えるだろうが、指針廃止を先取りした企業が増加して採用活動に大きな混乱が生じるというのは疑わしい。結局、多くの企業は、現在の指針のルールが最も合理的だという認識をしている。だから、3月1日からは、選考、面接が活発になるだろうが、内々定のレベルにとどまり、最後の詰めは昨年同様、大手企業の動きを見ながら5月下旬まで持ち越すことになるだろう。